呪術 | ナノ
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高専を卒業して、一人暮らしをし、警察の監視が終わってからの事だった。
呪術師としての道は正直つらい。
弟が呪術師になったと言う事で高専の仲間以外からの風当たりは強いし保守派の人間からは追放しろという抗議文まで所属している高専に送られてきた。
先生や先輩、後輩である五条の御当主様にまで守ってもらいながらここまで来たが、もうその加護も終わりそうなある日の事だった。

「姉さん」
「……す、ぐる?」
「うん、私だよ」

休日に食品やら日用品を買い込み、思いのほか重いビニール袋が手に食い込んで痛いし怪我に響くじゃん。なんて思っていた。
目の前に数年前に任務先の村を壊滅させ、両親と妹を殺した犯人がいる。
高専の制服ではない。
変わらないのはあの顔だ。昔からの、あの笑顔で私を見てる。

「沢山買ったね、持つよ」
「………」
「あ、怪我してるじゃないか。硝子に看てもらった?」
「…………」
「こうやって会うの久しぶりだね。事情が事情だから会いにこれなかったんだよ、ごめんね」
「…………っ」
「家行こうか、私姉さんの一人暮らしの家行くの初めてだから楽しみだな。場所は知っているから、近所だろう?」
「…監視でもしてたの?」
「うーん、ちょっと違うかな。調べてもらっただけだよ」
「………殺しにでもきた?」
「姉さんを?まさか」
「言っておくけど人質の価値はないからね」
「高専にはないだろうね」

事実傑は強い。
私より格段に、そして確実に私を殺すことが出来る。接近戦が苦手な事も、一度に多くの呪霊を相手にすることも、弱点ならいくらでも知っている。
高専生の時は特訓に付き合ってもらったが故にクセさえも把握している。
心臓が早い。殺されてしまうかもしれないという危機感からだろうか。
傑の体格は良い。腕力でさえ負けるだろう、いくらあれから鍛えたと言えど所詮は女の力などどうにでもなる。
助けは呼べない。傑に勝てる人は五条くんくらいだ。

「姉さん、行こう」
「………」
「疲れちゃった?」
「何が目的だ傑」
「うーん、姉さんの部屋で話そうと思ったけど仕方ない」

でも立ち話はなんだし、あそこのカフェ入ろうか。と名前の答えを聞かずに名前の荷物を持って勝手にカフェに入り、「二人で」と店員に話している。
ああ、これが、あれが本当に大量殺人犯の弟なのだろうか。冤罪じゃないのか、夢で本当は両親も妹も、村だって健在なのではいかと思ってしまう。
「姉さん、はやく」と言われて走ってしまいそうになる。
違う、これは現実で、あれは、傑は離反した。処分されるべき存在なのだ。
持っていたバッグから携帯を取り出したい。今すぐ走って五条くんに知らせなきゃ。
でもそれは出来ない。逃げる事は無理なのだ、私の後ろに傑の呪霊が早く行けとせっついている。

「なかなか良い所だね、ここ。悪くないと思う、姉さんこういうとこ好きだもんね」
「………」
「私はコーヒーでいいし、姉さんはどうする?このケーキセットがいいかな」
「………」
「あ、ここは勿論私が払うから好きなの頼んでいいよ」
「………」
「何か言ってよ姉さん。そうしないとここの猿皆殺すよ」
「何が目的」
「ふふふ、今は姉さんとお茶かな。この期間限定なんてどう?ミックスベリーだって」

それでいい。と言えば傑は店員を呼んで注文する。
笑顔で注文していたかと思えばすぐに「猿が」と吐き捨てる様に嫌悪している。

「そのサルってなに」
「呪術の使えない存在のことさ。元気だった?」
「元気に見えるなら死ねよ」
「ははは口が悪いな。それ悟の影響?」
「どうして皆殺したの」
「猿だからさ」
「どうして私を殺さないの。殺しに来たの?」
「私が?姉さんを?まさか。さっきも言ったけど姉さんを殺したりしないよ。姉さんは猿じゃなからね」

お待たせしました。と運ばれてくるコーヒーとケーキセット。
ゆっくりと揺らぐコーヒーの湯気が今ほど腹立たしいことはきっともうないだろう。

「食べなよ」
「…………目的は何」
「姉さんの誕生日、ここ数年会ってなかったらからプレゼント持ってきたよ」
「……は?」
「ああ私の誕生日プレゼントは気にしないで。私の都合で会えなったワケだし。あ、もしなら受け取るけど」

