呪術 | ナノ
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「それ、どうしたの」
「………、一昨日猫を助けた時に折りました」

バキッと。と名前は驚いている顔をしている義兄に答えた。
名前が行方不明、いや行方不明ではなく確実に夏油傑に攫われて数年の月日が流れ、夏油傑を殺してアジトとなっていた宗教団体本部に踏み込んでみれば名前が隠し部屋で横になっていた。
腕は固定され、まあ怪我か骨をやったのだろうというのはわかる。
布団に入って顔色が悪いのだから具合が悪いのもわかる。

「夏油さん、死んだんですね」
「そ。そんでお前は傑に攫われて行方不明として処理されていたわけだけど」
「はあ」

名前の首には首輪。それは呪具だというのもすぐに分かった。
名前が抵抗して呪霊を出さないように、呪霊を取り込まないようにという呪具。
悪趣味だな。と思っている反面、それだけでもうこの義妹は動けないくなってしまうのかという寂しさが五条悟に沸いた。

「それ、外せば?」
「ギプスはまだ外せません」
「違うよ、首輪。それ傑の趣味?」
「趣味かはわかりませんが私が外せるならとっくに外してます」
「傑限定?」
「さあ?ここは夏油さんの城ですから、私に同情する人なんて居ませんし」

よいしょ。と体を起こす名前。
熱と痛みがあるのか苦しそうではある。
数年前にGPSの発信を最後に攫われ、生きているかも不明だった名前。
ピンと指を弾いて首輪を破壊すると名前は大きく息をついた。

「今伊地知ここ呼ぶから」
「はい」
「立てる?」
「え…ええ、はい。運動は制限されていませんでしたから」
「ふうん」

夏油傑に心酔していた一般人も、呪術師も頭が居なければ呆気の無い物だった。
無事名前も保護され家入硝子の反転術式を受けて全快し、暫くの休養という名の尋問を受けてやっと数年ぶりの自分の部屋に戻る。
隣に座ませていた使用人も変わっていない。そういうものなのか、と名前は使用人の淹れたお茶と用意してくれたお菓子を食べて、綺麗なままの部屋を見回す。
夏油に捕まってからからの数年、適度な運動、適切な食事、立派な寝具。テレビはあったので情報も流行も、なんならゲームさえできた。できなかったのは外部との連絡、呪霊操術、敷地外へ行くこと。敷地内は夏油かその一派の同伴がなければ不可能で、あの首輪がある限り居場所も呪術を使う事も不可能だった。

「名前さま、お菓子のお味はいかがですか?」
「おいしいです」
「そちら悟さまが名前さまにとお持ちになられてもので、こちらのお茶もそれに合う物をと」
「……へえ」
「大変心配なされておいででいした。名前さまが戻られて私も家の者も大変うれしく思っております」

ふふふ。と楽しげにしている使用人をみて、名前は「この人こんなにおしゃべりだった?あ、いや、数年ぶりのちゃんとした仕事でアレなのかも」と黙って頷いた。
それから「こちらが新しいお洋服です」「新しいシャンプー、コンディショナー、ボディソープをご用意いたしました」「ルームフレグランスはどれがお好みですか?」「お食事は何がよろしいでしょう」「今度エステのご予約をしたしましょうね、ネイルサロンはいかがでしょう」と名前を気遣うのか命令なのかわからないが名前をボンヤリさせまいと次から次へと出てくる。
それてを適当にさばいて「疲れたので暫く一人になりたい」と伝えれば、それ以上は何もできなくなった使用人は一礼して下がる。
その日はそのまま過ごし、翌日は暇だし年末だしという事で人の少ない高専にでも顔を出すかと思って電車を乗り継いで高専に向かう。車を出すと言われたが体力を戻すためだと嘘をついて出てきた。それに駄目そうならすぐに連絡をすると言えば強くはでる事ができない使用人。前から名前は無理はしないというのを知っているからだ、無理だと思えばしっかりと連絡して助力を頼んでいたのが効果があった。

「…名前さん?」
「あ、伊地知くん」
「もう動いて平気なのですか?ここは冷えますし中へ」
「大丈夫。今仕事中でしょ?気にしないで。暇だから来てみただし」
「暇だからっていう距離じゃないでしょう…お付の人もいないようですし、何より五条さんがうるさいので」
「うるさいの?」
「ええ。ほら、百鬼夜行の件から色々と、今苛立っているみたいで」

そうなの?と名前が言えば「はい」と返事をする伊地知。
別に疑うわけではないが、まああの義兄も人間だったわけかと納得した。
高専の正門辺りをウロウロしていては確かに見場はあまりよくない。伊地知について行き職員の休憩室にお邪魔をする。
空調が効いていて温かく、今まで冷えていたのを思い出したかのように身震いをした。

「インスタントですが」
「ありがとう。事後処理大変?」
「大体終わっていますが、まあ大変でしたよ。名前さんの腕もよかったですね、すぐ治してもらえて」
「…うん」
「それからすぐ尋問でしたっけ」
「そう。夏油さんに関わると良い事本当ない。今までのぜーんぶ夏油さん関係だし」

暫く雑談をして「そろそろ戻ります、なにかありましたら声かけてください」と伊地知は下がってしまった。
仲が良い方だと言っても、相手は補助監督で今百鬼夜行の後処理がまだ残っていて忙しいのは確かだ。他の呪術師もその後処理やらそれに当てられて騒ぎ出した呪詛師や呪霊の対応に追われているだろう。
残っていたインスタントコーヒーを煽って校内を少し歩いてから帰るか、暇だけど。と名前は立ち上がる。
一応は高専所属になっているのだから名前が居ても悪くはないが、任務も報告書もない名前がうろうろしているのは好ましくないのも事実である。

「あれ?名前じゃん、なにしてんの」
「…暇だったので、散歩がてら」
「高専まで?」
「高専まで」
「おい悟、誰だよ」
「僕の妹の名前ちゃん!」

義兄の周りには女子学生と男子学生、そしてパンダ。
「こっちにおいで!」と呼ばれれば嫌だが名前はそちらに脚をむけた。

「はーい注目。僕の妹の名前ちゃん!まあ血は繋がってないから義妹ちゃんなんだけど。今まで傑に捕まって解放されたんだ!仲良くしてね!!」
「………」
「ほら、自己紹介して」
「五条、名前です。紹介にあった通り今まで夏油さんに数年捕まって先日解放されました。術式は呪霊操術、呪術師の等級は1級、補助監督の伊地知くんとは高専での同級生」
「あれだろ?学生の時悟と大喧嘩して高専半壊にして京都校に飛ばされたってヤツ」
「違ーう!ケンカはしたけど半壊なんてしてない。あ、今のが禪院真希、そっちのが乙骨憂太、憂太は遠縁で親戚だったんだよ。だから名前の親戚でもあるね。そんでパンダ」
「ぱんだ…」
「俺、パンダ!まさみちが言ってた名前だな!」
「ま、まさみち?」
「学長の名前だよ。パンダは学長が作った呪骸」
「ほら!次は憂太の番だぞ」
「え、ああ…乙骨、憂太です」
「あと狗巻家の狗巻棘って子がいるんだけど、この年末は実家に帰ってる。パンダは学長と年末年始だけど、この二人は僕が面倒見るんだよ」
「禪院は、あの?」
「実家帰りたくないんだって。ま、加茂家とお爺ちゃんが嫌がらせしたように僕もしてるようなもんだけど」

そうだ!名前も一緒に初詣行こ!という提案に名前は即答で「いやです」と断った。

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