呪術 | ナノ
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「うんうん、そうなんだ。へー」
「大変ですね」
「ゲトー様にお話聞いてもらえるといいですね」

ニコニコと名前さんは施設にやってくる猿と話しているのをもう何度見ただろう。
猿と話すなんてこと、しなくていいのに。と思うが、名前さんはそれを辞めない。
そもそも名前さんは猿だからと言って別に何も思ってはいないのだ。
猿に搾取されていたとしても。私はそれが許せない、なのに、名前さんは許している。
名前さんが呪術師を辞める事になったのも猿のせい、家族が猿だったせいで居心地が悪かっただろうし。猿に関わって良い事なんてないのに。
あれから名前さんと美々子と菜々子と一緒に暮らし始めた。
名前さんは「え、信者さんとかになんていうの?恋人できたらどうするの?私家政婦に徹しているべき?やっぱりゲトー様って言わないといけないワケ?」と言っていた。
それを曖昧にして一緒に住んでいる。
否定されることはない、でも、改めて聞くのも答えるのも恐いから。

「ゲトー様にお見合い?」
「そうなんだよ。うちの子会社の社長の娘なんだがね、気に言ってもらえると思うかね」

どこぞの猿社長がこのところ名前さんを気に入っているらしいという情報は入っていた。名前さんに聞けば「まあよく話しかけられるけど、そういうんじゃないよ。今日は夏油さまにお話を聞いていただけるだろうか、とか。世間話する程度だよ、あと愚痴」と洗濯物を畳みながら笑っていたわけだけど。
猿達は私と名前さんの関係を知らない。言えば私が教祖で名前さんは施設で掃除やらなんやら雑用をしている従業員、的なものだと思っているだろう。
その猿社長は名前さんに嬉々として写真を広げて見せているし、名前さんは名前さんで「わあ、美人ー」なんて笑っている。

「やあ、こんにちは。今日はいい天気ですね」
「げ、夏油さま!」
「こんにちは。そうですね、今日は良い天気ですね」
「本日はお日柄もよく、実はですね、ああ。お話のお時間ではないのですが、個人的に良いお話を」
「はははは、聞こえていましたよ。お見合い、でしたか」
「は、はい!」
「生憎私には心に決めた人がいるのです」
「な、なんと!では…」
「写真見るくらい…」
「いや、いいんだよ。私が勝手に良かれて思ってしただけだから」

はははは…と猿にしてはまあまあの誤魔化して手荷物をぎゅっと握ってその猿は逃げていく。
ここでの私の地位は最高なのだ。私が一度でも教徒を拒否したらもうその猿は此処に足を踏み入れることも出来ない。
それは猿にとって酷く、とても恐ろしい物になっている。そう躾けた。

「話だけでも聞いてあげればいいのに」
「聞くだけ無駄さ。名前さんもあんな話に乗らないで」
「意地が悪いなあゲトー様は」
「……名前さん、ああいう話結構聞く?」
「ん?まあね。ゲトー様に取り入りたい人とか、本当親切心からの人とか。たまに私にもお見合いの話来るよ」
「は?聞いてないんだけど」
「今はじめて言ったもん」
「どの猿?破門にする」
「恐い恐い。話の中の事だよ、孫なんてどう?っていう茶飲み話」
「名前さん、猿とお茶飲んだの?」
「突っかかりすぎだよ夏油くん…」

じゃあ私そろそろ仕事に戻るね。と手を振る名前さんに制止を掛ける。
ここは私がトップなので私がしたいようにできる。
だいたい名前さんのしている仕事は簡単なもので、してもしなくてもあまりかわりはない。そういうと名前さんはガッカリするのでいわないけれど。名前さん自身も知っているから余計ガッカリするのだ。
「少し私の部屋で話そうか」と言えば名前さんは此処ではノーとは言えない。ここで拒否したら名前さんは外との関わりがなくなるからだ。
バイトは駄目だと言いつつ、私はたぶん名前さんが黙ってコンビニだとかのバイトを始めても目をつぶるだろう。名前さんが私に騙されているふりをしているから。
でも名前さんはそれをしない。私が恐いから、ではないと思う。
名前さんは酷く嫌な顔をして、そして諦めた顔で「はぁい」と返事をする。
私が使っている部屋、社長部屋があるなら教祖部屋だろうか。なんだか胡散臭いので、とりあえず私がここでの個人的に使う私室に向かう。
私室と言っても私が休憩がてらに使う簡易的な部屋だ。
美々子と菜々子がここで宿題をしたりテレビをみたりお菓子を食べたりと、本当に私室である。

「座って」
「……はい」
「どの猿にお見合いだの言われたの、他にお茶とかした猿はどれ」
「お茶って言っても、私が草取りとか掃除して挨拶してくれたおばあちゃんとか。『いつもお掃除大変ね、よかったらどうぞ』ってお茶くれて一緒に飲んだりしただけ。お見合いといっても、その延長で『働き者のお嫁さんでもきてくれたらいいのに、お嬢さんみたな』って言われただけ」
「どれ。どの猿」
「呪詛師でてますけどゲトー様」
「おっと失礼。でも名前さん、私が言うのもわかってくれるよね?」
「わかりました。」
「本当に?」
「本当に。あんまりしつこいと私夏油くんに黙ってコンビニアルバイト始めちゃうからね」
「酷い。酷いよ名前さん、私は名前さんを思っているのに」
「思う方向が悪いし重いよ…」
「ましてコンビニなんて猿の集合体じゃないか。そんなところに身を落とすなんて…うううう」
「そっちかー…うーん」

私は名前さんに甘い。そして名前さんも私には甘い。
たぶん私がこうして呪術師をしているのを自分のせいだと思っているからだろう。
別に名前さんの件がきっかけではないし、きっかけは色んなことが積み重なったものだ。よくいう女性の怒りはポイント制、それに近い。私の容量をただ名前さんの件が入ったことによってオーバーしたに過ぎないのに。
どうして名前さんは私の為にこうしてくだらない事で悩むのだろう。

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