「ああ、貴方朔弥殿ですね」
美人と表現するのが相応しいとは正にこの事だろうと朔弥は思った。
体格と声は確かに男性だが、見た目はそこらの女よりも断然整っている。
朔弥が「ええ」となんともふぬけた声で答えると、その二人を見つけた元親まで寄ってきた。
「何をしている」
「娘がお世話になっていた方をお見かけしたので、お礼を申し上げようと思いまして」
「…娘?」
「ええ。…ああ、ガラシャと申し上げた方がお分かりになりますか」
「ああ、ガラシャの…え?ガラシャ?」
ガラシャといえば、あのガラシャだろうか。
孫市の後ろにくっついて、朔弥にもくっついていた、あの?
確か父親は明智光秀だとガラシャは言っていた。
そのことを思い出した朔弥は恐る恐る尋ねた。
「あ、あの、明智…光秀殿、でしょう…か」
「すみません、申し遅れました。明智光秀、ガラシャの父でございます」
「!!」
「これは珍しい、朔弥が驚いている」
元親の声は朔弥に届くはずもなく、朔弥はひたすら頭で反復している。
ガラシャの父が明智光秀、明智光秀の娘がガラシャ。
ガラシャは孫市大好きで、いつも孫市の後ろにくっついてまわって、自分にも良くなついている娘。
で、その父は明智光秀、今目の前にいる…?
「む、娘さんには、いつもお世話になって、いま…す」
「そんなはずはあるまい、あの娘はチョロチョロとしていただけだったが」
「ああ…あの子はご迷惑をかけているのですね。申し訳ない」
「い、いえ。娘さんには本当、お世話に、なってます、よ。あの素晴らしい力技には驚くばかりで、あ、あはははは」
「おお、ついに壊れたか。よほど光秀が目の前に現れて混乱したのだな」
ささやかな拒絶をしたね(そんなにあの子はご迷惑を…)
((ガ、ガラシャパパ…))
(頬を抓っても反応なし、か)
御題提供:濁声
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