呪術 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「どうしたんですか?」
「………、これ」

呼び出されて渡された一枚の用紙。
言うなれば指令書、というやつである。1年である名前がそれを貰う事は少なく、教師が同伴で同級生の伊地知と一緒にする任務が主となっている。それを渡されたということは、教師の同伴もなければ伊地知も一緒ではないという事。
同行者の欄には苦手意識が強い夏油傑の名前がある。
教室に戻って暗い顔をしていた名前を気にして伊地知が声をかけてくれたので名前はそっとその紙を差し出す。

「あー…」
「伊地知くんも一緒に行こ…」
「無理ですよ…これ名前さんの任務じゃないですか…」
「夏油先輩と一緒とか最悪…」
「夏油先輩恐いですもんね…でも、同じ術式同士だし、ほら」
「恐いモノは恐いんだよー。灰原先輩とか七海先輩ならいいのに」
「酷いな、私そんなに恐いかな」

ひゃ!という声がシンクロする。
廊下と教室を隔てる窓から顔を出して、不穏な笑顔で名前と伊地知を見ている夏油の姿。
慌てて「いやー」「その…」「えっと」と二人で誤魔化すが、上手く誤魔化せるだけの場数も踏んでいなければ誤魔化し方も知らない。素直に二人で「すみません」と謝ると、夏油は顔色の悪い顔で小さく笑ったふりをした。

「それで、私がどうかしたのかな」
「あ…えっと、これ」
「ああ、これ。私も今呼び出しを受けたんだけど、これか。上級生と一緒の任務は始めて?」
「この前、灰原先輩と一緒でした」
「君は?」
「え、あ…七海先輩と」
「ふうん。まあ大体1年は2年と一緒に組まされるのが先だからね。まあ名前、同じ術式同士頑張ろうか」
「は、はい…」

じゃあね。と重そうな足取りでゆっくりと歩いて行く夏油。居なくなったのを確認してから二人で大きな溜息をついた。
ああ、恐かった。と。
灰原から聞いた夏油と、今現在二人が知っている夏油は全く持っての別人ではないかと思うほどである。先輩から聞いている人物像とはかけ離れているのだ、確かに話し方や態度は優しい部類だろうが、それ以外に底知れない暗さがある。
何を考えてるのかわからない。暗い。ニコリと笑うのが上辺だけ。それが1年でもわかるくらいあからさまなのだ。いや、隠しきれていないのがわかるのだ。
その不気味さが余計恐さを加速させているのを本人がわかっているのかわからないが、1年の2人には十分すぎるくらい恐い存在である。同じ3年の五条悟は別の意味で恐いのだが。


指令書に書かれていた時間に集合場所に向かえば夏油が一人で待っていた。どうやらまだ補助監督は来ていないらしい。

「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。早いね」
「でも、先輩の方が早いです」
「私も今来たところさ。悟なんて遅刻の常習犯だから、君もそうかなって思って」
「血は、繋がってませんから。遠縁らしいですけど」
「遠縁…特級の五条悟の遠縁に特級の私と同じ術式か…ある意味特級クラスだね」
「………」
「ああ、ごめん。少し意地悪だった」

嫌味だな。と思って名前が黙ると、それを察したのだろう。
ごめんね。と謝ってくる辺り、そういう人なのだろうと名前は思った。そうやって隙を作って自分のせいにして謝って、そうやって取り入る人なのだろう。頭のいい人、になるだろう。
名前は黙って頭を振って俯く。
同級生の伊地知や2年の先輩だったらいいのに、というのが顔に出そうだからだ。

「…気分でも悪い?」
「……大丈夫です、悪くありません」
「女の子の後輩初めてだから、よくわからなくて。嫌だったら言って」

嫌です。とは面と向かって言えないだろう。ついでに言えば指令書だってここの誰の責任でもないし、ついでに言えば拒否なんてできる立場ではない。
どうして苦手意識があるのだろう、とも名前は思うが苦手な物は苦手なのだ。
それに関しては伊地知も同じ意見なので余計仲間意識が強まるというものだ。
そもそも中学で後輩に女子がいただろ、という心の突込みもあるから黙るしかない。余計な一言で攻撃されたくはない。
黙ったままで居れば急いでやってきた補助監督の人が「すみません、会議が少し長引いて」と説明しながら車のカギを開けてくれた。
車に乗り込み、資料の確認を補助監督が始め、事前の資料の質問が無いかを確認していく。
これが上級生との初めての任務ではないし、補助監督の人も初めての人ではない。
ただ同じ後部座席に座る上級生の存在のが重い。

「以上です、何かありますか?」
「ありません」
「…ありません」
「では現地まで少し時間がかかりますので」

ご自由に。と言われる。
何をどう自由にするのだろうか。と名前は貰っていた資料の端を指で折る。
前回の灰原は矢継ぎ早に色々話掛けられて大変であったし、そのことを伊地知に言えば伊地知は伊地知で「七海先輩は寡黙で緊張しました…」とお互い大変だったね、と溜息をついたのを覚えている。
ちらりと様子を伺うと携帯をカチカチと動かしているのが見えた。
そのまま車に揺られて数十分、いや、小一時間。現場について補助監督が帳を降ろして任務開始である。
上級生である夏油の指示に従い、名前も呪霊を出して当たりの警戒に努める。

「かわいいね」
「え?」
「その呪霊」
「呪霊に可愛いとかあるんですか?」
「弱そうで」
「そ、そうですか…」
「あ、ごめん…」
「いえ…」

呪霊に感情はないが、名前の感情を感じ取ったのか少しだけ夏油に向かって威嚇のような行動をとる。呪霊操術は雇用関係という説明を受けているが、まあ確かに職場が馬鹿にされれば自分もおのずと馬鹿にされていることになるので怒る事もあるだろう。呪霊に感情はない、が。
その点夏油は特級だけあって呪霊は一定の行動しかしていない。感情が動かない、動いても呪霊操術に影響がない、その程度の事なのだろう。
別に名前も腹が立つわけでもない事実ではあるが、ざわつくのは仕方がないことだろう。
夏油も思わず出た言葉で黙って索敵を続けた。

「夏油先輩、上」
「ああ、あそこか」
「高いですね」
「高いね、上に行ける呪霊いる?」
「行けるのはいますけど、人を乗せるタイプはいないです」
「じゃあ、あれは名前にあげるよ」
「え」
「私ああいうタイプ持ってるし。勿論摘出には協力する、名前の経験にもなるしね」

私のを貸すから近くまで行こうか。と夏油は笑った。

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