呪術 | ナノ
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「呪骸の世話って…」

何をしたらいいんだ。とポテッと座るパンダを見て名前は思った。
数分前に夜蛾学長から電話があり、急な出張でパンダの世話を頼みたいと言われ名前は深く考えず「わかりました」と言ってしまったのだ。
電話が終わってから「ん?パンダ?とは」と思ったが、とりあえず学長室に行って案内された先にパンダがいた。
子パンダである。非常に可愛いが、パンダ。パンダなのだ。
どうしてパンダ?え、ぱん??と名前の頭に「?」が並んでいるが学長は気にもせず「道具はここにあるし食事はいらない、適当に遊んでくれればいい」と言われたが「じゃあ世話必要ないですよね」と言おうとしたら「頼んだ」と出て行った。

「ぱ、ぱんだ…か」
「まさみちの知り合い?」
「喋った…」
「パンダだからな」
「ぱんだ、だから…」

パンダに目線を合わせるために床に膝をつく。
すると座っていたパンダは、よっこいせ。と実にオヤジ臭く立ち上がってポテポテ歩いて名前に近付く。その動作は世の可愛い物が好きな人間にとってクリーンヒットだろう、名前も思わず「う”」と唸る程に可愛い。

「どっか悪いのか?」
「わ、わるくないよ…」
「パンダはパンダ。おまえは、まさみちが言ってた名前?」
「夏油名前です…」

よろしくな。と前足…いや、手と思ったが方がいいのだろうか。
それを差し出して握手を求めてくる。
名前もそれに応じで握手をしてみれば、フワフワと言うよりももう少ししっかりとした触り心地である。

「えっと、パンダちゃん?学長となにしている?」
「学長?」
「えっと、夜蛾正道学長」
「まさみちとは、散歩したり本読んだり、おもちゃで遊ぶ」
「子育て…ごはんとかは?」
「俺じゅがい?だからいらないけど、まさみちがたまにお菓子くれる」

呪骸の自覚はあるのか。なんて可愛さに悶えながらも名前は冷静になる。
そもそも呪骸に自我ある事自体が例外なのだし、まあ名前自身が知らない事が沢山あっても不思議ではない。なにせ呪骸は名前の専門外である。まあ名前に専門はないが。
学生の頃に呪骸の授業があって知っているのはその程度でしかない。第一人者と言われる専門の人間が教師ではあったが、どこまで詳しいかなんて名前は知らなかった。

「なあ名前。まさみちはいつ帰る?」
「うーん、いつだろ…急だって言ったのしか」
「ふーん」
「ごめんね」
「なんで名前が謝るんだ?まさみちが伝えてない事がわるいんだろ」
「なんて冷静な判断…パンダちゃん、他に誰かと知り合い?」
「悟と硝子知っているし、日下部も知ってる」

何故日下部さんだけ苗字なんだ…とも思ったが、名前の知る日下部の性格からしたら納得である。むしろパンダを知っている事の方が驚きだ。
あとの二人は納得である。どちらも高専に所属している呪術師だし名前と同じく夜蛾が受け持っていた学生でもあるのだ。
そんな自己紹介や身辺の人間関係をさらりと学習した名前は「じゃあお散歩でもしようか」とパンダを誘う。
すると愛らしい顔で頷き、出入り口に向かう。
名前には子育てなんてしたことはないが、幼い頃母親が大荷物だったのは覚えている。着替えだったり飲み物だったり、お菓子だったり。しかし相手は呪骸だ。そんな荷物がいるのだろうかと当たりを見回すもそれらしきものはない。

「どうした?いかなのか?」
「学長はお散歩の時、何か持って行ってた?」
「あ。リード付けてた」
「リードか」

確かに迷子防止では必要である。
高専内であれば特に危険はないだろうが、預かった手前行方不明だなんてあってはならないことである。
リードの所在を聞けば、いつもあそこから出す。と言われた戸棚をみればそれが置いてある。リュックサックタイプのあたり、非常に可愛がっているのがよくわかる。タグも何もついてないから夜蛾学長のお手製なのだろう、サイズもぴったりだ。
それを付けて高専内を散歩する。なんだか犬の散歩の様に思えるが、相手はパンダで呪骸である。

「あれ、名前さんじゃん。パンダの散歩?ウケる」
「ウケんな。またクマ酷いじゃん」
「俺パンダだよ」
「違う違う、硝子の目の下。酷い色でしょ?あれをクマっていうの」
「俺もあるよ、、真っ黒」
「それは模様だろパンダ。今日は名前さん?」
「まさみち居ないから、名前が一緒なんだ」
「硝子ちゃんと寝てるの?この前よりひどいよ」
「他人に反転術式使えるのが私くらいもんで、まあそこそこ?」

ははは。といかにも空元気の空笑いという風に笑う硝子。
パンダが言っていた様に硝子も知り合いのカテゴリーに入っているのは良く分かった。この分だとこのノリでいつも会話しているに違いない。
煙草を吸っていないところをみると、まあこれから吸うのだろう。としか言えない。

「タバコストップ」
「え、なんで?」
「パンダちゃんがタバコ臭くなるから」
「学長はなんも言わないのに名前さんが言うんだ」
「え、言わないの!?」
「だって吸わないし」
「なにそれ」

あっはは。とまた笑う硝子に名前は「これはいわゆるハイ状態」と思い、リードを片手に硝子の手をとる。

「は?」
「硝子、煙草の前に寝なさい。精神状態がもう危ないから、寝なさい」
「お昼寝か?大人なのに?」
「大人もお昼寝するんだよパンダちゃん」
「ふーん。大人も大変だな」
「大変なんだよ。ということで、硝子は仮眠室でも医務室でも寝なさい」
「まあ一服」
「の、前に寝て。お願いだから」
「あー…まあ名前さんに頼まれたら寝ますよ、ええ、はい」
「寝たくないのか?」
「いや、今そこに悟がいてさ」
「あー…」
「?」

名前が納得するのとは反対にパンダが頭を傾げる。
パンダも五条を知ってはいるが、この三人がどういう関係かまでは知らない。
ついでに五条とは知り合いだが、知り合いというカテゴリーを抜けてはいないために性格を知らないのだ。今まで会った人間は比較的大人ではあるが、五条は例外である。

「じゃあ…難しいねえ」
「やべえ、名前さんさえその反応じゃ悟のヤバさ倍増じゃん」
「私ほら、アレがあるから五条くん避けられないけど、普通の感覚じゃ…ちょっと」
「わかる」
「まあでも、顔色悪いのは変わらないからちゃんと寝る事」
「うっす。名前さんもね」
「はーい」

お互い大人である。しつこく言う事もないし、体調だって名前よりも家入の方が専門家である。
ただ心配するくらいは、と名前は口にする。ただしつこくはしない。
手を振ってパンダの散歩を再開するも、すぐに「疲れた」と言われてしまい、これはどこまでが本気なのだろうかと名前は悩んだ。

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