呪術 | ナノ
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※BadEndにしかならないIF


「私が呪詛師?どうして」
「だって、あんなに仲が良かった五条くんとか硝子ちゃんと連絡取ってないじゃない」
「私たちはいつまでも子供じゃないから、高専は名前さんが退院するのと同じタイミングで退学したし働く場が変われば連絡だってあまり取り合わないよ。それに私高専所属じゃないからね」

いやだな名前さんてば。と私は笑う。
名前さんはあの事件で呪術師の能力を失った。失った、というには少し語弊があるかもしれない。呪霊を見る能力だけが失われてしまった。
視覚を使っての術式だったから、それが使えないという事は確かに喪失なのだろう。
しかしそれまで名前さんが呪術師として命を削っていた事を私も、双子も知っている。
生死をさまよって生きている今との引き換えだと思えば私は実に安い交換材料だと声を張るだろう。
名前さんが退院をする日に名前さんの家族を殺した。犯人を殺した。美々子と菜々子の村を壊滅させた。自分の家族を殺した。
そして名前さんを迎えに行って、そのままさらった。
私が用意した小さなアパートで美々子と菜々子と名前さんが暮らして、私はとある教団の教祖となった。それまでは貯えがそれなりにあったし、発覚する前に銀行から出せるだけ出した。裏口座の作り方なんて簡単だし、そもそも教徒に調度いい猿がいた。

「……じゃあ、硝子ちゃんとか五条くんの連絡先は、知ってる?」
「まあ、一応」
「じゃあ今、ここで電話してよ」
「どうして?」
「呪詛師じゃないって証拠、それだけでいいから」
「それだけで証明になる?」
「私はそれで信じる。だって、夏油くん私に新しい携帯だって準備してくれたけど、連絡先に全然高専の人の名前ないんだもん」

当たり前じゃないか。
名前さんの家族はもういない、高専になんて戻れない戻させない、名前さんは術式が沈黙してはいるが猿ではない。
あるのは全く関係の無い教徒の、いえば名前さんの相手をさせるのにちょうどいい猿だけ。あれはいい猿達で決して名前さんを傷つけなければ大層丁寧に扱えと調教してある。
しかし今回は困った。
呪詛師仲間にも悟に似た声の奴なんていないし、あの性格を真似るなんて呪霊だって無理だ。

「………、本当はね、私悟たちと方向性の違いで縁を切ったんだよ」
「なにそのバンドの解散理由みたいな嘘」
「…名前さん、そういう俗っぽい事知ってるんだ」
「一般家庭育ちですので。私に言えない理由なの?」
「でも、方向性の違いで縁を切ったのは本当。嘘じゃないよ」
「………」
「疑いの眼差しが痛いな」
「五条くんが、夏油くんと縁を切るなんてありえない。夏油くんが切ったんでしょう」
「まあ、そうなる、かな。凄いね、名前さんはそんな事もわかるんだ」
「わかるよ。五条くん、色んなことに関して夏油くんの事信頼してたから」
「…へ?」
「五条くん、夏油くんの後ろ追いかけて雛みたいだったもん」

あんなデカい男が?と思わず笑う。
少し俯いたままの名前さんは小さく「うん」と呟いて頷いた。
名前さんにはそう見えていたのか、悟は後ろじゃなくて前にいたんだ。いつも私の前にいた、追いつけない何かがあった気がする。
もう、絶対に追いつけないし、追いつこうなんて思わない。言えばもう道が分かれてしまっている。
悟は右、私は左。
交差する可能性はあるけど、私はよっぽどのことが無ければその交差点には踏み入れないだろうし。

「呪詛師じゃない?信じてもいい?」
「もちろん」

嘘だけど。私は呪詛師だ、呪術師なんて辞めている。
でもそれを名前さんに言ったらここから逃げるかもしれない。逃がすつもりはないけど。記憶をいじれる呪霊がいたかな、での記憶をいじったら名前さんが名前さんではなくなってしまう。

「名前お姉ちゃん、ただいま!」
「あ!夏油さまもいる!」
「おかえり。美々子菜々子」

パタパタと足音がしてドアが開いて子供が二人顔を出した。
あれから名前を姉と慕って私の計画に賛同した双子は私と上手くやっている。
私も双子も名前さんが大切だから。私も双子が大切だし、双子も私を大切に思ってくれている。だから名前さんを守るためだよと言う私の言いつけをよく守ってくれている。

「おかえり、手を洗って。今日はお菓子貰ったからそれおやつにしようか」
「ほんとう!?」
「やったー」
「…………、夏油くん。私は夏油くんの事信じるよ、嘘つくなら、上手についてね。私も上手に騙されるから」
「…………、うん。なんていっても、私は教祖様だから。それくらい簡単だよ名前さん」

あー…気づいていたわけか。
でも、私の傍をはなれないから。だから騙しておいてくれというのか。
手を洗いに行った双子が開け放したドアを見ている名前さんをそっと抱きしめる。
あまり反応はないけど、それでも、内心泣いているのはわかる。
名前さんは猿が嫌いではない。一般家庭の出身だ。母親との折り合いは悪くても嫌ってもいないのは知っている。
私が呪詛師だと感づいているあたりでもう自分の家族はいないというのもわかっているのだろう。連絡しないのも、できないのも。

「名前さん、私は私たちが生きやすい世界を作りたい。そうして美々子と菜々子も、名前さんが嫌な思いをしない世界」
「私もう呪霊見えないのに」
「大丈夫、名前さんの術式は寝ているだけだから」
「呪術師、できない」
「いいよ、名前さんは私の傍に居て美々子と菜々子と暮らしてくれれば」
「片棒も担げないじゃん」
「ふふふ。名前さんらしいね」

大丈夫、片棒なんていらないよ。名前さんはもう私の仲間だから。

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