呪術 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

※お見合い大作戦2の続きのようなもの



「名前さん、浮気ですか」
「………うん?」

1年生の実習訓練という名目で名前は虎杖を連れて高専の実習監督として虎杖の実習に付き合った。
それは言えば五条からの依頼、いや高専からの依頼で名前は高専所属の呪術師なので断る理由はない。まあ五条の手回しだろうが、名前からしたら任務は任務。別段断る理由はないし、高専から実習監督ならいつもの任務よりは楽で良かった程度の事だ。
その実習も無事に終わって帰りに以前七海におすすめされたパン屋が近くにあったので寄ってパンを買って高専で虎杖と一緒に食べていたのだ。
他の任務から戻った伏黒恵に開口一番言われ、名前は思わず頭を傾げた。

「え、伏黒名前さんと付き合ってたの!?」
「は、初耳です…」
「本人初耳っていってるけど、伏黒大丈夫か」
「先週告白したじゃないですか」
「こ、こくはく…?」

はて。とパンを食べながら再度頭を傾げる名前。
隣では「なに?修羅場ってやつ?」と虎杖が名前と同じくパンをもぐもぐと食しながら二人を交互に見てジュースを飲んでいる。
先週、先週…と名前は食べながら思い出す。
確か先週は五条くんのお見合いがあるからって一悶着あって……

「あ」
「思い出しましたか」
「あーあーあー、あれ?もしかして五条くんのお見合いの」
「それです」
「先生のお見合いが関係してんの?」
「先生のお見合いに名前さんが巻き込まれそうなのを手伝ったんだよ」
「そうそう。恵くんのおかげで助かったよー」
「で、それが何で伏黒は名前さんに浮気だって?」
「俺と結婚を前提に付き合ってくださいって言った」
「で、名前さんはどうしたの」
「未成年は対象外ですって一応」

ふーん。と虎杖はもぐもぐと口を動かす。
名前も食べることはやめない。
ぶっ通しでの任務で腹が減っていたし、車内で食べようにも今回の補助監督は酷く車を汚されるのを嫌う性格で「まさか食べるなんていいませんよね?夏油1級呪術師?」と睨まれて名前は大人しく「こ、高専で食べますよ…ねえ、虎杖くん」と涙を飲んだのだ。

「んで、なんで名前さんが浮気なの?」
「お前と飯食ってるからだよ」
「俺かよ!今日の実習監督が名前さんで、パン奢ってもらったんだよ」
「なに名前さんからパン貰ってんだよ」
「だってねえ。長引いてごはんの時間にごはん食べれなくて七海くんにおすすめされたパン屋さんが近かったから寄ってパン買えば車の中で食べるなよって脅されて今だしね」
「うん。てか、それで浮気なら名前さん任務できなくね?」
「いやまず付き合ってないし」
「あ、そっか。伏黒の妄想か」

妄想じゃねえよ。とゴンとひとつ虎杖の頭を殴る伏黒。
名前も名前で伏黒とは付き合いが長く、中学の時荒れていたのを知っているので止める事もなく自分の腹を満たす事が先だと言わんばかりにただ見ている。

「でも名前さん付き合うとは言ってないみたいじゃん」
「言ってないね」
「許嫁は」
「それは親がするんだって。五条くんも言ってたでしょ?私に親はいないし。まあもう許嫁って年じゃないし」
「てかさ、伏黒そんな名前さんの事好きだった?」
「好きだった」
「ふふ、過去形」
「好きですけど」
「怒った」
「怒ってねえよ」
「あ、そうだ。恵くんもパン食べる?」
「いただきます」
「食べんだ」

名前が差し出したサンドウィッチを受け取る伏黒。
三人ならんで仲良く食事、というには雰囲気は少々違和感が残る。
三人黙ってもくもくと食べるのは、単に少し居心地が悪い。しかし誰かが何かを喋るわけではない。今まで虎杖と名前だけの時は単に腹が減っていたから黙々と食べてはいたが、今はそこまでではなく喋る余裕くらいはある。高専の自販機に入っていたイチゴ・オレを名前は啜るが、中身が少なくてズゴっとなんとも間抜けな音がでた。

「伏黒姓が嫌なら、夏油でもいいです」
「名前さん、俺行くわ。耐えられねえ」
「ごめんね虎杖くん…あとで五条くんにクレーム入れるわ」
「伏黒、あんま名前さん困らせんなよ?」

パンとジュースご馳走様!と笑って行く虎杖。
本当に虎杖くんは良い子だな。と現実逃避をしたいところではあるが、現実を見なければいけない。
確かに先週そんな話にはなったが、こんな事になるとは思っていなかった名前。むしろあの時は助けてくれてありがとう!という気持ちだけであったし、アレは彼なりの演義だと思っていていたし、今でも思っていたい。
しかし冗談を言う性格ではないのは名前も知っている。さて、どうしたものかとパンが入っていた袋をたたむ。

「あのさ」
「はい」
「まあ、恵くんがどの程度本気か冗談か私には判断できないから、とりあえず本気という体で話すけど」
「本気です」
「うん、本気ね。うん。で、だ。私は未成年に手を出すつもりはないし出されるつもりもない。従って付き合う付き合わないという話は出現しません。だからと言って成人したら考えることもないです」
「どうしてですか」
「うーん。なんていうか、まあ倫理的な問題も法律的な問題もあるんだけど、恵くんは小さい頃から知りすぎててね。弟とか従兄弟とか、そんな感覚なんだよね」
「じゃあ虎杖とか乙骨先輩とか狗巻先輩ならアリなんですか」
「あー、それも無しだ。なんだろ、どう言っていいかわからないけど、ない。」

誰ならいいか。という問いはかなり名前には難しい。答えはないだろう。まして出てくる名前が学生ではないか。
ならば猪野は、と来てしまえば名前は「うーん、ギリ、ギリ……セウト?」というかもしれない。猪野は学生ではないし成人しているし、なにより伏黒より年が離れていない、という理由かもしれないが。まあ猪野がそんな事を言う事はないので話題には上がらないが。

「まあ、感情なんて勘違いも、後になって本当だったとか、嘘だとか。色々あるからね。難しいね」
「人の感情を勝手に決めないでください」
「そうだね、私が決められないね」

名前は口にはしないが、その感情は寂しさから来た甘えではないかと思っている。
その好きは、義姉の津美紀の寝たきりによって生まれた不安に近くに居た名前に甘えているものだと。勿論感情なんて一時のもので、それが正確な判断をしているかは誰にもわからない。伏黒は至って真面目に好意を持っているのか、甘えで好意ととらえているのか。名前にだって判断はできないし、当事者である伏黒もわからないだろう。
ただ好意を持っているのか、それが厚意なのか。

「ま。若者よ、同年代と恋愛をしてくれ」
「フラれたんですか、俺」
「まあ、そうなりますね。てか、先週のあれ告白だったの?気づかなかった」
「五条先生の、お見合いにかこつけたので。わかりづらかったのは謝ります」
「次はちゃんとした方がいいね」
「わかりました、次回はちゃんとします」

ははは。と笑う名前だが、その次回は自分に来るとは思っていなかった。

/