「ほーっ、銃の手入れか。精が出るのお」
「秀吉様…」
「そうかしこまらんでええ、もっと楽にしてくれんか」
手に持っていた銃を置き、秀吉に頭を下げる朔弥。
銃の手入れは重要だと孫市に再三言われ、手入れのやり方は嫌というほど叩き込まれた。
彼と一緒にいたのは僅かな期間ではあったが、短期間であった故に銃の扱い同様指導が厳しかった。
「手入れも出来るのか?」
「はい、叩き込まれました」
「なんじゃ、嫌なんか」
「出来たらしたくはありません、私にはこの様な物を扱うに向きません」
「そんなことないじゃろ、孫市が認めとる」
「過大評価です」
事実朔弥の腕はいい。
最初孫市に朔弥の話を聞いたときは正直信じられなかった。
動かない的に当てるだけでも相当訓練が必要なのをものの数刻、簡単な狙いの定め方で会得。
動く的にも数日で当てられるようになっという。
ただ腕力体力が無いがために前線に向かないのがタマにキズ。
後方支援で十分やっていける程。
根本的に問題なのは朔弥の精神だろう。
孫市の話では戦で人を殺すくらいなら死んだ方がましだと口論になった事があると言っていた。
どのように朔弥を説得したのかは知らないが、朔弥が銃を握ってくれたことを感謝しなければならない。
「…戦は嫌いか?」
「好きな人はいないと思います」
「人の事を聞いとるんやない、朔弥の事や」
「…嫌、です」
「なんでじゃ」
「人を、殺すから、です」
「…そうか」
正直な答えである。
本来なら戦火が及ばない限り町で戦とは関係ないところにいるのだろう。
それが偶然にも孫市と出会い、見出され、戦に引っ張り出された。
「朔弥、」
「はい」
「儂が太平の世を作っちゃるからな、そうしたらもう銃の手入れなんぞしなくてよくなるからな。待っちょれ、な」
笑って言ってやれば、朔弥は「そうですね」と答えた。
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