「へえ、これが幸村かい?また可愛くなったねえ!」
「…こんにち、は」
「はい、こんにちは」
なんとか兼続と三成に通じ、信じてもらえた子供になった幸村。
とりあえず説明というか、申し開きをねねすべく行けば、ねねは簡単な説明で幸村を受け入れてくれた。
「朔弥の後ろに隠れてないで、こっちにおいで。顔を見せてちょうだい」
「ほら幸村、おねね様が呼んでいらっしゃるぞ。朔弥から離れよ」
「…おねね、さま?」
「そうだ幸村、秀吉様の奥方だ。はやく顔を見せて差し上げろ」
人見知りなのか、ただの緊張ななか、朔弥の後ろに隠れてねねの様子を伺う幸村。
ちらりと朔弥を見上げてはどうしようか悩んでいるようだ。
朔弥がため息をひとつ吐いて幸村の背中をポンと叩いて「さあ、行って」と言うと、なんとも不安げにおずおず前に出た。
「まあ、可愛いね!!これじゃ本当に子供だね」
「ええ…、不思議なことに幼名を名乗らず、幸村と申しまして」
「そうかい、弁丸じゃなくて幸村なんだね」
「そして何故か朔弥を母と呼びます」
「え!本当かい三成」
ええ、本当ですとも。と、なんとも意地悪そうに笑って朔弥をちらりと見る三成。
兼続は素知らぬ顔で澄ましている。
「そうかい、悪かったね幸村。母上から離しちゃって。もう戻っていいよ、顔も見れたからねえ」
「お、おねね様!私は母ではありませんよ!」
ねねに戻っていいと言われた幸村は一目散に朔弥の後ろに、ピタリとくっついた。
それを物珍しそうに見る兼続に、なにやらニヤニヤして見る三成。
ねねは「可愛いねえ」とのほほんとしている。
「で、なんで幸村に母上だなんて言われるんだい?」
「…おそらく、縮んださい、私を最初に見たから…でしょうか」
「刷り込みか」
「そんな鳥じゃあるまいし、ねえ」
「いや、しかしあながち合っているかもしれんぞ。私たちと会った時には既に朔弥を母と呼んでいた」
「なら私が最初に幸村に見られたら私が母上かあ…いいな、羨ましいよ朔弥」
「なら御役目おねね様にお渡し致します」
幸村を引き離そうと頑張る朔弥であるが、幸村もそう易々と離されてはたまらないとガッシリ掴んで離さない。
「可哀想に幸村、お前の母は無理矢理お前を離そうとしている。酷い母だ」
「たがら母じゃないって何回言えば…」
「まあ良いではないか、こんなに幸村が懐いているのだ。しばらく母役をやってやれ」
「そうだよ朔弥、こんなに幸村懐いてるんだし。ほら、子育ての練習だと思って」
「…、わ、私」
「?」
「子供、苦手なんです」
だから本当に勘弁してください…。
そういうと朔弥は背中を丸めた。
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