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※お犬様


「徐庶殿、朔弥はいますか?」
「えっと…どうしたの?」
「髪を結ってもらいたくて。昨日結ってもらったら大兄上に褒められたの」

珍しい来客に徐庶は戸惑った。
本来ならばこんな所に用事も無いような存在が明るく徐庶の元にいる朔弥を訪ねてきたのだから。

「朔弥が、髪を?」
「はい。髪が解けて困っていたら朔弥が結ってくれたんです。それで今日も頼みたくて」
「でも…朔弥は今居ないんだ」
「お休みですか?具合が悪いのですか?」
「いや、ちょっと忘れ物をして取りに行ってもらってて…」

そうですか。と銀屏は肩を落とす。
余程朔弥から髪を結ってもらうのを楽しみにしていたらしい。いつも結わえている髪が全て下ろされ、遊んでいる。あの関羽がその様な格好を許すとはあまり思えないが、その目を掻い潜ってここまで来たと思うと少しだけ可愛らしい。
その手には結わえるための櫛だろうか、袋に入っているのが見える。

「しばらくしたら戻ると思うから、また来るといい」
「…………はい」
「………ここで、待つ?」
「いいんですか!」

ぱっと明るい顔を上げて喜ぶ。
失礼します!と元気な声で入室し、徐庶が「そこで待つといい」と腰掛を勧める。
そこにすとんと座って、銀屏はその部屋をぐるりと見回す。
銀屏だけではないが、それをやられると徐庶は少なからず緊張というか、変に勘ぐってしまう。
掃除は頼んであるから汚くはないはずだ。とか、朔弥の机の上に変なものはないよな。とか、簡素にしすぎて呆れられているのではないか。とか。

「お待たせいたしました。こちらお持ちいたしまし…」
「朔弥!おはようございます!!」
「関銀屏殿…おはよう、ございます…どうされたのですか」
「髪を朔弥に結ってもらいたいそうだよ………」
「はい!昨日朔弥に結ってもらったの、大兄上に褒めていただいたの!!」

招き入れてどのくらいの時間が経っただろうか。長いような、決して短くない時間。
朔弥が戻ると銀屏は待っていたのを隠す様子もなく喜んで持っていた袋を朔弥に差し出した。

「あ、あの…」
「昨日と同じに結ってもらいたくて」
「徐庶殿…」
「いいよ、やってさしあげて」

朔弥が何かもの言いたげな目で見ているが、徐庶にとっての問題は銀屏だ。
朔弥にはもう慣れているが、銀屏はまだまだ異質な存在であり、出来れば早くここから出て行ってもらいたい。あの法正よりも何十倍もマシだが、やはり慣れない。

「……では、失礼致します。昨日と同じでよろしいのですか?」
「あとね、髪飾りも持ってきたの。朔弥はどれがいいと思う?」
「そうですね、昨日と同じであれば…これなどどうでしょうか」
「うん。それつける」

朔弥は銀屏の背後にまわり、渡された櫛で髪をすいてから結い上げる動作に入る。
黒く艶やかな髪は朔弥によって纏め上げられ、いつも髪を垂らしていた銀屏の違う一面が出てくる様を見るのは存外面白い物だった。
結い上げられた髪に朔弥は器用にいつも結んでいた布を編み込ませて彩を加え、銀屏の持ってきた髪飾りを最後の仕上げに挿す。

「終わりましたが、これでよろしいですか?」
「待ってね。うん!ありがとう朔弥。大兄上褒めてくれるかな」
「よくお似合いです」
「ねえ朔弥、今度は私が結ってあげるね、約束!」

ありがとう!!と銀屏は朔弥から櫛と袋を返してもらうと風のように走り去る。

「…朔弥、器用なんだな」
「……ええ、ちょっと」
「朔弥も、あんなふうに髪を結えばいいのに」
「必要がありません」
「女の子じゃないか…」
「仕事の邪魔です」
「………」
「そんな目をしないでください…私は傭兵なので必要ないのです」

可愛らしい女性がよろしいのならば女官か侍女を頼んでください。と朔弥はうんざりしながら仕事に戻る。
そういえば最近は雑務ばかりしていたから忘れていたが、朔弥は元は傭兵だったのだ。見慣れない武器を最初扱っていたが、最近では徐庶が教えた撃剣ばかり使っている。少し前に聞いたら「あれに使う道具が切れそうなので使っていないだけですよ」と言っていた。その道具はなかなか手に入らず、どうやら本来の獲物を使えないらしい。

「でも、今の朔弥の方が俺はいいかな」
「そうでしょうとも。関銀屏殿にもあのような態度では」
「……今度法正殿に相談してみようかな」
「…何を、ですか」
「朔弥を少し女性らしくさせる方法」
「…その前に法正殿に嫌味を言われて涙目になられると思いますが」

朔弥の最後の言葉が妙に現実味を帯びて泣きそうになった。



御題提供:休憩

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