「なに?」
イヤに冷めた目で孫市を見る朔弥。
それも仕方ない。
朝っぱらから息を弾ませ、寝癖のついたままの孫市が朔弥の肩をがっしりと掴んでいるのだ。
「…夢、だったんだな…」
「なにが?」
「うんうん、それでいい、朔弥はそれでこそ朔弥だ」
朝だからというわけではないが、朔弥は別段気持ちを表にはあまり出さない。
確かに朝に少々弱い部分もあるのだが。
一人納得している孫市に朔弥は何事かと尋ねるが、孫市は一人で納得したままウンウン頷いている。
耐えかねた朔弥が孫市の横腹に一発喰らわせた。
ちなみにコレは度々行われる。
「お、起きがけの一発…っ」
「で、なに、夢って」
「いやー…それがよ」
言いかけた孫市の言葉がそこで途切れた。
見ると話そうかやめようかと悩んでいる様子。
もう一発喰らわせようかと拳を握る朔弥を見た孫市は朔弥に「怒らないか?」と聞いてきた。
「話による」
「なら話さねえ」
「ならもう一発いってみようか」
孫市が制止する前にドスッと鈍い音。
ちなみに朔弥に容赦という言葉はないに等しい、特に孫市に。
「さあ、どうする?話さないで私にド突かれ続けるのと話して私の反応を見るか」孫市に残された道はふたつにひとつ。
朔弥は抑揚のない声で、しかも冷めた顔で孫市をつついた。
「おま…興味あんのかないのかわかんねえクセにしつこいな…」
「孫市が変なところで止めるのが悪い」
「抑揚なく言うな」
「んで?」
やはり抑揚のない声で朔弥が聞いた。
少し考える素振りをする孫市にまた拳をちらつかせると孫市は小さく悲鳴を上げて話すから、話すからその拳さげろ。と朔弥に頼んだ。
「…夢で、な」
「うん」
「お前、朔弥がすんげぇ胸がデカくなって色気が半端なくてよぉ、」
「うん」
「もう、胸なんか溢れんばかりの…」
「…へえ」
「むっちむちで、しかも俺に迫って…」
ハッとした孫市。
確かに夢の話である。しかしその夢の話に孫市はあろう事か心酔して鼻の下を伸ばし、デレデレしていたのだ。
それを絶対零度の冷たい視線で見る朔弥。
もう怒りを通り越して呆れて言葉も出ない。
これに弁解しないと孫市の風当たりが強くなる、朔弥の。
朔弥は孫市に反抗や反論は殆どしないが、無言の圧力をかける。
そんなもの無視してしまえばなんて事はないのだが、朔弥の無言の訴えはしつこい。
朔弥になんとか弁解しようと試みようとした孫市だったが、フと何か思い付いた。
「…いや、待てよ?」
「………」
「あの夢を正夢にするって手もあるぞ…。なあ、朔弥、俺がお前の胸デカくしてやろうか?」
「そう…孫市は、私の事そんな風に見てたんだ」
それはもう見たことのない良い笑顔の朔弥。
なんだ脈ありかっ!?と糠喜びの孫市。
その幸せ気分は朔弥の次の一言で見事に打ち砕かれた。
「最低、呆れた」
「…あ?」
「もうちょっと違う人だと思ってたのにガッカリだよ。だからモテないんだね」
そしてトドメの一発。というより一言。
その笑顔は酷く優しい。
息絶えてしまえばいいのにね(朔弥の全てが冷たい)
((おねね様にでもチクってやろうかこの助平))
御題提供:濁声
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