呪術 | ナノ
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楽巌寺は徹底的に五条悟と五条名前の接触を妨害した。
それが名前が学生の時からであったが、今回は今まで以上に妨害して妨害して妨害する。
特級の夏油傑が名前に接触したのは数時間前、窓複数名と補助監督からの報告に出自不明の帳が確認され、東京に居た五条悟から京都校に連絡があったからだ。
以前より夏油傑が名前にちょっかいを掛けていたのは報告があった。離反した時に同じ任務にどうこうしていたのが名前、同じ術式なのが名前。

「名前」
「は、い」
「五条から連絡があったが夏油傑にあったのは本当か」
「…はい。任務が終わって、食事をしていた時に」

学生の時から名前は無茶はしない、という性格は知っている。
命を犠牲にして呪霊を狩れ、とは教えていない。だからその性格は実に呪術師に適しているだろう、勝てないと思えば情報を持ち帰って報告する。万年人手不足であるこの業界で呪術師が居なくなるのは人手不足が加速する。
まして名前の呪霊操術は保守派が良しとする術式であり、新しい時代を求める五条悟の義妹であって義兄と仲が悪い。敵の敵は味方、という見方をするならば名前は楽巌寺からしたら味方なのだ。

「また、スカウトとやらか」
「本人は、そう言っていました」
「懲りない男だ。しばらくは加茂家の世話になるように。今補助監督に準備させている、あそこであれば五条のアレも簡単には手が出せまい」
「………はい」
「…一応聞くが、アレに連絡したのか」
「していません。東京校の、友人に、助けてってメールしたんです…義兄が、電話してくるなんて思わなくて」
「左様か。加茂家にも話は通してある、しばらくの任務はない。憲紀の世話、頼んだぞ」


加茂憲紀は加茂家の嫡男である。聞いた話では愛人の子、だとか使用人に手を出して産ませた子だとか。それにしても運命というか、なんとういうのか。そういう子供に限って相伝がでるのだから正妻は立つ瀬がないだろう。
名前と同じく買われたかまでは名前は知らないが、楽巌寺学長に嫌がらせで同伴させられた加茂家で出会った際に名前が「私と一緒だね」と言って身の上話をしたら懐かれてしまった。
名前にしてみれば意外ではあったものの、悪い事ではなかった。
五条悟という義兄は御三家と呼ばれる中でも異例中の異例。嫌う者も多い。その義妹とはいえ五条家の人間である名前は格好の嫌がらせの対称になる、と多くは考えたが当の本人である名前は義兄を嫌っているわけだ。
まして保守派筆頭である楽巌寺も同じ考えだったが同じく五条悟を嫌う者、従順で素直とくれば可愛がらない理由はない。最初こそ名前への嫌がらせだった加茂家への同伴も今となっては五条悟への嫌がらせになっている。なにせ親密である加茂家の嫡男が名前に懐いているのだ。

「お待たせしました五条さん。車の準備が出来たのでお送りします」

補助監督に呼ばれて名前は車に向かう。
暫く夏油は警戒して接触してこないだろうが、面倒事は名前だって御免である。
それに堂々と任務を休む理由が出来た。暫く高専だって慌ただしいだろうし、なにより原因となった名前がいては色々憶測されるのも疲れる。
車に揺られ、加茂家に向かう。今まで一人で向かう事の無かった加茂家だ。

「名前さん!」
「憲紀…」
「いらっしゃいませ名前さま。お部屋に案内いたします」
「しばらく泊まるというのは本当?楽巌寺学長がそう言っていたって」
「憲紀さま、名前さまはお疲れですのでまずはお部屋へ」
「あ、はい…」

玄関に名前の姿を見て嫡男の憲紀が声をあげ、それに反応して使用人の女性が深々と頭を下げる。
恐らくその女性が今回名前が暫く世話になるうえでの世話役になるだろう。
古い家である、そういうものは役目の人間がいるのは五条家の養子になってから知ってはいるものの、慣れることは名前には難しい。
京都校に転校して、卒業を控えた2月には五条家から卒業後使用人を何人送ろうかと連絡があった時にはあまりに驚いて考えさせてくれと言ったのは間違いではなかった。日を改めて断る事ができたのだ、流されて一人でも二人でもと言っていたら名前に自由はなかった。
世話役の女性の後ろについて行き、それに憲紀が付いて行く。
部屋に案内され、御当主に挨拶をと申し出れば「今当主は不在です、お戻りになりましたらお知らせいたします」とのことだ。

「今住んでいるお部屋、大変でしたね」
「え?」
「?だって、火事だったんでしょう?」
「火事?」
「火事でお部屋が燃えて、暫く住むところがなくてここに来たんでしょう?」
「あー…うん、そう、なの、うん」
「任務中で不幸中の幸い、というものですね。怪我が無くて良かった」
「…………」
「名前さん?」
「あ、ううん、なんでも、ない」

それではご用の際はお呼びください、失礼いたします。とその人は頭を深々と下げて部屋をでる。
部屋は客間の立派な部屋で、体一つでやってきた名前にはひどく不相応に見える。
連絡があって用意してくれたのだろう、服やら日用品が置いてあるし、テレビ、携帯の充電器が綺麗に整列してある。さすがに着物ではないあたり、わかっている。
五条家の人間ではあるが、遠縁から養子になった名前は着物は慣れないもので一人で着る事さえできない代物だ。五条家で着る機会がある時には世話役に毎回着せてもらっては苦しい思いをしていた。洋装の楽さから見ると着物は動きづらくて息苦しいのだ。

「食後の鍛錬、一緒にしませんか。鍛錬場で」
「…え、ああ、鍛錬、うん」
「最近は体を鍛えているんです、明日の朝は走り込みをしようと思うのですが、それも一緒に」

うん。と名前は頷く。
言えば名前は体自体はふつうである。一般人よりは体力があって、少し筋力がある、でもそれだけである。鍛えてはいるが思う様に筋肉はつかないし体力だって思うほどついていない。
学生の時から努力しているがあまり効果が無い分野である。
夏油に遭遇してしまったが故に、逃げることも抵抗も出来なかった事を反省して再度鍛え直すか。と名前は大きく息を吐いた。


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