呪術 | ナノ
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「七海くん、どうしよう」

大きな体躯、低い声。
これが元女性だとは誰も思うだろうか。と七海は見上げる。
受け取った資料に目を通しつつ、コーヒーを飲んでいた時、その元女性は七海を見つけると寄ってきたのだ。

「どうしたのです」
「五条くんのご飯が美味しくて胃袋掴まれそう」
「……、待ってください。五条さんが貴方に、名前さんに手料理を?」
「うん」

はっはー!僕最強だから料理だって出来るもんね。という幻聴が聞こえた七海は軽く頭をふる。
あの破滅的な強さと引き換えに性格だけはクズの極みだという五条の手料理が美味しくて胃袋を掴まされそう、だというのか。
今まで碌な物を…と言いかけて名前と七海は食事を一緒にしたこともあれば名前のオススメの店を七海が気に入った事ある。故に名前の味覚に異常はないと断言できる、しかし。

「なんか、最近料理に嵌ってるらしくて…」
「食べて大丈夫なんですか?」
「めっちゃ元気です。五条くんの家居心地良いしごはん美味しいしで……駄目になる……」
「まあ、あの人の事ですからそれが目的かもしれませんね」
「あー、頼られたい病?」
「違います…が、今はそういう事にしておきましょう。まだ任務には復帰できないのですか」
「もう男の身体も慣れたんだけどね」

硝子曰く任務中に戻ってその服で大丈夫なの?だってさ。と名前は面倒くさそうに答える。
確かに猪野の様にダボ着いた服装で普段任務に携わっていたのではない名前にしてみれば、元に戻って男性物の服ではもてあますだろう。襟ぐりだって違うのだから肩がでるかもしれなければ、下着の関係もあるだろう。

「実習監督とか、機能訓練とか。今の1年に付き合ってるけどさ…」
「案外教職の方が向いているかもしれませんよ」
「夏油先生?」
「ふふ、名前先生、ですか」
「えー目指しちゃおっかな」

いつの間にか隣に座っている名前。
普段から会話をする方ではあるが、男性になってしまってからは任務を行っていない関係で時間が被る事が少なく、あっても時間がかなり短い。任務終りが同じになっても五条が早々に名前を連れて帰宅しているのだ、まるで何かを警戒するように。

「七海さ…あ、お話中でしたか」
「猪野くんじゃん」
「え、すみません、どなた…あ、もしかして名前さん?」
「あったりー。久しぶり」
「はー…話には聞いてたんですけど、マジで男っすね」
「身長伸びまくりだよ」
「ひゃー」
「男の人ってさ、この股間の違和感と付き合ってるんでしょ?」
「やめてください、女性が何を言うんです」
「だってまだ慣れないんだもん、手は慣れてきたんだけど」

おいでおいで。弟の傑によく似た顔で猪野を手招く名前。
猪野は資料として「夏油傑」を知っているが七海の様に知っているわけではない。若い呪術師なので名前を知っているが関わりが無い、言えば資料上の敵とよく似た顔があるのは不思議な感覚だろう。
名前と傑が血縁関係というのは秘匿されているわけではないので関係者以外も知っている。

「二人並んでると迫力ありますね」
「五条くん来たらもっと迫力あるよ、きっと」
「ありそー!」
「これから二人で任務?」
「そうっす!あ、名前さん戻ったらまた飯行きましょ」
「行くー!戻らなくても行く、戻っても行くから」

七海はよく猪野を連れて食事に行く。
いつだったからか、名前に声をかけてそれからたまに3人で食事をするようになった。
たまにではあるが「今日は先輩の行きたいとこに行きまーす。先輩命令でーす、先輩の目奢りでーす」と名前が店に連れて行くことがある。
女性が好きそうな店、というのは少なく隠れ家的な店が多かったように思える。

「私焼き鳥食べたいんだ。あのおじいちゃんとおばあちゃんのお店の」
「あそこ塩もタレも全部美味いっすよね」
「では名前さんが戻ったら行きますか、快気祝いに」
「えーじゃあ来週行こうよ」
「今週中に戻れそうなんですか」
「全然見通し立ってない!でも楽しんじゃダメなんてないし」
「あ、じゃあお好み焼き行きません?焼き鳥は戻ってからってことで。俺良い所見つけたんですよ」
「猪野くんのオススメいいね」
「私はいいですが、五条さんが許しますかね」
「へ?なんで五条くん」
「わからないならいいですけど、面倒ですよ」

なんで五条くん?と名前が言えば「わからなければいいんです、わからなければ」と七海はつぶやいた。

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