「ほう、これは馬子にも衣装だな」
「ちょっと兼続、朔弥に失礼な子だねぇ」
朔弥は元から可愛いのっ。
孫市があんな着物着せておくからいけないんだよ、まったく。
と、ご立腹な様子のねね。
男装を狙ってしていたわけではないが、それが似合ってしまったがために周りに男だと思われていた朔弥。
背が女にしては少々高く、男にしては小さい。
顔は戦場では汚れていたので今とは全く感じが違っている。
今は確かに中性的ではあるが、よくよく見てみれば女らしい顔立ちにも見えなくはない。
「でも、見間違えますね…こうも変わられたら」
「それで今日はなんで逃げ出した。昨日一昨日は着物が云々と左近が言っていたが」
「今日は馬の練習させようと思ってね。この子、馬に乗れないんだよ」
「なんと、それは不便だな。これからの戦で馬が使えなければ移動が思うように出来まい」
だろう?と、ねね。
最初ねねにその話を聞いたとき朔弥は「戦に出たくない」と申し出たが、ことごとく却下された。
ねね曰わく「そんな立派な腕をしているのに使わない手はないだから!」と半ば力押しに負けた。
それでも引くまいてと朔弥も粘ったが、ねねはそれ以上に粘った。
まあ、どうせそんなしょっちゅう戦があるわけではないだろう。とタカをくくった朔弥。
その頃には自分はここにいるとも限らない。
「別に馬に乗れなくても…」
「なに言ってんだい!馬に乗れない武将が何処にいるの」
「わ、私は武将では…」
「もう!わからない子だね。それ以外に何ができるって言うんだい?討ち取るのが怖いのもわからないでもないよ?」
それが朔弥がこの時代を生き抜くには一番いい方法なんだよ。
ねねは困った顔で朔弥に優しく語りかけた。
孫市も、ねねも朔弥の素性を知らない他人だ。
ここまで良くしてくれるのは、それこそ厚意以外のないものでもない。
期待してくれるのは正直うれしい。
しかし自分は他人の命まで奪って生き延びる価値があるのか。
その覚悟は、ない。
だからといって死ぬのほ嫌だ。
何も答えない朔弥に、今度は幸村が声をかけた。
「朔弥殿は、馬はお嫌いですか?」
「嫌い…では、ありません。ただ…」
「ただ?」
「近くで見ると、大きくて…怖いんです」
「なんだ、馬が怖いのか。三成を投げ飛ばしておいて」
「こら兼続っ」
これは失敬。と兼続は口を閉じた。
三成は横目で兼続を睨んでいる。
「なら、幸村に馬の扱い方を教わりなさい。幸村はね、馬の扱いが上手くてね」
「私は構いませんよ。朔弥殿、馬は怖くありませんよ。戦ではなく遠乗りの為に使うと思えばよろしいかと」
「遠乗りか…いいね!よし、朔弥が馬に乗れるようになったら遠乗りだよ!決定!!」
朔弥が口を挟む間もなく何故か決定してしまった。
そして例の如く引きずられそうになったが、ねねの「着替えようね、朔弥。そうだ戦の時用に用意した着物にしよう」の言葉で行き先が変更された。
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