呪術 | ナノ
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「伊地知くん」

久しぶり。と名前は小さく手を振った。
高専を卒業して数回は東京の高専に来ている。来る時は絶対に義兄が海外出張の時、と楽巌寺学長がそうでなければ許可しなかったからだ。
お蔭で名前は義兄似合う事もなく、楽巌寺は楽巌寺で嫌いな五条悟に遠回しに嫌がらせが出来ていたわけである。
今回もそれと同じく義兄は海外出張、そして加茂憲紀を東京の分家に連れて行くという個人任務を加茂家の当主から受けてと東京に来た。勿論高専の任務もかねて、である。

「名前さん、そういえば任務でこちらにくると言っていましたね…そちらは…」
「加茂憲紀です」

深々と頭を下げて挨拶をする憲紀。
それにつられて伊地知も同じく「補助監督の伊地知潔高です」と挨拶をして頭を下げる。

「確か、加茂家の…」
「こっちの任務のついでに分家に送る事になって」
「ああ…そうでしたか」
「夜蛾せん…学長に連絡してあるはずだけど」
「ああ、今日はお客様が来るとおっしゃっていたので、加茂さんの事ですか」
「こっちに迎えが来る手筈だって」
「では夜蛾学長をお呼びします。応接室でお待ちください」
「はい」
「憲紀、私これから任務だからここで離れるけど…問題ないよね?」
「はい。あ、名前さんは分家には」
「行かないよ。私五条だもん、加茂家の分家には流石に」
「そう、ですか…」

案内しますね。と憲紀を連れて応接室に向かう伊地知を見送る。
しばらくすると伊地知が戻り「では本日の任務の打ち合わせをしますので」と打ち合わせをする部屋に案内してくれる。
数年前に数か月だけ居た東京の高専、それほど思い出はないが、それでも少し懐かしい。
東京と京都では随分作りが違うが、最初に居た高専だからか、とても見慣れている気がする。

「実は今日の任務、凄い人が一緒なんですよ」
「え…クソアニキ、とか…いわない?海外だよね、今」
「大丈夫です、違います」

ひゃあ。と大げさに恐がるふりをして茶化すが、名前の本心である。
だから東京まで来たのに、という気持ちと、どうして東京に来てまで。という気持ちが名前の頭を駆け巡った。
しかし伊地知との間柄を思えばそうであればきっと「五条さんの海外出張急遽取り消しになりました」と連絡をくれているはずだ。今までに1度だけ実際にあり、楽巌寺に連絡したら名前の出張は他の呪術師と交代になった。
それだけ楽巌寺は五条が嫌いだし、そのためならば多少の無理もするのだ。
名前からしたら凄い執念だとも思うが、それに助けられているので黙っている。

「失礼します」

コンコン、とドアをノックして中から低い声で「どうぞ」と返答がある。
伊地知が小さな声で「驚きますよ、きっと」と笑うので名前は頭を傾げる。
部屋に入ればスーツの男性が一人、特徴的なサングラスをかけて髪は金。心当たりがある人間は確かにいるが、あの人は一般企業で働いているはずである。
それに体型だってスラリと細身だったが、その男性はがっしりとして筋肉質なのが名前でもわかる。

「お連れしました」
「久しぶりですね、お元気でしたか」
「……え、あ…な、ななみ、先輩?」
「もう先輩ではありませんが。経歴から言えば名前さんの方が先輩になるでしょう」
「え、あ!?えー…」

え、え、え、え、え。と二人を交互に見やる名前。
伊地知は知っている。京都校に行ってからもメールでやり取りしたり電話したり、卒業してからは伊地知が補助監督の仕事で京都にくれば一緒に食事にだって行っていた。
補助監督になって会うたびに疲れた顔になっていくのを心配して沢山食べさせたりしていたから、変化しているのだってわかる。
しかし1つ上の先輩で一般企業に就職した七海の変貌は名前にまさに青天の霹靂くらいの驚きだ。シュッとしていた顔は角ばっているし体型の変化、黒い制服しから知らなかったが今は黒ではないスーツを着用している。
思わず伊地知の後ろに隠れてしまった。

「何故隠れるのです」
「え…な、なんか…恐くて…」
「恐い?」
「高専の時とイメージが違って驚いているんですよ」
「す、すみません……大きい人、恐くて」

その一言に七海は「ああ」と納得したような声を出す。
此処にいるという事は復帰したのだろう、名前自身それを聞く気持ちにはなれなかったし、何度もいわれているだろうしと、というのでそのまま黙る。
七海は七海で名前と義兄の仲の悪さは在学中にあったケンカを知っているのでそれ以上に言わないだろう。そして大きい人が恐い、というのも夏油関係だろういう見当ついたからだ。
夏油に四肢を滅茶苦茶にされたというのは当時の東京校にいた者で知らない人間はいない。
夏油の身長は高く、七海はそれ程高くはないが名前から見れば十分すぎる程だ。
トラウマだと言われれば非難する気持ちも消えるだろう。

「車中隣でも平気ですか」
「あ、はい。七海せ…さんだとわかったので」
「任務にも支障は」
「大丈夫です、問題ありません」
「ではお二人とも座っていただいて、任務の内容の確認を始めたいと思います」

テキパキと任務の確認が行われ、資料にある呪霊の確認をする。等級は1級、これまで数十人の犠牲者。出現条件は一定ではなく、出現にはムラがあって任務は数日を要する。
上手くいけば1日、下手すれば数日かかる。厄介な任務だ。その数日で義兄は戻らないのだろうが、なるべく早く済ませたい。
打ち合わせを終えて車に乗り込む。
今までの任務では合同も学生のサポートが入った事も、自分がサポートにまわった事もあるから誰かが隣に居る事には嫌悪感はないが、どうも高専の先輩であった七海は居心地が悪い。勿論車のシートが悪いわけでもない、恐らく違和感しかないからだろう。七海の風貌は学生の時と大きく違いすぎるのだ。

「ずいぶん居心地が悪そうでしたね」
「……あー…」
「そういえば、学生の時からそうでしたね」
「そうでしたっけ…?」
「ええ。灰原とは仲が良いみたいでしたが」
「灰原先輩は、仲が良いというより、騒がしかったです…」
「まあそれは同感です」

車を降りて伊地知が帳を落とす。
二人になると即言われた言葉に名前は色々と濁すが、七海はそれを許さない。
名前からしてみれば灰原は騒がしくて、それでも優しさがあった。七海は堅物で、近寄りがたかっただけである。2つ上の学年よりずっと良かった。

「灰原先輩、色々構ってくれたので。夏油、さんと同じ術式で大変だろって」
「ああ、そういう性格でしたね彼」
「…別に、七海せ…さんが苦手ではなくて。なんというんでしょう、2つ上の男の先輩が苦手で、大きい人が、少し、アレなもので」
「それだけですか?」
「クソアニキはクソだし、呪詛師になった先輩には殺されかけて今ではスカウトだとたまに会いに来るし。その共通点が高身長、男性。となれば、はい」
「………、すみません。そうでしたね」
「いいんです、七海さんが、そうじゃないのをわかっていますから。七海さんも変ですよ、呪術師にならないって一般企業に行ったのに、戻ってくるんですから。私にできない事が出来るのに」
「色々あるんですよ」
「色々ですか」
「色々です。貴女だってあの五条さんと大喧嘩の末京都校に転校したじゃないですか」

ある意味伝説となっていますよ、あの五条悟とケンカした、と。意地悪く笑う七海に名前は取りあえず愛想笑いをした。


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