こらー、待ちなさーい!
城内にねねの元気な声が響いた。
この城では日常茶飯事の事のようで、なんだと顔を出すものはいない。
「今日もおねね様は元気ですな」
「あの方は騒ぐのが仕事みたいなものだ」
「そういえば殿、ご存知でしたか?あの孫市のとこの、今こちらにて世話になっているそうですよ」
左近の言葉に廊下を歩く足を止めた三成。
あの一件ではねねに説教を喰らうわ、背中が痛いわ、清正や正則に嫌味を言われて最悪だったのだ。
それに奴にねねは説教していないというではないか。
「左近、奴の話は今後一切するな。いいな」
「…はい」
パタパタと走る音が二つ近付いてくる。
先程のねねの声がしたことを考えると、一つはねねで、もう一つは追いかけられている人間だ。
三成と左近が廊下の角を曲がると、遠くにねねともう一人が走っている。
ねねは二人の姿を認めると「三成ー、左近ー。その子を捕まえておくれー」と命じられてしまった。
できることなら無視したい三成だが、そうもいかない。
「…いけ、左近」
「えっ」
「お前女好きだろうが。あのくらいの娘、捕まえるのなんて簡単なことだろう」
確かに走ってくる娘は必死な顔ではあるが綺麗な顔立ちだ。
もう限界が近いのだろう、息も上がっている。
二人の横を抜けようとした娘だったが、すんなり捕まった。
「…っ、お、ねね、さっ、ま…ズルい、です」
「ズルくないよ!逃げるからいけないんじゃないか!」
「息も、上がって…ないです、し」
「鍛え方が違うの!」
「それならもっと早く捕まえたらよろしいではありませんか」
横から入った三成に少し照れたようにねねは「ちょっと遊びたくなったのさ」と困ったように笑った。
「ところでおねね様、この娘は?」
「なに言ってんだい知ってるだろう?」
「さあ、このようなじゃじゃ馬娘は知り合いにはおりませぬが」
「三成なんて投げられたじゃないか」
左近に腕を捕まれ、ぐったりとする娘は肩で息をして暫くは顔を上げそうにない。
娘の顎を持ち上げ顔を見ると、面影はあの雑賀の者に似ているが、印象が違う。
「また御冗談を。あやつは男ではないですか」
「いや、女の子だよ」
「…女装した、あの雑賀のでなくて?」
娘を指差して問う左近。
ねねは朔弥は女の子だよっ!まったく失礼な子達だねぇ。と少々ご立腹な様子。
「そうだ、三成もちょうどいる事だし…この前のお説教の続きをしようかねぇ」
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