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「じゃあね」

「………」

「こらえているな」

「ああ、こらえている」


幸村が子供になって数日。
朔弥の後ろを母上、母上とついて回った。
しかし、その数日で進歩を見せたのも事実。
朔弥を母と呼ぶのは変わりないが、慣れたのか兼続や三成に左近、慶次などにも話すようになった。
ただ朔弥が居るのが前提だが。

しかしそんな日も長く続かなかった。
朔弥は傭兵で、雑賀衆。
今雑賀の頭領である孫市は奥州に身をおいている。
朔弥がこの地にいるのは孫市に依頼がきて、その依頼を与えられてきた。
言わば出張してきたのだ。
出張ならば仕事が終われば帰らなければならない。


「幸村も連れて行けばいいではないか」

「だいたい幸村殿は奥州の方ではないですか、私行くの奥州ですよ、奥州」

「…ははうえぇ」

「母上じゃないって、だから…」

「よし、ならば幸村。私と越後まで行くか。そしてそこから真田に知らせを送って迎えを寄越してもらえばいい」

「………うー…ははうえぇ、ゆきむらは、よいこでいますから…おいていかないでくださいぃ…」

「ついに泣いたな」


冷静な三成をよそに幸村を抱いていた兼続は必死にあやすが幸村は火のついた様にワンワンと泣いている。
その声を聞きつけた左近が顔を覗かせたが、いつものことかと引っ込めた。


「泣くな幸村、それでも武将か」

「お前の母は実に冷酷だな」

「おやおや、どうしたんだい、そんなに泣いちゃって。朔弥が行くのが寂しいのかい?」

「おねね様…」


ほうら、こっちにおいで。抱っこしてあげようね。とねねが幸村を抱き上げるが一向に泣き止む気配はない。
困って朔弥に「はい」と幸村を差し出したねね。
仕方なしに幸村を抱き上げ、背中を撫でてやると不思議と泣き止む幸村に、周りの大人は頬を緩めた。


「ねえ、朔弥。幸村も連れて行っておやりよ」

「幸村が不憫だしな、こんな母役でもないよりマシではないか」

「…ははうえぇ…」

「そんな無責任な…だいたい私一人でここまで来るのだって一苦労なのに子供まではとても無理です」

「なら慶次を貸してやろう」

「…は?」


そうして朔弥の言い分は破棄され、着々と幸村を持たされる算段が周りで企てられていった。


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