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「ほう、お前が司馬師殿が雇ったという女か」


司馬師に呼び出され、「昭に渡せ」と言われた書簡を運んでいた朔弥。
何度か見たことのある男が、なんとも威圧的に声をかけてきた。


「……」

「なんだ、司馬師殿は教育も出来ていない女を手元に置いているのか」

「大変失礼したしました。私、朔弥と申します」

「そうか。そういえば私も名乗って居なかったな」


鍾会だ。
何とも嫌味な言い方に朔弥は内心関わりたくないと素直に思ったが、この手の人間をぞんざいに扱うと後々面倒だというのも知っている。


「鍾会殿、私この書簡を司馬昭殿にお届けしろと司馬師殿に命じられてますので失礼したします」

「ふん、私も司馬昭殿に用がある」

「左様ですか」

「不満か?」

「不満に思う理由がございません」


ニコリと外面だけの笑顔で長そうとする朔弥に、それが気に食わない鍾会。

頭を下げて鍾会にお先にお進みくださいと態度で示し、その態度に少々不満そうにしながらも鍾会は司馬昭の執務室まで無言で歩いた。


「…何をしている、開けろ」

「はい、ただいま。…司馬昭殿、鍾会殿がお見えになられました」


扉を開けろと手ぶらの鍾会が書簡を抱える朔弥に命じ、朔弥もそれに大人しく従って扉を開けた。
中には司馬昭が大人しく書簡に向かい、その傍らには王元姫。
どうやら彼女は司馬昭の様子を見に立ち寄った様子で、仕事の進み具合をいる。


「お、鍾会か。どうした」

「どうという用事ではないですが…」


話を始めた二人に軽く頭をさげ、持ってきた書簡を司馬昭が執務を行う台の傍らに置いて茶の支度をしなければ。とひとつ息を小さくついた朔弥。


「ご苦労様、朔弥」

「王元姫殿、司馬昭殿の様子見ですか?今お茶をお出しします」

「あら、本当に?子上殿が朔弥のお茶を褒めるから一度飲んでみたかったの」

「私の様な者が煎れた茶ではなく、ここにある茶が良いものなのです。私が煎れたからではありません」

「そんなことないわ。だって私が煎れても子上殿は褒めてくれないもの。そうだ、茶菓子を少し持ってきたの。一緒に食べましょう」


そう笑って王元姫が目で促した先には司馬昭が喜んでいた茶菓子。
朔弥が頷いて手際よく茶を煎れるのを眺めて、所々で「どうしてそんな作業をするの?」と王元姫が問えば朔弥は簡単に理由を述べた。


「朔弥はお茶を煎れるのを誰に教わったの?」

「基本は知り合いの方に。この様な煎れ方は司馬師殿に」

「まあ、子元殿に?私も今度教えて頂こうかしら」

「厳しいですよ、出来ぬとは言わせぬと睨まれました」

「それは朔弥に見込みがあるからよ。現に朔弥のお茶を子上殿は喜んでいるし」


うふふ。と優しく笑った王元姫に朔弥は不思議そうに頷いた。

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