呪術 | ナノ
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「「ええええ!!!!???」」

声がかれて顎が外れる程の驚愕。
サプライズを仕掛けた方の五条は実に良い笑顔をしているのが実に腹立たしいことこの上ない。
何を隠そう名前と補佐監督の伊地知が声を揃えて驚いたのは高専を呪術師にはならないと言って卒業した七海健人だったからだ。

「なななな七海くん!!??」
「お久しぶりです名前さん、伊地知くん」
「呪術師に復帰ですか!?」
「そうそう!脱サラ呪術師なんて史上初なんだじゃない?」
「嬉しいです、またこうして会えて…ねえ名前さん」
「へ!?あ、うん……わあ、七海くんだ…えー…」
「つーか七海、お前名前さんと仲良かったくせに名前さんに言ってないのかよ」
「それほど仲が良いとは言わない程度にですよ、ねえ名前さん」
「え!?あ、いえ…はい、そうですね」
「ちょっとーなになに?この雰囲気。僕にも教えてよ」
「うるさいですよ。伊地知くん仕事内容をお願いします」

伊地知が焦った様に返事をして資料を名前と七海に手渡す。
名前はあれから地道に仕事をして今現在準1級というところまで来た。勿論平坦な道のりではなかった。弟が呪詛師に離反したという事実を元に信用ならないという難癖をたくさんつけられてきた。それでも推薦があって何とかここまで、実際血を流しながら掴みとってきた。
それはそれとして、今後輩が復帰という事実を「オッケー!」と受け止めるだけの度量は持ち合わせていないのだ。

「以上です」
「はい」
「……で、なんで五条くんはここに?」
「えー、そんなの先輩と後輩が心配だからに決まってるでしょ。で、なんで七海は名前さんに相談してないワケ?」
「名前さんとは私が20歳の誕生日を機に会っていないだけです」
「うげふ!」
「なんで!?なんでそんな事したんですか名前さん!?名前さん七海のこと気に入ってましたよね!」
「気に入ってたからだよ!察しろよ!!20歳になってただの先輩がご飯奢ってたら彼女出来た時に困るだろ!!だからだよ!!」
「待って…僕名前さんにご飯奢ってもらったことないんだけ……え、初耳」

一瞬にして冷静になった名前は貰った資料をくるくるとまとめて五条の頭をスパンと叩く。その丸まったままの資料を手でパシパシと叩くようにしてから「伊地知くん、七海くん。任務に向かいましょう」と切り替える。
普段から五条は人の神経を逆なでするような言動や態度が多い。慣れていないといちいち反応しては腹を立ててしまうと言ではあるが、逆に慣れてしまえば無視することで回避できると言う事もわかるのだ。
名前の場合一応は反応してやる。というよりも一度は反応してしまうのだが。

「えーなんでなんで?僕だって可愛い後輩でしょ?ねーえー」
「ええい付き纏うな」
「セクハラですよ」
「は?僕と名前さんの仲ですよ」
「五条くんに奢るご飯はありません!」
「えー?」

もう一つパシンと叩くと流石にやりすぎたと思ったのだろう。いや、飽きたという方が正確かもしれない。大人しくなった五条は「まあ僕の方が稼いでるもんね」と要らない一言まで残す始末。
歌姫であれば烈火のごとく怒るだろうが名前はもう無視する方が楽であると思っているのでそのまま黙って伊地知の車まで向かう。
後部座席に乗り込み、手持無沙汰もあるので後部座席組は再度資料に目を落とす。
伊地知の「では出発します」という落ち着いた声がすると車が発進した。

「…戻ってきちゃったね」
「ええ。すみません」
「本当。私の楽しみだったのに」
「楽しみ?」
「そう!七海くんの結婚式に招待してもらって子供が生まれたら出産祝い送ってさ、それを影から応援するのしたかったのに」
「………人の人生で楽しまないでください」
「ねー伊地知くん!ここだとそういう事と縁遠いからそういう楽しみあるよね」
「ははは、名前さんはよくそう言われますもんね」
「名前さんが結婚したらいいじゃないですか」
「え、それ本気で言ってる?」
「……すみません、失言です」

冷たい名前のその言葉と声色で察した七海は謝罪する。
七海も名前がそういう事をしない、というより出来ない事を理解していたはずだった。高専時代の事件があって名前はそういう一般的な事が自覚する限り出来ない、そしてそれを知る人間も名前がそれが出来ないだろうという事も知っている。
そもそも呪術師自体がそういう事に関して縁遠い。常に死が近く、死体が残れば良い方。そんな職業の人間と結婚する人間はかなり少ない。
一般家庭から名前のような人間と結婚する人間はいないだろうし名前もしたいと思うはずがない。

「ねえ、復帰祝いにご飯食べに行こうか終わったら。伊地知くんも」
「え、私もいいんですか」
「いいよいいよ。だって後輩だし、まあ良い所にはちょっといけないけど」
「あーそうですね」
「どうしてです」
「私の格好が高いところに入る服装じゃないって事」
「……では個室のある店を予約しましょう」
「七海さんがするんですか…?」
「手頃な価格で個室のある店を知っていますので」
「じゃあそこお願います。金は出す」

伊地知と七海はスーツだが名前は黒を基調にした服装、というだけである。
職業柄あまり良い服を着たくない、というのが本音である。なにせこの仕事はキツイし汚いし、すぐ汚れるし破れるのは当たり前。昔に比べれば昇級しているから粗相はない、とは言えない。昇級する度に来る任務の難易度が上がるのがこの世の常。
綺麗な服を着ていたいならこの仕事はできないだろう。

「ん?なんだ」
「電話ですか」
「ちょっとゴメン。はい、もしもし。何の用?」
「五条さんですね」
「五条さん?さっき会ったのに?というか名前さんの番号ご存じなんですね、あの人」
「わかってるって、明日でしょう?ちゃんと時間通りに行きます。そっちこそ遅刻しないでよ。前回も前々回もその前も遅れてきたんだから」
「ああ、伏黒さんの子供お二人ですよ」
「フシグロ?」
「ええ、五条さんが面倒を見ている禪院の血筋の子がいまして。名前さんも一緒に見ているそうです」
「はいはいはーい、じゃあ切るから。あーはいはい、さいつよさいつよ」
「明日お出かけですか」
「ああ、うん。テーマパーク行くから一緒にってね。もう七海くんが復帰したら今度は津美紀ちゃんの幸せ鑑賞にしょうかな」
「人の人生干渉しないでください」
「鑑賞くらいさせてください、私にできない人生の輝きが見たいんだ」

二人の会話に通じているようで通じていない部分があるが大きな問題ではなさそうである。
名前がふん!と強めに鼻息を荒くすると七海は面倒臭そうに「そうですか」と今度は自分の携帯電話を触って電話を掛ける。
名を名乗り、短く予約を入れると「では」と切るあたり元サラリーマンの面影がある。

「では今夜予約をいれましたが…名前さんはいいのですか」
「大丈夫大丈夫。前は寝ないで行ったから。それに伊地知くんの車でちょっと寝るし」
「前回は冷や冷やしましたね」
「私より伊地知くんの方が焦ってたもんね」
「五条さんがマジビンタとかいうもので…まあその五条さんが居なかったんですけど」
「お前が!いないんかい!!ってなったよね、あれ…」

何も変わってないどころか悪化していませんか。という七海の問いに二人は「まあ…五条(さん)だし」という謎の連帯感を持って答えると、七海の懐かしい深い溜息が聞こえた。

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