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「#幼馴染」のBL小説を読む
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その知らせに名前は「ひょわっ」と変な声が漏れた。
五条本家からの使いだと高専に来た一人の男性は名前にそれを手渡すと「確かにお渡しいたしました」と深々と頭を下げて去っていった。
京都校で教師をしている庵が「なに?どうしたの?」と顔を覗かせ、渡された封筒を横から眺めている。
本家には暫く戻っていない名前なので、あんな人が居たのか、新しく来たのか、分家の人なのかもわからない。でも家紋は確かに五条家のモノで、それは名前が本家から持たされたものに刻まれているので間違いない。

「あっちゃー…」
「あ、あ………こ、これって」
「呼び出し状ね」
「有給扱いになりますか…」
「え、それは…申請次第、じゃない?って心配するのはそこなの?」
「楽巌寺学長、握り潰せないですよね…」
「さすがにそれは学長も無理じゃない?京都での五条の行動制限とかは出来ても、五条家ってなると…任務で無理とか、それこそ無理だろうし」
「あ…う……クソアニキと直接対決、か………」
「名前、兄貴の事になると口悪いわね。気持ちはわかるけど」

その封筒、いや、書状というのだろうか。それを持って楽巌寺学長の元に行き、事情を説明する。
すると酷く大きな溜息をつかれ、顎に手を置いて何度も何度も書状を見て、名前を交互に見る。
高専の京都校の学長、保守派筆頭といえど五条本家の書状である。無視することも無理矢理任務を入れて五条悟に嫌がらせをするには不相応というやつである。個人ではなく家を相手にするにはあまりにも分が悪い。

「……本家からの正式な物であれば口出しは出来ん」
「あ、あの…」
「どうした。これは儂にはどうにもならん、加茂家に匿ってやることもな」
「こ、これは有給扱いになるのでしょうか」

御三家の書状で有給も何も無いわ。と呆れたように言われたが名前にとっては「本家の事で貴重な有給を、まあ消化できるかわからない有給を奪われたくない」という一心だが楽学院は「有給にも休暇にも当たらん」とぽそっと教えてくれた。
それから数日後、借りているマンションに五条家の迎えがやってきた。
黒塗りの立派な、それこそ高級車というのだろう。名前は詳しくないが艶を見れば安くないのはわかる。シートだって一般車のよりも座り心地がよく肌触りも良い。
養子になって高専に入るまでの短い期間、少しだけお世話になったのが懐かしい。
運転手も相変わらず運転が上手いので気が付けば寝ていたし、もう本家だった。
玄関をくぐればずらりと並んだ使用人。これでもまだ一部だというのだから今でも信じられない。名前程度に並ぶのは下っ端の下っ端なのだから上はもう大行列だろう、義兄と一緒だった時は映画の世界かと思ったくらいだ。
本家に居た時に担当してもらった世話役は少し位が上がったのか、前よりも少しいい着物を着ているような気がする。
名前に深々と頭を下げて「名前さま、お帰りなさいませ」と挨拶をしてくれた。

「お元気でしたか」
「はい、お疲れだとは思いますが当主様がお待ちです。こちらへ」

お荷物はこちらで運んでおきますのでご心配なく。と名前が何か言う間もなくその人は「さあ」と名前を促す。
この家で一番偉いのは当主、その当主は五条悟、名前の義兄である。
名前を買って義妹にした本人。
高専の時に大喧嘩をして以来会っていない。もう5年くらい、になるのだろうか。
正月も盆も帰ってこいという知らせはなく、今まで放置されていたのに。と名前の足取りは重い。
「名前さまがお戻りになられました」と障子の前で使用人が膝をついて言えば「入って」と中から声がする。
すっと障子をあけ、名前に入るようにと使用人が手で促す。
もう逃げ場はない。

「やっほ!暫くぶりじゃん?元気だった」
「え、ええ…」
「座りなよ。あ、お茶とお菓子だして」
「はい」
「今日はさ、名前が来るから僕オススメのお菓子買って来てあるんだ。あ、座りな」

ぼ、ぼく…?と名前はついて行かない頭で「はい」と返事をして用意してある座布団に座る。ローテーブルを挟んだ正面。青い硝子玉の様な六眼をサングラスで隠し、和服を着て胡坐をかく義兄との対峙である。

