「そういえば、こちらに朔弥殿が世話になっていると聞いたのですが」
「ああ、あの。三成を背負い投げた彼奴か」
「………ああ、いるぞ」
久方ぶりに顔を合わせた友はとんでもないことを切り出した。
今までの会話の流れからしてこちらに話が転ぶとは思いもしなかった。
「なんだ三成、気にしていたのか?雑賀の小僧に投げられた事が」
「…小僧、か」
「どうしたのです、三成殿。そのように苦笑なさるなんて」
「傷は深かったか?何、雑賀の者なのだ。力があっても不思議ない。あの様な大きい銃を扱うのだからな」
どうやら二人はまだ三成が気にしているのだと勘違いをしている。
あながち間違いではない。
それが小僧ではなく、娘だったのだから不甲斐ない。
しかしこの二人も雑賀のが女だとは思っていないのだ。
「あの、それで三成殿、朔弥殿は今どこにいらっしゃるかご存知でしょうか?」
「なんだ幸村、お前。彼奴に会いたいのか」
「先の討伐にて知り合いました御仁です。挨拶くらいしたいと思いまして」
「そやつならばおねね様と一緒だろう」
実はあの日以来ねねは朔弥を可愛がり、自分の娘の様に手を焼いている。
反物を見ては朔弥に似合うだの、この簪は朔弥に。や、馬に乗る練習、接近戦が苦手だと言えば直々に練習につき合った。
「おねね様の可愛がり様が異常でな。何かと手を焼いている」
「ほう、それは興味深いな。では狙撃手のみならず忍術もできるのか」
「いや、そうではない」
三成が話そうとすると、あの日のようにねねの声が響いた。
そしてまた足音が二つ。
こうも毎回彼奴は何故こちらに向かい足を走らすのか。
反対方向は廊下が途絶えるのだからこちらにくるのは通りなのだが、毎回毎回迷惑である。
左近は来るのを楽しみにしているのか、足音が聞こえると戸を開け、おねね様に聞こえない様に「頑張れよ」と声をかけている。
兼続と幸村が何事かと思い、戸を開け、顔を覗かせると娘とねねの姿が。
それを目ざとく見つけたねねは二人に娘を捕まえる様に命じた。
「え、その娘ですか?」
「そうだよ!逃がしちゃ駄目だからね!」
「退いてください!!」
「すまんな、何処の娘かは知らんがおねね様の命を聞かぬ訳にはいかぬ」
「理由は存じませんが、失礼つかまつる!」
庭へと方向転換した娘だったが、幸村がその行く手を阻みあえなくご用となった。
あの時に比べれば体力もついたものだ。
「…最悪」
「よくやったね幸村!」
「フン、体力もなければ学習能力もないのか」
「ところで、この娘は何者です?」
幸村に捕まり肩を落とす娘。
幸村は娘に大丈夫ですか?と声をかけている。
「なんだい兼続まで」
「私も存じ上げませんが…」
「幸村もかい?もう、みんな朔弥に謝りなさいっ」
二人の視線がサッと娘に集中。
タイミングを同じくして娘は二人から視線をそらした。
そして一呼吸置いて二人は大きく声を上げて驚いた。
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