呪術 | ナノ
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「子供を子供の為に売る親がいるんです、自分の為に子供を傷つける大人が居ても不思議ではないです」

それが名前の本心だった。
親が恋しい年ではないが、妹の為に売られたという事実だけは名前の心の奥底で居座っていた。
それが最善だ、といわれればそうだと思うし、先輩の夏油が涙を流したのが嬉しかったというのも本当だ。
義兄の悟には何とも言えない笑いをもらい、名前自身親に見切りが付いたともいえる。だから五条家に来てからは世話をしてくれる人間に「元の家族から送られて来たものは全部捨ててください、私の前に出さないで」と頼んでいた。
期待したくない、期待をする自分を認めたくない。期待して裏切られるのはつらいから。
地図に載るには小さくて、それでも村はあった。そこの任務に先輩の夏油と行って夏油は壊れてしまった。その際に言ったこの言葉は名前の本心であって嘘ではない。
大きな衝撃を受けて、痛みや苦痛を感じる前に意識は途切れ、気が付けば高専の医務室の天井が見えていた。

「あ、起きた」
「いえ、り、せ」
「声がらがら。うけんね、痛いとこある?」

ないです。と小さい声で答える名前。
そこから先輩である家入は淡々と出来事を名前に告げる。
一緒に行った夏油は離反、あんたはそれに巻き込まれて重体で私が治した。四肢なんて酷いもんだったよ、まあアイツ同じ術式同士同情したのか死なない程度動けない程度っていう具合。えぐいわ。と舐めていた棒付の飴をちゅぱっと口から出す。

「今悟が躍起になって探してるとこ」
「げと、せん、ぱ…りはん…」
「スカウトされなかった?」
「……さ、れた、かも」
「まじ?ウケる。断らなかったらこんなならなくて済んだのにね」

身体は治してあるから起きれるようになったら戻りなよ。と家入は医務室を出て行った。
パイプいすの上には当日持って行っていたカバンがあり、ボロボロになっている。手を伸ばして携帯を見れば、電池の残量は減っていたものの問題なく使えそうである。
それかカバンに戻して立ち上がり、少しよろけたものの言われていたとおり治っていたので歩き出した。
喉が渇いた。と思って自販機コーナーに向かう。そこで飲み物を買って、ゴクリゴクリとゆっくりと喉の乾燥をを潤すために体内に入れる。
あー、あー。と声を出せば先ほどより良くなっている。
携帯を取り出して義兄にかける。

『もしもし』
「もしもし、兄さん」
『意識戻ったのか』
「はい」
『今高専か?』
「はい」
『傑の件は聞いたか?夜蛾センと話したか』
「家入先輩から聞きました。夜蛾先生とは会っていません」
『傑となにを話した。傑はどんな様子だった、言え!!』
「あ…夜蛾、せんせい…」
「意識が戻ったのか。硝子には戻ったら連絡しろって言っていたんだが。……悟か?」
「はい」
「貸せ。悟、私だ、夜蛾だ。名前はしばらく事情聴取があるから電話はできない、いいな。携帯返す、行くぞ」
「あ、あの…まだ、声が、上手く出なくて、」
「じゃあそれを持ってついてきなさい。ゆっくりでいいから」

それから場所を変え、夏油の担任だったからか夜蛾に様々の事情聴取を受けることになった。
その際に村が最終的に壊滅し、あの場で命があったのは名前だけであったことも。
当初名前もグルではないか、との見解もあったが今現在は保留になっているという事も。そして夏油の家族も死んでいた、という話さえも。
名前がわかる範囲で、何があったかを夜蛾に話してどんな会話をしたかも隠す必要がないから全て話す。

「………そうか」
「先生、りはんって、どうなるんですか?」
「夏油の場合は、そうだな、死刑、になるだろう」
「…そう、ですか。私は?」
「お前はまだ嫌疑はかかっているが悟がどうにかするだろ、私も努める。暫くは監視対象になると思うが」
「……はい、そうですか」
「監視と言っても外には出ることができるからな、式神で暫く行動を見るくらいだ。プライベートも守られる」
「…はい」

もういいぞ。と解放されたのはどのくらい時間が経ってからだろうか。
高かった陽がもう低くなっていた。
それから数日は寮で凄し、伊地知にその日の範囲を教えてもらったりしていた。
頻繁に義兄からの電話があり、その都度出ては言われた事に関して返答だけをしていた。


