呪術 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「五条くんて、拗らせてるよね」

お好み焼きが湯気を上げてしゅうしゅうと焼けていくのを眺めている時に名前は酒を飲みながら不意に言った。
その言葉に七海は大きな溜息をつき、猪野は「はい?」と上ずった声をあげた。

「な、なんです?」
「いやね、ほら。昨日まで五条くんの家に世話になってたんだどさ、五条くん厄介だなって思って」
「今更じゃないですか。マイルドなクズになるのは名前さんの前くらいですよ」
「クズなんだ結局」
「あれをクズと言わずになんというのです」
「七海さん辛辣ですね…」

まあ、わかるっすけど。と年上の二人を見てからお好み焼きを焼く。
注文して店員が焼いてくれるサービスもあるのだが、ここは俺のお好み焼きテクを見てくださいと猪野が焼くと宣言して今焼いているのだ。
その間年上二人は酒を飲み、猪野を交えて雑談をしていた。
男性の時どうしてした?とか、五条さんの家ってどうなんです?とか。

「五条くんの彼女とか家に来て鉢合わせたら気まずいって話したらさ」
「どうせ五条さんの事です、夏油さんの姉である名前さんを優先しない理由はない。とでも言ったのでしょう」
「うっわ、なんすかそれ」
「やだ…なんでわかったの」
「あの人の言うことくらい大体わかりますよ」
「え!マジっすか…」

ひええ…とドン引きする猪野。
名前が「猪野くん、焼けてる」と言われて慌ててお好み焼きをひっくり返すが今の話で動揺して上手く返せずに形が悪くなってしまった。

「思わずさ、やべえなって言っちゃってさ」
「親友である夏油さんのお姉さんを大切にしない理由はない、むしろそれ以上の女が居るワケない。みたいな事言われました」
「こーわーいー!七海くんなんでわかるの、こわ、こっわ」
「……それなのになんで名前さんは五条さんと付き合わないんですか」
「なんで私が五条くんと付き合わなきゃいけないの?」

んん。と七海が咳払いをすると猪野は思わず言ってしまった一言が言ってはいけない一言だったと気付く。
暗黙の了解、だろうか。
五条悟という人間が夏油名前に向ける感情はそれではないのだ。転び方次第ではそちらに転ぶかもしれないが、今はそうではないし、これからもそうあってほしくない。
それは五条悟が五条家当主だから、ではなく人間としてクズだからである。
今でこそそれなりにやってきてはいるが、本来の性格はクズとしか言いようのない性格であって一般家庭出身の人間には色んな意味で合わないのだ。

「もうさ、こうなったらさ」
「はい」
「私がどうにかしないとなって思うんだよね」
「どうするんです?」
「私がお嫁さん見つけようかと」
「ぶ!」
「……なにか、伝手でも?」
「ない!でも一応さー、私五条家では勝手になんか五条くんの補佐的な位置いるらしくてぇー全く不本意なんだけどさー」
「名前さん五条さんの面倒色んな意味で見てるんですね…すげ」
「大奥様からお見合い話きて五条くん連行してるんだけどさ」

ああ、一時期騒いでいたなと猪野はお好み焼きを切り分けながら思い出した。
名前が七海と付き合うとか伊地知と付き合うとか、噂で伏黒恵と婚約だの、へんな話が飛び交った時期が。もとをただせば五条がお見合いを断るために名前と結婚するとか言い出した事が始まりだと誰かから聞いた。
思えばいつもトラブルの元は五条で、巻き込まれた方は色んな意味で苦労をしている。

「私も今度お見合いの選考に参加しようかなって」
「お好み焼き焼けたんで、どうぞ」
「ありがとうございます」
「でさ、五条くんにはどんな人が良いと思う?」
「あの人と結婚するにはまず色んな意味で壊れていないと無理でしょうね。名前さんマヨネーズは使いますか」
「使う。お見合いくるのは呪術師の家系だからそこはクリアじゃない?本人が乗り気かは別として」
「そこ除外するんすか…青のりいります?」
「いる」

渡されたものを次々に遠慮なくかける名前は男性から見ても気持ちのいいくらいのかけっぷりだ。大体こういう時男性の目を気にして少なくするが名前には遠慮がない、常識の範囲内では勿論ある。
ぱちんと手を合わせて「猪野くんいただきまーす」というあたり少し可愛らしい。

「んー、美味しい」
「上手ですね」
「ははは、ありがとうございます」
「んで、お見合いなんだけど」
「それまだ続けます?食事には見合わない話だと思うんですが」
「お見合いだけに?」
「うるさいですよ」
「七海くんが怒った」
「名前さんと七海さんも仲良いですよね、先輩後輩でしたっけ」
「そうそう。私先輩、七海くん後輩」
「戦闘系でまともな先輩が名前さんくらいでしたから」
「五条くんサラッと除外されててウケる」

んふふ。と楽しそうに笑う名前。照明の具合もあるだろうが顔が赤いので酔っているのだろう。
それから名前も七海も猪野も酔いがある程度まわって食べたり飲んだりしていると名前のスマホが鳴り始め、名前がディスプレイを見ると『五条悟』と文字。
ちらりと二人を見てどうしよ。と目で会話すれば七海が「後が面倒です、出てください」と言い、猪野は「七海さんに賛成です」と言われたので名前は渋々電話に出た。

『名前さん!今どこ!?』
「今七海くんと猪野くんとご飯食べてるよー」
『なんで七海と猪野とご飯食べてるの!?帰って来てよ!ご飯あるよ!』
「いや、今日から自宅帰るよ…」
『僕の料理美味しいって言ったじゃん!』
「言ったね、うん、言ったよ」

「また面倒な男が電話かけてきましたね」
「なんで五条さんは名前さん関わると頭悪くなるんですかね」
「元から良くないんだと思いますよ」

「電話切るよ」
『切らないで!』
「やだ!切る!ばいばーい」
「大丈夫なんですか名前さん」
「うん、ちょっと飲みすぎたかな」
「いやそっちじゃなくて、五条さんですよ。めっちゃ声聞こえましたけど」
「放っておきなさい。数日名前さんが家に居て浮かれているだけですよ、あの人」
「私もそう思う!あ、すみませーん、烏龍茶ひとつ」

はいはーい。とアルバイトのお兄さんが良い返事を返した。

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