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「ねえねえ、朔弥は法正殿と仲が良いの?」

馬岱の突拍子もない質問に朔弥の口からは変な音が漏れた。
生まれた子馬を見においでと、また半ば引きずられる様に厩に連れてこられ、あの日生まれた子馬を眺めている時に言われたのだ。

「……え?あの、それは…どのような、意味ですか」
「いやさ、最近そんな噂を聞いたわけよ。ほら、法正殿って頭はキレるけどちょっと性格がアレでしょ?若とかが気にしててさ」
「馬超殿が…ですか?」
「馬好きに悪い人は居ないっていう信条だからね。その子の生まれるのを手伝ってくれたって言ったら朔弥は良い子だって言っててね。それで」

別に馬がどれだけ好きなわけでもないですよ。とは口が裂けても言えないだろう。まして強制的と言って良いほどのやり方だったのだ。乾いた笑いでその場を取り繕ってみるが、効果はない。というより、そんな乾いた笑いを気にする様子もなく馬岱は話を進めてきたのだ。

「ほら、朔弥が法正殿の首飾りの件とか」
「……あれ、もしかしてお礼はお礼でもお礼参りの方になるのでしょうか…」
「ああ、回復して最初に朔弥のところに行ったって話?アレ本当だったんだね」
「最初かは知りませんが、お会いしました」
「変なことされてない?」
「変なこと…?」
「そうそう。仲間としてさ、心配なわけよー。朔弥は良い子だけど、ちょこっとポンヤーリしてるし。徐庶殿は言っちゃあ悪いけど、」

逆に守られるって感じでしょ?とコソっと言ってくる。
それにはまた朔弥も乾いた笑いでごまかす。別に頼りないわけではない、卑屈なだけだ。と言って良いものかわからないからだ。朔弥としてみればそれほど悪い雇い主ではないし、無理難題をだすわがままでもない。時たまもっとしっかりしなさい、とか自信を持ちなさいと説教をしたくなるが、言える立場でもないので黙って思うだけ。

「私、ぽんやりしていますか?」
「しているよー、だって、普通そこに論点いかないもん」
「自分ではしっかりしていたつもりでした…」
「まあ、傭兵しているくらいだから問題は無いと思うよ。戦での働きは凄いもんね、朔弥。でも、それなら何でもっと良い馬乗らないの?徐庶殿に俺から掛け合おうか?もしなら若に頼んで馬貸してあげるよ?」

朔弥よりも大きな男が頭を傾げるのはどうも見慣れない。徐庶のあの居心地の悪そうな格好もまだ見慣れないだから仕方のないことなのだろう。
朔弥が戦場で使っている馬は足が速くない。しかし普通に走るよりも早いので不便だと思ったことはあまりない。そもそも戦場を駆けるという事を朔弥はあまりしたくない問う事に起因する。徐庶は軍師なので前線に出ることがないので、その必要がないという、ありがたい立ち位置でもあるのだ。走ると時は大抵救援だ、朔弥が走るときは他からも救援が行っているということで、真っ先に行き着く必要もない。それに馬からあまり好かれないとうのもある。今乗せてくれている馬が唯一大人しくしてくれるのだ。

「……馬にあまり好かれなくて」
「ええ、そうなの?」
「以前徐庶殿にも馬をと言われて、乗ったのですが…嫌がられて、落馬しまして」
「………、ごめんよ、知らなくて…馬に嫌われたことないから」
「でも、たまにですが、嫌がらすに乗せてくれる馬もいますから…大抵は性格に問題がある馬で、今の馬は珍しく大人しくて、ありがたいんです」

今まで乗せてくれた中で一番大人しいのが今の馬だ。それこそ足は速くないが大人しいので扱いやすいし、何より今まで懐いてくれている。

「そっかー、遠乗りに誘おうと思ったけど難しそうだね」
「確実に置いていかれますね」
「ならさ、この子馬を朔弥の馬にしちゃう?子馬からなら朔弥と仲良しさんだよー」
「今の馬が嫉妬してしまうので」
「あ、そっか」

