呪術 | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

「本当はね、ずっと不安だったんだ」

そう名前は切り出した。
双子を保護して高専に戻り、教師たちの大目玉をくらった後の事だ。
「夏油くん、いろいろゴメンね」と手招きをされて連れてこられた自販機コーナー。
どれがいいかな。と言われるままに指をさして言われるままに手にした缶はとても冷たい。

「不安?」
「うん」
「………きいて、いいんですか」
「うん…というか、聞いてもらっていいのかな」
「先輩が話を振ったんじゃありませんか」
「それもそうか」

うん。とひとつ頷いて隣に座った名前は続ける。

「夢の話なんだけど」
「はい」
「夢でね、夏油が私の弟なの」
「へえ」
「それでね、夏油くん、離反しちゃうの」
「………り、はん」
「うん。今の夏油くんみたいに、星漿体の一件が夢であってね、五条くんはどんどん強くなるし…夏油くんが、あの双子の村を壊滅させて、離反するの。大人になった夏油くんは、五条くんに、殺されるの…そんな夢を、何度も何度も見ててさ、夢の話なのに変でしょ」
「そう、ですね……どうして、私は離反するんですか」
「呪術師だけの世界を作るんだって」

ひゅっ。と夏油の喉が鳴った。
それに気づいた名前が「どうかした?」と問えは夏油は咄嗟に頭を振って否定する。
呪術師だけの世界を考えた事があるからだ。
誰だ、九十九由基に会ったのか。いや、あの時は任務で居なかったはずだと夏油は視線を名前に気付かれないように足元に落とす。
酷く喉が渇く気がする。と貰った缶を開けて無理矢理喉に押し込めた。

「夢の私と夏油くんはさ、姉弟ながらもすごーく仲良くて。だからこそ、何が何だか分からなくて。目が覚めると泣いてたんだ」
「…ゆめ、は、いつから」
「うーん。結構前かな。高専くるずっと前。ここでさ、夏油くん見た時すごーく驚いたの。だから、夢がもしかして現実になるのなって思って」
「………」
「だから、だからね。あの双子を助けたら、夢で見た夏油くんみたいにならないかなって思ってさ。我儘言って、無理矢理助けて、夏油くんに押し付けようと思って」
「……待ってください、押し付ける、とは」
「夏油くん最近いろいろ思いつめてる感じだからさ、もう物理的に忙しくしちゃえば考えなくて済むかなって。あの双子ちゃんの件とか!」
「……それ、私がやるんですか」
「………わかんない、けど。私がやる事になるのか、なー…とは思っている。でも、夏油くんも一応共犯だから、手伝ってもらうからね。はい、これ決定」
「ひどいなあ先輩は。私の意見なんて無視して」

ふふ、あはははは。と夏油が笑うと名前も一緒に笑う。
安心したように、人に知られることのない不安から解放された様に。
ひとしきり笑うと夏油はまた飲み物に口を付けてから小さく答える。

「いいですよ」
「うん?」
「私も手伝います。共犯ですから」
「夏油くんならそう言ってくれると思った」
「私信頼されてます?」
「まあ、五条くんに比べたら?夢の夏油くんと同じで私には優しいし」
「夢の私も同じ名前でしたか?」
「うん。同じ」
「どう呼んでいました?」
「そのまま。傑って」
「ふふ」
「なに?気持ち悪い」
「あ、ひどい。今のは傷つきました」
「ごめん」
「撫でてくれたら許す、お姉ちゃん」
「夢だと姉さんだったけど、まあ可愛い弟のお願いだもんね」

笑いながら体格のいい後輩の頭を撫でる名前。その間には笑いが止まる事はなく、とても楽しそうではあった。

「正夢にならなくて良かった」
「先輩が助けてくれました」
「私?なんにもしてないけど」
「しました。きっと、先輩があの双子を助けたから私も助かったんです」
「そうかな」
「そうです」

そうじゃなかったら、きっと。と夏油の声は小さくなっていく。
その夢の様になっていたに違いない。と。

/