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それでは今度会う時には乗る練習をいたしましょう。
そう言って別れたのは半月ほど前の事。
生き物自体は好きだ。
蛙や蛇みたいなものは別だか。
馬も触りなれてしまえば近付くことは恐ろしくない。
むしろ懐いてくれ、会いに行くのも楽しみだ。


「おはよう、一緒に散歩に行こう」


馬屋でねねに練習用だと言われた馬を撫でてやれば嬉しそうにしてくれる。
この馬はねねが特別に朔弥に与えたものではないが、彼女の厚意で今は朔弥の馬という事になっている。
馬屋の爺に声を掛けると、快く馬を貸し出してくれた。


「いつもありがとうございます」

「そのような有り難い言葉、この爺には勿体無い。どうぞお気になさらんでくだされ」


深く頭を下げる爺。
彼はいつもそうやって朔弥に手綱を付けた馬を渡してくれる。
身分が上の人間と話すというのは大変肩が凝るのだと、彼はひっそりと朔弥に教えてくれた事がある。
そんな事をいいつつも、朔弥と話してくれる良い人だ。


「それではお気をつけて」

「はい」


朔弥も慣れたので、手綱を引いてやれば馬もついてきてくれる。
馬は人間の言葉を話す訳ではないので無言なのだが、 朔弥が話しかけてやると、馬もなんだかそれに答えてくれているように思えてくるから不思議だ。
昨日の夕食にでた煮物は美味しかった事、ねねに紅を貰った事。
朔弥に友達と気軽に呼べる相手も気兼ねなく話せる相手が居なかったので、馬がその恰好の相手となってくれた。


「おや、馬と散歩ですかな?」

「おはようございます、左近殿。はい、日課の散歩です。お出かけですか?」

「ええ、佐和山に帰る支度をね」

「…左近殿はこちらにお住まいではないのですか。私はてっきりこちらにお住まいだとばかり」

「殿は佐和山の主ですからね、今は仕事の関係でこちらにお世話になってただけです」


仕事も終わる目処がついたんでね。と話す左近。
左近はねねから逃げる朔弥に声を何度かかけてくれていたので少し親しみがあるのだ。
散歩でたまに顔を合わせると世間話をしてくれた。


「それではもう会えなくなりますね」

「戦か討伐があればまた嫌でも会いますよ」

「…できたらお会いしたない状況ですね、それ」

「それが仕事、武人のさだめですからねえ」


困ったように笑う左近。
大柄で少々強面の人だが、元は優しい気質なのだろう。
最初は朔弥も警戒していたが、今ではそれはない。
何かと気を使い、苦労性ではないかとさえ思えるほどだ。
朔弥が三成を投げ飛ばした時もそうだった。


「次に会うのはいつになりますか、その時には馬に乗れているといいですな」

「その時にはもう銃を扱わなくなっているかもしれませんよ」

「それはないでしょう」


あまりに自信ありげに言われ、朔弥はキョトンとして左近をただ見上げた。

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