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「…どこの子だ?まさか」
「俺の子じゃないよ。預かってんの」

半兵衛の後ろに隠れて様子を伺う子供に司馬昭は頭を傾げた。どこかで見たことのあるような、でも知り合いにこの位の子供がいる知り合いはいない。

「で、何か用事?」
「いや、俺のお目付け役がいないから散歩だ。で、そうしたら半兵衛が見えてな」
「王元姫殿?」
「うんや、朔弥だよ。元姫の奴が朔弥を気に入って日銭で雇っててな。なんか都合が悪いとかでな」
「それは仕方ないさ、今こんな状態だし」

は?と頭を傾げる司馬昭に半兵衛は子供の頭を撫でる。小柄な半兵衛よりも小さく、後ろにくっ付いている様子は実に可愛らしいと思えるが、この場には相応しくない。
子供は半兵衛に撫でられると困ったようにして、また半兵衛の後ろにしがみ付いた。

「んで、その子どこの子だよ」
「今の話からわからない?朔弥だよ、雑賀の」
「あいつ子供いたのか!?」
「いや、本人。詳しい事はよくわからないど、妲己の妖術が原因らしい」
「…朔弥?」

しゃがんで半兵衛の後ろに隠れる朔弥と目線を合わせてみると、やはり半兵衛の後ろにしがみ付いて、それ以上隠れられないのに頑張って隠れようとしている。

「あー、朔弥すごい人見知りみたいなんだよね」
「じゃあなんで半兵衛は平気なんだよ」
「さあ?最初雑賀孫市も苦戦したみたいだよ。で、おねね様に救援要請して、おねね様が見てたんだけど今用事があってさ。それで俺が今見てんの」
「…お前が?」
「そうそう。別に俺に懐いている訳じゃないよ、言っておくけど。おねね様に俺と一緒に良い子にしてなさいって言われて守ってるだけ。ちょっとは話してくれるけど。まあ聞き分けのいい子だから手がかからないからいいんだけど。それに」
「それに?」
「朔弥の昼寝の時間に俺も昼寝できるじゃん?」

やったね。といわんばかりの笑顔である。その動機に司馬昭は呆れたが、面倒ごとを引き受けたわりにはいい報酬かもしれない。子供がいればある程度の事は大目にみてもらえるだろう。今王元姫に見つかっても朔弥を構っていたといえば多少は。

「よう、朔弥」
「………」
「ほら、挨拶は?おねね様と練習してたでしょ」
「こん、にちは」
「俺は司馬昭ってんだ」
「……」
「朔弥、別に悪い人じゃないよ。俺と同じで朔弥と仲良くなりたいんだって」

どうやらまだ挨拶で精一杯らしい。どもった「こんにちは」でそれ以上は言えない様だ。
しかし少しは司馬昭に興味があるのか、先ほどよりも半兵衛の後ろから顔を覗かせて様子を伺っている。

「朔弥、肉まん好きか?」
「…?」
「ふわふわで、あったかくて、うまいぞ」
「……?」
「それ、今持ってんの?」
「おう」
「朔弥にあげないでね。間食はおねね様に止められてるから」
「な…」
「朔弥にお饅頭作ってくれるらしいから」
「も、ももは…」
「はい駄目ー」

食い物で釣ろうと思ったが、それを看破した半兵衛に阻止された。朔弥は思った以上にねねに過保護にされているらしい。
司馬昭は半兵衛に抗議するが、したところでどかなることもない。半兵衛も朔弥もねねにいいつけられた事を守っているにすぎないのだ。
そんなやり取りを見ていた朔弥も、次第に慣れてきたのかやいのやいの言い合っている二人の様子を面白そうに見ている。時たま司馬昭に「朔弥もそう思うだろ?」言われると驚いてまた引っ込んでしまうが。

「あーあ、朔弥が俺に懐いてくれればもしかしたら子守が俺に来るかもしれないのに」
「いいもんでもないと思うよ」
「でもよ、仕事から解放」
「されないわよ、子上殿」

だらけた声に雷が落ちたように釘を刺された。司馬昭が恐る恐る振り返ると、そこには少し怒った様子の王元姫が立っているではないか。息抜きのつもりで出てきたというには時間が経ちすぎたのか、はたまた王元姫の用事が急であったのか。

「まったく、なにをしているの?朔弥が居ないと1人で仕事もできないというのかしら」
「げ、元姫…いや、朔弥の具合が悪いって聞いてな」
「具合が?私は都合が悪いと聞いたのだけれど」
「まあ具合も都合も悪いよね」
「…半兵衛殿、その子は?」
「話題の人、雑賀の朔弥だよ。原因は妲己らしいけど、それ以外はわかってない」
「……朔弥、なの?」

王元姫が一歩踏み出すと驚いた朔弥はまた半兵衛の後ろに隠れる。司馬昭を叱っていたのを見て恐いのだろう。しっかりとしがみ付いて顔を覗かせようともしない。
王元姫が優しい声で何度か呼びかけるが、やはり朔弥は恐がって顔をみせず、それを見た司馬昭が「元姫、朔弥に嫌われたな」なんていうものだから睨まれている。

「間が悪かったね。朔弥比較的女の人は平気なんだけどねー」
「半兵衛、お前朔弥がまだ話してくれるの女顔だからじゃないのか?」
「…は?嫌だな司馬昭殿、それ俺を馬鹿にしてるの?嫌だなあ、自分が朔弥に懐かれないからって。朔弥、いい事を教えてあげよう。あの人はね、朔弥を使って仕事をサボろうとした人で悪い人なんだ」
「…な!」
「しかも朔弥を食べ物で釣ろうとした最低な奴だ。朔弥、知らない人から物を貰っちゃ駄目だよ」
「子上殿、どういうことかしら」


朔弥と触れ合いたいと思っていた王元姫の目が仕事へと切り替わり、ゆっくりと立ち上がってくるりと司馬昭に向き直る。
王元姫としては朔弥をだしにサボろうとした事、そして子供相手に食べ物で釣ろうとしたことにカチンと来たのだ。見つけてすぐ仕事に戻るのならまだ許していたかもしれない、いや、こんな話を聞かなければ叱って終わりだったのだ。
王元姫が振り返ったその後ろで半兵衛がしてやったりといい笑顔で司馬昭を見ている。これは彼なりの仕返しなのだろう。口だけで「ご愁傷様ー」と言っている。

「王元姫殿、じゃあ司馬昭殿引き取ってもらえます?朔弥そろそろ昼寝の時間なんで」
「まあ、そうでしたか。それは子上殿が邪魔をしてしまいました」
「いやいや。そうだ王元姫殿、朔弥の昼寝が終わったらおねね様が饅頭を持ってくるって言ってたから、そのくらいにおいでよ。そうしたら朔弥もちょっとは落ち着いてるかもだし」
「ありがとうございます」
「ちょ、俺は…!」
「子上殿はまだ仕事が終わってないわ。まずはそれからよ」

ほら、朔弥。二人にさよならは?と後ろに隠れた朔弥の背中を押す。
しかし朔弥は頑なに拒んで足を踏ん張っているらしく、ずずずと音がかすかに聞こえ、半兵衛も溜息をついた。

「朔弥、驚かせてごめんなさい。また後で来るわ」
「………」

朔弥少しだけ半兵衛の後ろから顔をだし、半兵衛を掴んでいた手が少しだけ揺れている。
それを見た王元姫は「またね」と朔弥と同じように手を揺らすと、朔弥は今度は照れたようにまた半兵衛の後ろに隠れた。

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