朔弥という女を兄上が拾ってきた。
拾ってきたという表現は少し違うかもしれない。戦場で引き抜いた、もしくは何かしら上手い事言って離反か何かさせたのかもしれない。
年は元姫と同じ…いや、少し上、武器は見たことのない不可思議な物。
何よりも不思議なのは朔弥自身だ。あの思慮深い兄上が連れてきた割に思慮深い訳ではない。
「司馬昭殿」
「…あ、ああ、なんだ?」
「いえ、ボーっとされてましたので。王元姫殿からお小言を言われますよ」
「朔弥が元姫に報告しなけりゃバレないさ」
「それでは口元を拭われた方がよろしいかと」
慌てて拭うと、涎が。
訂正したほうがいいな、朔弥はある意味思慮深い。
仕事中にうたた寝していたのを遠回しに注意してくれた、と言うことにしてくれている。
どうして、その朔弥が俺の執務室で見張りの様な事をしているのかといえば、やはり兄上だ。
「朔弥、昭が仕事するのを見張れ。さぼったなら逐一報告しろ」と命じたことに始まる。
別に常々仕事をしないわけじゃない、しっかりしているつもりだ。
ただ、それが元姫にはそうは見えずに兄上に相談した結果なのだが。
元姫に散々叱られ、兄上にも言われたが治らないとなれば、ある意味での最終手段。
兄上の息が色濃くかかっている朔弥は容赦しないだろうという見解で、元姫が朔弥を借りてきた。
まあ、それは成功した…とも言える。
「司馬昭殿、少し休憩をいたしましせんか?」
「お、おう!朔弥も疲れたよな!」
「本日王元姫殿が司馬昭殿の息抜きにと茶菓子を頂いております」
「お!」
休憩も朔弥が決めているのだ。
ただ凄いのは集中力が切れたりすると、すぐに気分転換をしてくれる。
しかも茶を煎れるのがすこぶる旨い。
朔弥が来てからは執務も前ほど嫌ではないし、元姫にも叱られないし、美味い茶が飲める。
よくよく考えたら良いことづくしじゃないか。
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