馬鹿言わないで。と口には出来なかった。店内に呪霊がゆっくりと徘徊しているのが横目に見える。
これは言葉にはしていないが「動くな騒ぐな大人しくしなければこの店を潰すぞ」という脅しだ。
トン、と置かれた小さい箱。スッと私の前に出して「開けて」と素知らぬ顔で傑は笑う。

「………」
「姉さんピアスしただろう?だからピアスにしてみたんだ、お揃い。まあ私のは男物で姉さんには大きいから色だけね」
「………ありがとうとでも、言うと思った?」
「恐いな、もしかして怒ってる?」
「怒らないと思っていたなら死ね」
「ははは、そうだね、そうだよね。まあプレゼント渡したかったっていうのもあるけど、本題にしようかな。姉さん、私と一緒に行こう。姉さんが猿共に消費されていくのは実に腹立たしい」

迷わず真っ直ぐで、それが本来の目的だったと言わんばかりの言葉だった。
何が一緒に行こう、来てほしい、だ。
勝手に置いて行ったのはお前じゃないか。勝手にどこかに行ったのも、全部全部傑じゃないか。
………違う、私が離れかけている手を握ってあげなかったからだ。気づいてあげられなかったからだ。疲れていた事に気付くことも出来なくて任務に行っていたからだ。
それが今無性に悔しくて辛くて、「姉さんが私を助けなかったんじゃないか」と叩きつけられているようで涙がこぼれた。
あの壊れた時でもこんなに涙は出てこなかった。現実が今更やってきた。

「一人にしてごめんね、姉さん」
「……」
「姉さんは頷いてくれたらいい。悟にも世話になったのは知っている、それは私から」
「誰が行くか」
「え?」
「私は呪術師だ。呪詛師に堕ちない。今までの事を無駄になんかしない…!私が今までどれだけ苦労したか知ってる?」
「知ってるよ」
「……なんで、なんでなの傑……優しかったじゃん、良い子だったじゃん…」
「私はいつだって優秀で優しく、良い人だよ。それを見せる側は猿じゃないと気付いただけさ」
「………自分で言うな」
「事実だからね」

傑がコーヒーを飲む。
私はどうしてもケーキセットに手を付ける気にはなれない。
食べないの?と聞いてくるがむしろなんで食べると思ったのだろう。ケーキに罪はないが私がそんな余裕があると思っていたのだろうか。
もしくは「傑と行く!」と喜んで付いて行くとでも思っていたのだろうか。もしそうだとしたらかなりの馬鹿だろう。
弟だからという贔屓目を引いても傑はそこまで馬鹿ではない。

「食べてもらえないは残念だ」
「………勿体ないけど今は無理」
「まあ姉さんが素直に来てくれるとは思ってなかったし。プレゼント渡せたからいいか」
「ねえ、傑」
「なに?」
「私と一緒に高専に行って、一緒に処分を受けようって言ったら…一緒に来てくれる?」
「うん、無理だね」
「…………」
「別に姉さんを泣かせたかったわけじゃないんだ、これは本当。置いて行ったのも悪かったと思っている。また迎えにくるから、それまで考えておいてよ」
「絶対に行かない…今まで、ここまでよくしてくれた人を裏切らない」
「そう?我慢は良くないよ?でもまあ、姉さんはそういう人だからね、また今度。私はそろそろ行くよ、会計もしておくからゆっくりして行って。荷物は運んであげたいけど嫌みたいだし、ここ置いていくから。あと悟によろしく、これから電話するだろう?」

風邪ひかないようにね。とまるで普通の弟の様に心配して傑は店を出る。
バッグに手を伸ばして携帯を探る。早く連絡をしなくてはいけない。アレは、弟は、傑は処分対象だから。五条くんに言わないといけない、五条くんは傑の親友で、たぶん、恐らく傑を殺せる人だから。
電話帳を開いて「五条悟」を選択してダイアルマークを押す。出て、出ないで。早く、留守番電話に接続して。

「………」
『なに?どうしたの名前さん。俺に会いたくなった?』
「ご、じょうくん…今、いいかな」
『ん?いーけど』
「あのね、傑が私に会いに来た………」

今どこ!?という五条くんの焦った声色が耳を突つ。
そうだ、本来はこうでなきゃいけないんだ。
喉の奥が震えるのを抑えて状況を説明する。いつの間にかいなくなった呪霊に少しばかり安堵しながらこれからどうしたらいいのか、わからないまま電話口で「ごめんね、ごめん」と何度も謝った。
何に対してかはわからない。ただ謝らないといけないと思って謝った。

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