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「朔弥、お客様だよ」

「私に、ですか?」


珍しく元就が接客をしていると誰か言っていた。
そもそも死んだフリをしていたんだったか、隠居だったかした人間が接客というのはいかがなものか。と朔弥は思ったが、自分に関係ないことだと決め付け、少しの自由時間を過ごしていた。
縁側にすわり、ぼんやりしていると元就が顔を出して朔弥を手招いた。


「きっと朔弥が喜ぶ人だよ」

「私が喜ぶ人、ですか?誰です?」


それは会ってからのお楽しみだよ。元就は笑って朔弥に早くおいでと足を進めた。
それに黙ってついて行くと、広間によく見知った男が座ってた。


「あ、孫市」

「………」

「ね、嬉しいだろう?」

「でも私何故か睨まれてますよ」

「睨んでねえよ」


明らかに睨んでいる…いや、不機嫌な顔をしている孫市が座っていた。
そんな事にお構いなしの元就はニコニコしながら上座に座り、朔弥にも座るように命じ、朔弥はそれに従った。


「なんで孫市がいるの?」

「朔弥に会いに来たんだって」

「一人前になるまで帰ってくるなって放り出したのに?」

「んなこと言ってねえよ。一人前になったら帰ってこいって言ったんだよ」

「そうだっけ?」

「そうだ」


二人のやり取りをにこやかに「朔弥が楽しそうだね」とのほほんと笑っている。
しかし孫市は朔弥を睨んでいるというより、朔弥が側にいる元就を睨んでいた。


「で、どうしたの孫市。私此処にいるって知らせてないのに、なんでいるの、本当に」

「私が知らせたんだよ」

「…大殿、が、ですか?」

「ああ、元就公からな」


もう不快感を隠すどころか、隠す事をあえてしない孫市。
そんな孫市は朔弥にしてみたらとても珍しく、いったい何事かと思った。
孫市が現在契約しているのは政宗で、政宗の少々無茶な命令も多少いやな顔をする事はあっても、それはワザとであったし、孫市は基本的に不快感を露わにしない。


「で、どういう事だ?」

「…?」

「ああ、その話かい?」

「…話が見えない」

「朔弥をくれってどういう事だ」

「え、なにその娘さんを下さい的なノリは」

「なんだい?その“的なノリ”って」

「今はそれはいいんだ。問題は朔弥だ、朔弥」


怒りをついに露わにした孫市。
その話についていけない朔弥は頭に「?」が出て、元就は相変わらずニコニコしている。


「手紙に書いた通りだよ、朔弥をくれないか?」

「断る」

「話が見えない」

「だいたい朔弥はまだ半人前で、修行中の身だ」

「それなら私の元で技を磨けばいいよ、銃の基本的な扱いは出来ているんだ。あとは場数を踏ませて、それに少し兵法を学ばせたら大きな私の強みになるしね」

「大殿、過大評価です」

「そんな事ないよ朔弥。まあ、ちょっと応用力がないのが玉にきずだけど、それこそ場数だから大丈夫」

「朔弥に兵法は必要ない、朔弥は雑賀衆だ。いずれは雑賀に戻って働いてもらわないとなんでな」

「雑賀衆は朔弥だけじゃないだろう?」

「朔弥は雑賀衆だ」


朔弥が考えるに、元就は朔弥を自軍に迎えたいと孫市に手紙を出したらしい。
日々のほほんと寝転がって猫と戯れたり、本を読み書きしているだけかと思っていたが、ちゃっかりそんな手紙までだしていたようだ。
孫市は朔弥を気に入っていたし、その実力を大変評価していた。
ゆくゆくは朔弥にひとつの隊を預けてもいい考えている。
そのためには知識や戦闘、戦での注意しなければならないことを教えるために旅に出した。
それは朔弥が死んでしまう可能も十分あり、孫市もそれを十分理解していた。
しかし、朔弥はどうも生きる事やほかのことにあまり執着しない。
執着すると言ったら金くらいだ。
それは孫市が散々朔弥の目の前で雇い主と金の話をしていたからで、傭兵するなら金の話ができないといけないと刷り込んだからだ。


「………」

「こら、朔弥。欠伸をしない。これはお前自身の話でもあるんだから」

「私自身の話とか言われても、どうせ二人がお決めになるんです」


そもそも私の気持ちなんて最初から気にもとめてないじゃないですか。とまた朔弥は欠伸をした。
それに元就は驚いたが、孫市はまたかと思っていた。


「お前な…」

「だって所詮そうでしょう。傭兵なんだし、お金貰ってお仕事でしょ」

「朔弥…」

「お前な…本当に変わんねえな」



とりあえずここでオシマイ!


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