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※パロディ有


あんまりだ!!

夏候覇の叫びがあたりに響いて近くに居た人間たちは互いに顔を見合わせて頭を傾げる。
あの夏候淵の子息である夏候覇は父によく似た性格で人懐っこく、人当たりもいい。その彼がいったいどうしたと言うのだろうか。誰もが思ったことには思ったが、何があったかを覗こうとは思わなかったらしく、皆仕事に戻る。

「なんだよ…なんなんだよ…そんなのって、ねえよ…」
「まあ、なんだな。受け入れろ息子よ」
「あ、あの…何故夏候覇殿はその様に打ちひしがれているのでしょうか」
「お前だお前!なんで…なんで元に戻ってんだよ……」

夏候覇の指さす先には朔弥。昨日までは小さくてチョコチョコ動き、夏候覇が会いに行けばその後ろを付いてきていた朔弥だ。精神まで幼くなってしまっていたが、今は元に戻って世話になったと聞いたのでその礼にきていたのだ。

「それは喜んでいただけるかと思ったのですか」
「俺より小さい朔弥を返せ!」
「では私より大きい夏候覇殿を返して下さい」
「ごめん無理」
「朔弥にゃあ勝てねえな、息子よ」

ははは!と小気味良い笑いで打ちひしがれる夏候覇を笑う父親。
そんなやり取りを少し見ていた夏候淵だが、この後軍議があるとかで早々に行ってしまった。

「小さい朔弥はな、凄く可愛かったんだ」
「そうですね、今がこんなですから、それ以上の残念さが子供の頃からあったら困ります」
「そんな卑屈も言わずにさ」
「子供は素直だといいますから」
「俺の後ろを付いてきたんだよ!!」
「今でもついて行きましょうか?」
「え、いいの?」
「いいですよ」

なぜかよくわからないが歩く夏候覇の後ろについていく朔弥。いつもであれば小さい朔弥がちょこまかとついていく姿は誰しも微笑ましく見ていてくれた。時たま話しかける人も「妹君で?」や、下手をすると「娘ですか?」なんて聞かれたものだ。
しかし今はどうだろう。小柄な夏候覇の後ろには夏候覇よりも背の高い朔弥が無言でついてくる。脚の長さも小さい頃とは違い、同じ速度で歩いても朔弥は困ったりはしない。

「って何だよコレ!!」
「夏候覇殿の後ろを歩いていますが」
「違う、違うんだよ朔弥…」
「夏候覇殿、私がこう言ってはアレですが、夢見すぎです」
「う、うるさい…可愛くない、可愛くないぞ朔弥」
「それは最初からです。可愛さはどこかに置いてきてしまいました。出来る事なら取り戻したいです」
「お前本当可愛くない」
「本当ですね、私も夏候覇殿くらいの身長ならまだ可愛げがあったかもしれませんね」
「ごめん、もう許して」

素なのか演技なのか。朔弥はイマイチわからないといった表情で頭を傾げる。そういえば朔弥が日銭稼ぎに行っていた元就も食えない性格だったと夏候覇は思い出した。もしかしたらその影響なのか、あんな性格の人間の傍に居ればいやでもその耐性が出来て、あまつさえ同じようになってしまうのかもしれない。
向かい合って夏候覇が「ぐぐぐ」と唸っていると「夏候覇殿ではありませんか」と聞きなれている声が聞こえる。

「ああ、楽進殿」
「夏候淵将軍に聞いたのですが、朔弥がきているとか。夏候覇殿のところにいるからと…」
「ああ、いるぜ…目の前にな」
「えっと…夏候覇殿?」
「…雑賀の朔弥と申します、以後お見知りおきを」
「あ、ああ…申し遅れました、私は楽進。あの、同じ名前の子供は…」
「…夏候覇殿、つかぬ事をお聞きしますが…どういったご関係でしょうか」
「父さんが孫市さんに頼まれてここに来て、楽進殿と李典殿がその面倒を見た」
「!!」

明らかに顔色が変わった朔弥。朔弥は孫市から「夏候親子と元就公に世話になっていたぞ」としか聞いていなかったのだろう。まさかまさかの展開で朔弥は礼をとった姿勢で固まっている。子供のときの記憶が欠落しているのでその間の人間関係がまるでわかっていないらしい。

「…その子供が朔弥ですよ。あれ、妲己の妖術で子供になってたらしいんで」
「…え?」
「も、申し訳ございません。幼くなっていた間の記憶がなく、どのような失礼をしたか覚えておりません。信じられないと思われますが、その子供は恐らく私でございます…」

伺うように礼の姿勢から上目遣い。
その目の使い方から楽進はすんなりと朔弥があの子供だという事を受け入れた。いや、この摩訶不思議な世界でありえないことこそがありえないということを知っているからだろう。そうでなければ曹操と劉備と孫権らがお互いに力を合わせて戦う事があるだろうか。異国の将とともに戦地を駆け回って、人ではない者と武器を交える。

「……大きく、なられたのですね」
「どっちの意味で?俺より背が高いってこと?」
「あ、いや…このくらいのときに遊んだものですから…まさか、このような女性になられるとは…」
「そうそう朔弥。覚えてないだろうがお前楽進殿に肩車されてたんだぜ」
「…!?」

仕返しだといわんばかりに朔弥に向けて爆弾を落とす。しかし見誤ったのは朔弥だけではなく楽進までもがうろたえたという事だろう。
楽進は顔を真っ赤にするし、朔弥は逆に青ざめている。

「も、申し訳ありません…子供だと思っていたので、よろこぶかと…」
「こ、こちらこそ…私のような子供にその様な事をしていただいたとは…」
「それは私が喜ぶかと思ってやったことです…」
「夏候覇殿は何故止めてくれなかったのですか」
「いや、だって俺その時居なかったし」
「そ、そうだ李典殿も呼んできましょう!」

李典殿ー!と走っていく背中を見ながら朔弥は礼の姿勢から元に戻して、視線を楽進のままにして夏候覇に問う。

「私、どれだけの人に世話になったのでしょうか」
「知りたいか?」
「知らないですむならそのままで居たいです…」
「教えるぞ」
「世界は残酷だ…」

なんだか夏候覇はスッキリしたが、よく考えれば朔弥が悪いわけでもないのにしょげるのを見てなんだが悪い気がした。

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