「まずは京都校卒業と1級合格おめでと」
「あ、ありがとう…ございま、す」
「もっと早く言いたかったんだけど、夜蛾学長とかそっちのお爺ちゃんとか色々あってさ、そっち行っても会えないし、こっちに来る時僕海外でしょ?だから強行手段」
「……」
「お祝何が良い?」
「結構です」
「えー?なんで?欲しいのないの?アクセサリーとか家電とか、あ、彼氏が居て買ってもらえる?」
「彼氏はいません、欲しい家電も無ければアクセサリー類も興味がないからです」
「ふーん?そうなの?伊地知と仲良いみたいだけど、付き合ってんの?」
「付き合ってません。同級生だからです」

お茶をお持ちしました。とお茶を出され、綺麗な和菓子が並ぶ。
わーい。と茶化すように声をあげて大きな口で一口で食べるあたり、五条悟である。

「食べなよ、美味しいよ?それとも洋菓子が良かった?マカロンとかケーキとか」
「本題はなんですか。当主に楯突いたから縁切りですか、それとも分家かどこかに嫁に行けとかですか」
「……いや、あの時は僕も悪かったって思ってるし…だから、京都校の転校許したし、お爺ちゃんが邪魔してるのわかってて黙ってたし……名前は、傑じゃない」
「………」
「でも、加茂家の出入りはあまり良い物じゃない。御三家と言えど加茂家と五条家だ、それはわかるでしょ」
「楽巌寺学長に言ってください。私に拒否権はありませんので」
「…そ。加茂家が名前を嫁に画策してるとか噂があってね」
「そうですか………えっ」
「嫡男の憲紀が懐いてるそうじゃん?御三家の会合で当主に言われたんだよ、『五条の姫には息子がよく懐いていてね』って」
「姫…?」
「名前だよ」

よ、養子なのに?と名前が信じられないという顔で言えば「養子でもなんでも、僕の義妹だから必然的にね」と茶を啜る。
世間的には悟と名前の仲が悪いのは有名だろう。
名前が京都での任務の際、所見で「ああ、あの五条家の…」と言わるのだから。
それを使って取り入ろうという人間もいるだろう、名前自身そういう事に関しては無関心、いや疎いのでアレだが寄ってくる人間は確かにいた。何度か庵に叱られていたが、それに関して名前は「ウザったい人間が減った」程度でしかない。
五条家の名前は名前が思うより大きいらしい。

「傑に狙われてるっていうのも、わかったいたら本当はもっと早く呼びたかった」
「エサにでもするつもりですか」
「さすが名前、わかってるね。今度はちゃんと殺すから安心してよ」
「用件はなんですか」
「名前を東京に呼び戻そうと思って」

にっこりと悪魔が笑う。
今までが、今までが異常だったのは名前もわかっている。
当時はまだあれだが、成人して当主になって、同じ家の者を自由に扱えないはずがないのだこの男は。
今まで京都に遊ばせていた名前が使えそう、使う状況になったから戻れというのは実に自然である。
家であれば楽巌寺も口出しは出来ない、加茂家だって干渉できない。いくら加茂家の嫡男が名前に懐いていようとも、五条家の当主が許さなければ会う事も不可能だ。

「そう、ですか」
「彼氏がいるならこっち来れるようにしよと思うけど、居ないんでしょ?」
「いつですか」
「うん?今日にも」
「は!?」
「大丈夫、名前のマンションの引き払いから引っ越し先、引っ越し準備は万端だから!お爺ちゃんには色々辛酸なめさせられているからね、このくらいはするよ僕」
「ちょ、」
「名前は高専所属だけど京都じゃなくて東京をメインに任務してもらうから。名前は嫁に出されるとか縁切りだとか思っていたみたいだけど残念。名前は僕が買ったんだから僕の為に働いてよね。まあ結婚の自由も任務のお休みもプライベートも確保するから」
「……」
「なんなら引っ越し先に使用人つける?メイドさんがいい?」
「ど、どっちも同じじゃないですか…」
「服装が違うよー。メイドさんは洋装、使用人は和服にしてあげる。兼護衛と思ったけど、名前並みに強いのは呪術師してるから護衛にはならないし」

そういうこと。
そうだ、そうだった。と名前は思い出した。こういう人、こういう世界、こういう家なのだ。


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