呪術 | ナノ
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「………ごめん」
「…あ、倒れたんですね、私…」

白い天井、白い蛍光灯が灯っている。消毒の特有の匂いがある、保健室、いや医務室だろう。
体術訓練やその他で怪我をしては伊地知とよく通っていた部屋である。
ただベッドの上に横たわるのは初めてだった様な気がすると名前はぼんやりと思う。

「まさかこんなになるとは思わなくて、本当にすまない」
「いえ…私が自分でしたので、気にしないでください。倒れてすみませんでした」
「…っ、」

夏油の協力もあり、呪霊を名前が抽出したまでは良かった。
名前が抽出したのだから名前が取り込むための形をとっていたソレは、酷く尖った石の様だった。
夏油が抽出するのが黒い球であれば、名前が抽出したのは尖った石、もしくは黒いナイフの様だ。
それをどう取り込むのか興味があった夏油は「取り込んで見せてよ」と言ったのだ。
名前にしてみれば別段面白くもないその行為をわざわざ見たいのか、という程度で「わかりました、でもここでいいんですか?」と聞けば夏油は意味が解らないと言わんばかりに「場所なんて関係ないだろう?」と笑った。

「ごめん、もう…もうあんなこと言わない、呪霊を取り込めなんて」
「呪霊操術なので、それは無理だと思います。そのために私、買われたので」
「…っ、でも、今回のは」
「目が覚めたみたいですね、平気そうならもう戻っていいですよ五条さん。夏油くんももう戻りなさい」
「はい、ありがとうございました」
「…立てる?」
「はい、平気です」

医務室を担当する呪術師が顔を覗かせて名前に意識が戻った事を確認すると「戻りなさい」と促す。五条家の医師から対応を聞いているのだろう、特に診察もなく部屋から出ろと言われてしまった。
名前は言われるままに靴を履き、動かない夏油を引っ張って医務室を出る際に「お世話になりました」と礼を言って出る。

「あんなことになるとは、知らなかったんだ」
「夏油先輩のせいじゃありません、私が悪いんです。あの等級取り込むの初めてだったので」
「ごめん…いや、一言ですまないのはわかるんだ」
「気にしないでください、これから沢山しなくちゃいけない事なので」
「名前は、まだそんな事をするの?」
「…?夏油先輩だって、してるじゃないですか」
「私は君みたいに、胸にそれを突き刺すようなやり方じゃない。心臓に負担がかからない、倒れる事だってない、不味くて苦しいのは…君程じゃない」
「………変な先輩。誰もそんなこと言わなかったのに、先輩だけ、そんな事言うの。変なの」

廊下を夏油を引っ張りながら歩いていた名前だが、思わず止まった。
今までそんな事、養父にも養母にも、実の両親にだって言われた事はなかった。そもそも名前はそれを親に言ったことはなかったし、言ったところで「いつまでお化けが見えるだなんて言っているんだ」と一蹴りされるのがわかりきっていたからだ。
自分よりも病弱な妹の方が大切なのだ、それは仕方がない。手がかかる方が可愛いのは常だし。諦めていた、それが普通だったから。

「ねえ名前、私達がこんなに消費さているのに…何も知らない奴らが多すぎないか」
「夏油、先輩?」
「名前がそんなに苦しまなきゃいけない理由はなんだろう、私があんな不味い物を摂らなきゃいけない理由ってなんだろう」
「理由、それは必要ですか?」
「必要だよ、だって、苦痛じゃないか」
「おい名前、お前…あれ、傑?」
「さ、とる…どうして」
「いや、名前がまた倒れたって聞いたからよ。傑と一緒の任務だったのか」
「はい、でももう大丈夫です」
「そーかよ。傑も悪かったな、迷惑かけて」
「めいわく…それは私が名前に」
「あ?お前傑とそんな仲良くなったのかよ」
「兄さんと同じ苗字だから…」
「ああ、そういう。ほら寮もどんぞ」

はい。という淡泊な名前の返答。
急に姿を現した名前の義兄の悟を見て名前はサッと夏油を引っ張っていた手を放す。
心配していたのかは不明だが、名前の無事を確認してから寮に戻るつもりだったらしいのは確かだ。こうして名前を見て本人の口から確認している。そばにいた夏油には少し驚いた様子だったが、言えば悟自身が「傑と同じ術式のがき買った」というくらいなのだから、多少は二人が親しくなるであろうということは想像していただろう。
名前は悟の後ろを歩き、その横に夏油が並ぶ。

「俺の親友どうだよ」
「…今日呪霊を貰いました」
「だからかよ。今度から現場で取り込むなよ」
「はい」
「違う、私が取りこんで見せてくれとお願いしたんだ」
「呪霊操術同士気になったか?次はすんなよ」
「はい」

何かを言おうとして顔をあげた夏油に名前は袖を引っ張り、「しー」と口の前に人差し指を当てる。
ここで言いあいになる、というより、面倒だから静かにしましょう。という意味を込めて。

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