「お前、雑賀ってとこの人間なんだろ?」
「元は違うけど、今はそうだね」
「あ?」
「私は拾われたんだよ、孫市に」
孫市、確か朔弥の師匠だったか。
若い割に頭領をしている、女たらしの男だ。
悟空は朔弥に拾われたって、餓鬼ん時か?と問えば朔弥は「いいや、大人になってからさ」と答えた。
「はあ?なんでまた」
「まあ、簡単に説明するなら私が困っていたからじゃない?本人に聞いたことないからわかんないけど」
あ、間違えた。と朔弥が小さくこぼした。
丁度朔弥が書類仕事をしている時に聞いたから気が散ったのだろう。
しかしそれを咎める事をしない朔弥。
基本的に「ながら仕事」は嫌いではないのだろう。
ただ速度が遅いわ、間違えるわで散々だが。
「なに?急にそんな事聞いて」
「…」
「今まで聞いたことなかったでしょう」
「いや、鉄砲って遠くから狙って仕留めるんだろ。いちいち面倒臭ぇなと思ってよ」
「ああ、悟空は接近戦だもんね」
コトン。と筆がおかれた音がした。
次に椅子が引かれる音。
朔弥は仕事を中断したらしい。
そうして茶器を2つ出して悟空を招いた。
「まあ、私が世話になった先が雑賀だったっていうのも一因だけど、私接近戦は苦手なんだよね」
「ああ?よく言うぜ。妲己んとこじゃ接近戦でやってたくせに」
「それは私であって私じゃないの、お分かりかい?お猿さん」
「猿言うな!」
「だって猿じゃないか。まあ、接近戦て、死が近いじゃない」
「?」
「自分が殺す相手が目の前過ぎて怖い。相手の肉を斬る感覚が、怖い。死にゆく者の顔が、怖い」
一口、一口茶を口にする朔弥。
悟空はそんな姿の朔弥を見ながら、自分も茶をすすった。
いつもは茶なんざ旨くないと思って飲んでいたが、今日は特に気にならない。
「なら、戦に出んの辞めちまえよ」
「出来るならしたいね。でも私、銃の扱い以外下手くそなんだ」
「…指導役ってのか?それは?」
「私人に教える程の技量はない」
「…嫁入り」
「そうしたら旦那の為に銃を握らねば」
「面倒臭くえ。否定してばっか」
「確かに否定してばっかりだ。でも、それが私の道とやらなんだと思う」
窮屈な鳥籠(他を知らねばそれも苦じゃないさ)
(悲しい事言って笑うな馬鹿)
御題提供:濁声
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