「なあ名前、一緒に出掛けようか」
「家入先輩…あの、でも、まだ」
「許可が出てるよ。まあ夜蛾センから気分転換にって言われてさ、気が滅入るだろ?歌姫先輩も気にしてるし。あと式神も外れてるから、何も気にしなくていい」

半強制的に家入に引っ張られ、外出をした。
任務や学校で暫く繁華街に来ていなかったが、人が多くて正直驚いた。
名前は入学してからは校外にでるのはコンビニか任務くらいで、人が多いところは養子に来る前に行っていた量販店くらいだったからだ。
あまりの人の多さにしり込みしていると家入に「大丈夫、一応はね」となにが大丈夫かわからないが慰められた。
暫く家入に引っ張られる状態で店を眺め、休憩に立ち止まったりしていた。

「やあ」
「あ…」
「お、裏切り者じゃん」
「久しぶり。元気?」
「そう見えるなら目が悪いんじゃね?名前に関してはお前なにしたよ」
「ごめん…本当はあんなことするつもりじゃなかったんだけど」
「殺しにきた?」
「まさか。名前の事はスカウトしても殺さないよ、同じ術式だし、なにより名前は可哀想だから」
「……」
「一応悟に連絡するわ」
「やめてよ」
「無理。それに名前を守ってやらなくちゃ」
「名前、私と一緒に来ない?」

呼ばれた名前はびくりと肩を震わせる。恐いわけではない、と思っていても、本能が恐怖を覚えているのだろう。あれだけの怪我を負わされたのだ、体が、本能が、すべてが敏感になっている。

「うっわ、マジで言ってんの?悟キレるよ」
「それは恐いな…硝子、名前と話しがしたんだけど、少し良い?」
「あー…まあ、悟には連絡したし、傑に殺されるかもしれないし。名前はまあ殺さないだろうから」
「い、いえいり、せん、ぱ」
「うん、そうして。硝子は名前を見捨てるんじゃないからね、そこは勘違いしないで。最後の同級生のお願いを聞いてくれただけだから」

悪い。と家入は不安そうな名前を置いて少し距離を置く。
ここで戦闘になっても家入の術式では巻き込まれて死ぬだけ。そもそも家入の術式は戦闘向きではなく、医療なのだから戦闘になりそうだと思って退避するのは間違っていないのだ。

「名前、ごめん。君の思っている事は、君のモノなのに…私はそれが許せなくて、暴力を振るった」
「……」
「ねえ、名前。一緒に行かない?君を苦しめる呪霊が生まれるのは猿のせいだ、猿のいない世界を作ろう。そうしたら君は苦しい思いをしなくて済む」
「……い」
「名前?」
「みんな、みんな、きらい。やさしい、こと、いって…みんな、最後に、捨てるんだ。きらい、せんぱいも、ぜんぶ、大嫌い……なんで、殺してくれなかったの、殺して、くれたら……」
「名前…」

苦しくないのに。全部終わったのに。と名前は人の往来がある中心でボロボロと涙を流す。
はたから見れば別れ話だろうか、と人が振り向いて横切って行く。
夏油が限界であった、ならば名前は限界がきた。だろう。
それを暴力で嵐の様にふるった夏油とただ人目をはばからず涙を流した名前。どちらも人間的で、幼稚だ。

「傑!…、と、なんで名前が」
「やあ久しぶり。名前は硝子と居たのを二人で話たいからって硝子には外してもらった」
「おい、名前。お前あっち行け」
「………、」
「ねえ名前。答えは今じゃなくていいから、考えておいてよ」
「んだよ、それ」
「名前をね、私が思う猿のいない世界になるために一緒に行こうって誘ったんだよ。だって可哀想だろ?呪霊を取り込むのにあんなに苦しんで傷ついて、妹の心臓の為に売られて今度は自分の心臓が危ういんだ。猿の為に苦しむのが私達だなんて、間違っているだろう?じゃあね。悟、名前。良い返事待っているよ、私と同じ術式の名前」

雑踏に消えていく夏油を追いかける事も出来ず、だからと言って泣いている名前をどうする子も出来ずにただ夏油が消えた方向だけを眺める悟。
ここで止めなければ、と思っていても一歩が踏み出せない。そんな葛藤があったのだろう。
くそ!!という大きな声で暴言を吐き、名前の手を持ってその場を後にした。

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