さすが馬好き。嫉妬と言う言葉をだすとすんなり下ってくれた。
話に夢中になっていたが、子馬をみると元気そうに母馬の周りをくるくると回っている。生まれたばかりの、あの弱々しい姿からは想像できない。この小さな子馬も母馬のように大きくなるのだろうか。

「話変わっちゃったけど、法正殿には気をつけるんだよ。難癖つけられて困ったら徐庶殿に相談して、それでも駄目なら俺に相談してよ。力になるからさ」

凄い言われようだな。と思いつつ朔弥は礼を言って厩をでる。一応はまだ仕事をしている時間だ。上官になる馬岱の言う事を聞くのも仕事だが、雇い主の仕事はもっと重要だ。引きずられているのをまた見送っていた徐庶なので、あまり細かい事を言うとは思えないが、自由に振舞うのは言語道断。
厩から徐庶の執務室までは少し距離がある。小走りで行けばそれなりにつくだろう、走っているのを見られてはお叱りをうけるかもしれない。

「走るなんてみっともない」
「っ、法正殿…と、徐庶殿」
「子馬は元気だった?」
「え、あ…はい。あの、どうしてお二人が」
「なに、そこで会いましてね。朔弥は…子馬がどうだとか」
「え、ああ、はい。馬岱殿のところの子馬を…」
「ああ、子馬。生まれたとか言っていましたかね。ところで朔弥、今晩暇ですか?」
「…え?」
「法正殿?朔弥になにか…」
「なに、酒の相手のお誘いですよ。どうしてもと言うなら徐庶も誘ってやらないでもないが」

えっ、と言葉に詰まる徐庶を見る朔弥。
ここは断る所だろうと朔弥は思って、願っている。
朔弥はここ最近、法正に何かと迷惑ではないが構われて正直うんざりしている。徐庶くらいにほうっておいて貰いたいと思うくらいに。礼だ礼だという割りに、実にしつこいのだ。何を気に入ってくれたのかは知らないが、あまりにしつこい厚意は迷惑。

「朔弥も、一応は女の子だから…」
「い、一応…」
「あ、変な意味じゃなくて…腕は立つけど、女の子だし…俺なんかに雇われて可哀相だと思うけど、いてくれると助かるっていうか…ごめん」
「徐庶、お前は何が言いたいんだ。朔弥がどうして良いのかわからずに困っているぞ」
「え、あ、いや」
「俺が在野だった朔弥に声をかけて護衛してもらってからの付き合いだし…朔弥のとってくれた鳥、美味しかったな……俺はきっと朔弥に見限られてしまうんだろうけど、恨まないから…むしろ、こんな俺と一緒に居てくれて感謝しかないよ…」
「安心しろ、もし徐庶を見限ったなら俺が即雇い入れてやる」
「…もしかしたら法正殿のほうが俺よりも朔弥を上手く使ってくれるかもしれない……」
「と言うことだ、徐庶の下が嫌になったら待っていますよ」
「…今ところ、その様な予定はないので…はい」

朔弥は何も言っていないのに、なぜか罪悪感にさいなまれている。ああ、これが噂の正体なのだろうかと恐れた。確かにこの物言いではいい噂はながれそうにない。頭はキレるが性格がアレ。まさに馬岱の言葉の通りだろう。件からの付き合いだが、法正のその嫌味と言うか、皮肉が炸裂したのを目の当たりにして納得してしまいそうだ。味方だからまだ良いが、敵になったらコテンパンにされそうだ。

「…本当に?」
「え、ええ…」
「俺を…見捨てない?」
「そんなウジウジしていると見捨てられても文句は言えないだろうがな」
「法正殿…大丈夫です、見捨てませんから。安心してください…」

多分。と言う言葉は飲み込んでおこう。と朔弥は苦笑いで徐庶を慰める。
これが法正と徐庶の普段の会話なのだろう。あの時も涙目になっていたのを思い出す。

「で、酒の相手はしてくれるんですか?」
「え、」

その話続いていたの?とさすがに言えない朔弥は誤魔化すように笑って徐庶を連れて逃げた。


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