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「あ…」


しまった、うっかり手を切ってしまった。


立派な傍観者でしょう


「どうされました…ああ、切ってしまわれましたか」

「すみません、趙雲殿」


私の不注意で見苦しいモノをお見せしてしまいました。
朔弥が傷口を抑えながら頭を下げると趙雲はそれより傷を見せなさいと手を出した。


「いえ、私の不注意で切ってしまったのです。ご迷惑はかけられません」

「なに、そんな事はありません。私はお節介をやくのが好きなんですよ。さあ、化膿しては大変でしょう。雑賀なのですから」

「大丈夫です、手当てなら自分で出来ますから」

「言ったでしょう、私はお節介なんですよ。やらせてください」


どうも苦手なのだ、趙雲という武将は。
取っ付きにくいわけでもなければ、嫌みを言ったり、意地悪と言うとか、そういう類ではない。
どちらかといえば、優しく、穏やか、誰からも好かれる人間だろう。
それに信頼もある素晴らしい人物。
その素晴らしさが苦手なのだ。
人付き合いが苦手な者にとって、人が良すぎて近寄りがたい。


「ああ、少し深いですね」

「このくらい、いつもの事なので…深い、ですか?」

「日常的から見たら深いですよ、戦では浅いでしょうが」

「はあ…」


幸い痛みを感じないから、どうという事はない。
ただ血が出るから止血しなくてはという程度。
確かに手の傷は厄介だったが、感覚を失ったり、動かない訳ではない。
故に朔弥の場合だと簡単に止血して終わりだ。
前にそのままにしておいたら大層周りに驚かれたので止血だけ。


「消毒をしましょうね」

「そこまでしていただかなくても…」

「言ったでしょう、私はお節介なんですよ」

「………」


爽やかにニコリと微笑まれてはもう黙って従うしかない。
朔弥は大人しく趙雲に手当された。


(もう少しご自分を大切になさってはいかがですか?)
(いちいち消毒するの、どうも面倒で…)
(破傷風になってしまっては大変ですよ、私が見つけ次第消毒しますから、そのおつもりで)
(!(面倒な人に見つかった…))

御題提供:濁声


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