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「ほら、大人しいでしょう?」


人の良い幸村は、笑うばかり。
その後ろに三成、兼続。
朔弥はビクビクしながらも、幸村の撫でる馬に触っている。


「怖くないでしょう?たまに気性の荒い子いるけど、そういうのはここにはいないから安心おしよ」

「はい」

「はい、それじゃあ乗ってみようね。みんな、頼んだよ」


私はちょっと用事があるから失礼するよ。とねねは母屋に戻っていった。
ねねと幸村が選んだ馬は中型の大人しいもの。
他にもいるが、一番気性が落ち着いているものだ。
朔弥が頭を撫でてやれば、人懐っこいのか嬉しそうにしている。


「どうだ、怖くないだろう」

「はい、ここで触るぶんには」

「三成の方が、怖いだろ」

「どういう意味だ兼続、返答によってはただではすまさないぞ」


兼続に詰め寄る三成。
そんな事は我関せずと朔弥は馬を撫でている。
幸村はどちらを重視するかを少しばかり考え、朔弥の指導をすることにした。
男二人は分をわきまえているので方っておいても問題ないと判断したからだ。


「それでは朔弥殿、まずは馬と歩いてみましょう」

「いきなり乗るのではないのですか?」

「いくら大きくはないといっても、恐怖心は容易く消えてはくれません。一緒にあるき、馬と呼吸を合わせてみましょう」

「はい、皆様も最初はそうなのですか?」

「そんなわけなかろう。お前と一緒にするな」

「私達は馬を恐ろしいとは思った事もないからな。幼いころから馬と共に生活していたから馬の練習などしたことはない」


いつの間にか二人の言い合いは決着していたらしい。
むしろ、標的を朔弥に代えたといった方が適切なのかもしれない。


「馬は不思議なものでな、こちらが恐ろしいと思えば馬も不安がる。不安になれば暴れる」

「それに馬は目下の者と侮れば乗せはしない。せいぜい馬鹿にされないようにするのだな」


三成は朔弥を小馬鹿にした様子で鼻で笑い、兼続は精進するのだなと一人勝手に頷いている。
幸村は朔弥に「さあ歩いてみましょう」と己が手綱を渡した。

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