呪術 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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『助けに来てくれてありがとう』
『先輩意識戻ったんですね』
『うん。今ね。ベッドから出たら駄目だから夏油くんにメールしてるの』
『病室に行っても大丈夫ですか?』
『私しかいないから大丈夫じゃない?私まだ起きれないけど』

そんな携帯のメールでやり取りをしたのが数分前。
任務で失敗をして応援としてきたのが後輩の夏油傑。少し前までは同級生の五条悟と一緒に任務をしていたのだが、ここ最近は個別の任務になっているのを担任からそれとなく聞いていた名前。
今まで2人でワンセットだったのに。と担任と話していたのだが、まああの特級が別々で動いても問題なくて、なにより手が増えると思えば嬉しい限りだと思っていた。実際名前を助けに来てくれたのは夏油で、五条は別件で動いていたわけだし。

「先輩」
「…げ、とう、く」
「顔色悪いですね」
「げ、くん、も」
「先輩かなり出血していましたからね。輸血…は、なしですか」
「うん…すわ、る?」

じゃあ。と名前の使うベッドの横にある簡素なイスに腰を下ろす夏油。
名前が思うに、名前の顔色が悪いというが夏油も負けずに悪い。酷い顔色だし表情も暗い。疲れている、にしては髪の艶だってないのだから酷いものだろう。

「げと、くん。かおいろ、わるいね」
「そうですか?…少し、寝不足で」
「うそ」
「嘘じゃないです」
「て」
「て?」

横になったままで名前は手のひらを上にして握る動作を繰り返す。手を出して握りなさい。という風に。
少し戸惑った様子の夏油は名前がじーっと見つめるので促されるままに名前の手を握ってみる。夏油から見れば小さいその手は少しだけ冷えていて、血が足りないのだなというのがわかった。

「て、あれてる」
「え?」
「げんきが、ない、しょうこ、だよ」
「……、先輩だって、手が冷たいじゃないですか」
「ち、たくさん、ながしちゃ、た」
「酷い出血でしてからね。私の制服も先輩の血でべとべとになりました」
「ごめ、」
「気にしないでください。先輩が無事…では、ないですね。生きて戻ってこれたので」

その少し冷えた手は、それよりも大きな手をゆっくりとさする。
それは労わるように、優しい。貧血で力が入らなくて、意識もはっきりとしていない中での事なのだろう。それでも夏油にはひどくそれが温かく感じた。

「……げと、くん」
「はい」
「ごめ、ん…ねむい、から」
「ええ、はい。寝てください」
「………いか、ないの?」
「少し疲れているので、少ししたら行きます」
「……そ、か」
「はい」

冷えた手がゆっくりと夏油の手を離れようとすると、すかさずその小さく冷えた手を掴んだ夏油。
それを見た名前は力なく笑って「げとう、くん、あまえた、さんだ、ねえ」と消えそうな声で呟く。
そうなんです。と本気かどうかわからない声で夏油が答えると名前は「ちょっと、て、つめたい、から、さ……さわらせて、も、らお、かな」と握り返してきた。力は弱く、少し冷たく、それでいて柔らかい。骨でごつごつとした夏油の手とは違う、その手。

「……先輩?」

寝てしまったのだろう。
寝息は聞こえないが瞼は降り、反応はない。あまりに静かで死んでしまったのかと思ったが弱弱しいながらも脈はとれた。
しばらくその眠る姿を見ているとガラリと音がした。どうやらこの病室担当の誰かが来たらしい。

「あれ、何してんの傑」
「硝子…先輩のお見舞い」
「寝てんじゃん」
「さっきね」
「ふーん。先輩に変な事してないだろうな」
「変な事?例えば」
「本人に同意を得ないとしちゃいけない事だよ」
「それはしてない」
「ふーん”それは”ね」
「硝子はどうしたの」
「先輩の様子見に。出血がひどかったからね」
「……そうだね」

まあ先輩の容態が変化したら連絡しよ、これ貸しな。と家入はニヤリと笑って出て行く。
それを横目で確認した夏油はまた名前へと目線を移す。
小さく冷えた手を触り、男では持ちえない柔らかさをつつく。
小さい手、と小さく呟く夏油。当たり前である190センチを超えた大男と一般的な女子高生の体格の差なのだ。大きな体格である夏油から見れば大半は小さいだろう。

「……先輩、皆、呪術師で、呪霊が生まれなかったら怪我しなかったんですよ」

その言葉に反応するように名前の手がピクリと動いたが、名前の目が覚める様子はない。
先輩、先輩。と夏油は名前の手をつついた。

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