「大殿、大殿」
「……ん?」
「そんな所で寝転がって本を読まれては駄目ですよ」
「いいじゃないか、こんなに天気がよくて暖かいんだ。日輪の恵みをいただこう」
「そう言って先日鼻風邪をお引きになったのほどなたでしょう」
「…私、だねえ」
「私だって別に大殿が鼻風邪をひこうが、それをこじらせて肺炎になろうか正直知ったこっちゃありません」
「ひどいな…」
「ただ、私が怒られるんです。大殿の護衛且つ世話係のくせに仕事を怠慢したか。と」
朔弥の苦言ももう慣れたが、こう淡々と嫌みを堂々と言われるとさすがに体を起こす元就。
元就はちょうど山に出掛けているところで出会い、傭兵だという朔弥を雇い入れた。
話を聞けば一人前になるまで旅に叩き出されたというのだ。
確かに世間知らずという節は所々見受けられることがあるが、元就自身朔弥のそういう所を気に入り、雇った。
「私が主なのに…」
「では主らしく、シャンとしてください」
「これでも戦では結構やるんだけどね」
「日常からお願いします大殿」
「そんな毎日していたら疲れるじゃないか」
「…主とは、そういうものではないのですか?」
前にいた所の殿様とそうでしたよ。と朔弥はしれっとして言い放った。
さあさあ暖かくしてくださいと茶に上着を出された。
当の朔弥といえば、前は東北にいたというのに元就以上に厚着をして寒そうに手を握っている。
「朔弥は、寒いのかい?」
「足先が冷えて冷えて」
「女の子が冷やしちゃいけないよ、朔弥こそお茶を飲みなさい」
「先ほど白湯をいただきました。私のことなどお気になさらず、どうぞ」
そういうところは何故か頑固な朔弥。
以前何か与えようと、朔弥に聞いたら現金と答えが返ってきた。
元就は着物や簪はいらないのかと問えば、「私は傭兵ですから、現金…お給金が一番いいです」と色気のない返答。
金以外では意外と頑固らしく、特に元就から何かを貰うことを拒んだ。
一番元就の意表をついたのは「そんなこと言うならお給金上げてください、お給金」だ。
「朔弥はしっかりしているようで、実はしてない子だよね」
「そのようですね」
茶を飲み終わってまた横になろうとする元就に朔弥はすかさず「また横になったらお茶に下剤まぜます」と低い声で忠告した。
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