呪術 | ナノ
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結果は残酷だった。
夜中にかかってきた夜蛾先生の電話は先輩が死んだ事を告げたのだ。
反転術式なら助かったはずなのに!と声を荒げれば被害にあった時には致命傷で、今やっとその連絡がきたのだという。他にも被害者はいて、同行していた男性補助監督も死んだのだという。他にも老若男女関係ない被害者、死んだのは2人で他は重傷、重体が大半。
軽傷も居るが病院は混乱状態、助かる可能性から救い上げて行ったのだろう。

「…どうしたの?」
「こわい夢、みたの?」
「…………、ごめんね」
「いっしょに、ねる?」
「こわいゆめみるとね、名前お姉ちゃん、いっしょにねてくれるの」
「せん、ぱいが、……名前、お姉ちゃんが、死んだって」

ああ、子供相手に何を言っているんだろう。
そんな直接的な言葉で伝えるものじゃない。
私がボロボロと涙を流せば双子は困ったような様子を見せて、小さな手で私の頭を撫でた。


気が付けば朝で、どうやら3人でリビングでかたまって寝てしまったらしい。
目の周りは乾燥してぱりぱりとするし、双子に至ってはブランケットさえかかっていない。
夢じゃない、現実だったのだと、思ってしまった。
遺体は病院から何処に行くのだろう、高専だろうか。灰原の時とは違う死亡事例だ。
このアパートではないのは確実だろう、ここには子供しかいないのだ。家族が引き取るにしても、一度は高専で安置されるのだろうか。
電話で確認しないと、でも双子のご飯やら、もし高専であれば双子を連れていかなくてはと色々頭がグルグルとする。だめだ、顔を洗おう。

「先輩…」

意味もなく、いや、寂しい思いがこぼれて「先輩」と呼ぶ。
勇気が無くて名前で呼べなかった先輩。
震えた吐息が漏れ出る。

朝食を終えて双子を着替えさせ、それから高専に連絡を取る。
日曜日の朝のアニメは通常通り放送されてはいるが、他の局は見事に昨日の事件の事ばかり。
若い10代の女性と20代の男性が犠牲に。
幼い子供を庇ったらしい。
弱そうな女性を狙った犯行。
女性は見るも無残な状態。
男性と女性は付き合っていた。
見るのも馬鹿馬鹿しくなる。
アニメが終わるのを確認して双子を連れて高専に向かう。
双子に「どこ行くの?名前お姉ちゃんのとこ?」と聞かれたので頷いた。


「傑、連れてきたのか…?」
「子供だけ残すわけにもいかないので。先輩の件は一応伝えてあります」
「……そうか。会わせるつもりか?」
「家族ですから」
「……今名前の御家族が面会に来ている。昨日の段階で向かっていたらしい」
「そうですか…」

仲があまりよくはない。というのは先輩の口から聞いていた。
確か幼いころに父親が再婚して、新しい母親と兄ができたんだったか。新しい母親は呪霊が見える体質である先輩を毛嫌いしたのだという。
確かに実子でさえ戸惑うのに再婚相手の子だとなれば厄介だろう。それに反して兄の方は味方だったらしい。らしいというのは先輩がたまに兄に電話しているのを聞いていたからだ。電話する場所は決まって寮の玄関だった。
双子を連れて安置室まで向かい、すぐそばのベンチに座る。まだ家族が居るらしい。中から声が聞こえたのだ。

「いやよ!どうして家が引き取るの!?気持ち悪いじゃない!」
「母さん、そんな事言ったら名前が可哀想じゃないか」
「父さんからも言ってよ!私この子が変な事言うからノイローゼになったのよ!?」
「名前だって君を困らせるために言ったんじゃ」
「困らせるために、嫌がらせに決まってるじゃない!私が気に入らなかったのよ、だから!だから!!」

死んで清々したわ!だからもう私の視界に入れないで!墓も、仏壇も、写真だって!!全部お断りよ!!
ヒステリックな声だ。双子は怯えて身を固く寄せ合っている。
ああ、先輩。先輩が双子を助けたかった理由は私だけじゃなかったんだ、幼い自分に重ねていたんですね。と不躾ながら思ってしまった。
あんなに優しい人なのに、実子ではないからとなんて酷い人間だろう。
ああ、呪霊が見えないくせに呪いを生んで、それを私達に処理させる。
なんという不条理だろう、猿のくせに。猿の分際で。猿でしかない存在で私達を傷つける。
勢いよく出てきた3人。若い男が兄だろう。女性以外は酷く落ち込んでいるように見えた。

「みみこ、と、ななこ?」
「……だれ?」
「しらないひと」
「僕は名前のお兄ちゃんだよ、会うのは初めてだね」
「すみません、この子たちを先輩に会わせたいのですが」
「えっと、君は」
「…呪術高専4年、夏油傑です」
「君がゲトウくんか…あの」
「すみません、この子たちを先輩に会わせたいので」

兄、だろう。
引き止めるのを半ば無理矢理無視して安置室に入る。
子どもに見せるなんて。とあの母親らしい女性の声がする気がする。それがどうしたのか。美々子と菜々子の家族だ。会わせてやらない方が酷いじゃないか。
部屋の中央に簡素なベッド。いや、これは台だ。その上に先輩だった肉塊がいてシートがかかっている。

「名前お姉ちゃん?」
「うん。名前お姉ちゃん。お姉ちゃん、死んじゃったんだ…」
「どうして?なんで?」
「…どうして、だろう。なんでだろう。私もわからない、なんで先輩、死んじゃったんだろう…任務じゃ、ないの、に…」
「わるい人に、ころされたの?きのうのニュース?」

どうしてお姉ちゃんはわたしたちをたすけてくれたのに、ほかの人はたすけてくれないの?
素直な言葉が酷く鋭かった。
面会を終えると、兄と思われる男性に声を掛けられた。
「妹から君の話は聞いている。二人の面倒も見てくれてありがとう。迷惑でなければだけど」
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
分骨?先輩の身体をまだバラバラにさせるのか。もう焼いて骨にかならない身体を、まだ。
そもそも、そもそもだ。
先輩を嫌っている母親という猿が気にくわない。分骨だなんていう兄が気にくわない。助けない父親が気にくわない。猿のくせに先輩の、名前の存在がどれだけ人を助けてきたかも知らない猿のくせに!!


「ごめん先輩、助けてくれたけど私にはやっぱり無理だったよ…先輩、先輩。名前さん」

名前さんを殺した猿を殺すよ、名前を否定した猿を殺す。やっぱり非呪術師なんて皆猿で、私達を消費するだけの存在なんて消えてしまえばいいんだ。

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