呪術 | ナノ
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その日世界が一変した。
最近任務で弟に会っていなかったし、連絡だって言えばこまめではなかった。
でも寮に名前が戻れば大抵会う事はあったし普通に喋っていた。
弟に会ったのは1月程前だっただろうか。それよりも前に会ったのはいつだろう、と名前は任務先の管轄の警察署で考える。
1月前に会った時の顔色は良くなかった。ご飯は食べているか、寝ているか、病気じゃないか。心配して話しをしたが「大丈夫だよ姉さん、ちょっと忙しくてね」とあしらわれ、「ねえ、姉さん。抱きしめていい?」と変な事を言われた記憶がある。今思えばもう弟、傑は限界がきていたのかもしれない。

弟、夏油傑が離反し呪詛師になった。
任務に当たった村を壊滅させ、両親妹を殺害。

今わかっている事はそれだけだ。
名前にはそれだけの情報だけ。それを補助監督役から言われ、担任から電話がかかってきた。
まるで言っている意味がわからなかった。
同じ国の言葉なのに名前の頭で理解するよりも早く溶けて消えてしまった。
事件関係者と言う事で警察に保護という名の連行をされ、実家の管轄に送られるのかそれとも事件があった村の管轄の警察に送られるのだろうか。とグルグルと色んなことが駆け巡る頭の片隅で考える。
携帯は取り上げられて誰とも連絡がとれない。
先生、先輩、補助監督役の人、ここで世話になった呪術師の人。
名前は今それを全て取り上げられて一人隔離の状態なのだ。



「…ごじょう、くん」
「……名前先輩、酷い顔してんね」
「そう、かな……なんか、色んなことが沢山で、わかんないや。迎え、来てくれたの?」
「うん」

聴取は村の方と実家の方であった。本来ならもっと時間がかかるのかもしれないが名前には物理的に無理であると言う事が証明されているので簡単だったのかもしれない。ただ犯人と肉親であり唯一の生き残りと言う事で目を付けられているのも事実。
犯人が接触するかもしれない。警察は知らないだろうが傑が本気になれば名前だけではなく警察だっていとも簡単に殺すことができるのにだ。
警察が名前を見張る意味はない。現に今名前が生きているという事はもう傑は名前ともう関わるつもりがないのだ。

「補助監督役が裏で待ってるけど」
「…うん」
「表はマスコミが超うぜーよ」
「ニュースになってるんだ」
「まーね。名前先輩顔出てないだけで有名人だよ今」
「………そっか」
「だからさ」
「?」
「ちょっと俺と逃げようぜ」

名前が意味がわからないという顔をすると同時に外が急に騒がしくなった。

「今フェイクの車出したトコ」
「…………」
「これで半分はあっち、次に裏口からもフェイク出すだろ?またその半分は消える。それを数回したらまあ適当に逃げよ」
「……………ごめんね、五条くん」
「あ?」
「五条くんも…大変な思いしてるのに」
「はー?名前先輩はんなこと気にしなくていいんだよ」
「だって」
「………俺と先輩はさ、傑を止めてやれなった言えば共犯なんだよ、同じ穴のムジナ。先輩だけが悪いワケでも俺だけが悪いワケでもない。ダチと兄弟じゃ重さが違うのはわかる。俺は弟に両親も妹も殺されてねえし先輩の辛さは想像できない。でもその代りに先輩は親友が親友の家族殺したっていう事実を受け止めることはできない。だから」
「………ね、五条くん」
「なに」
「ごめんね…ごめん、ごめんなさい…」
「なにその三段活用アホくさ。らしくねーじゃん」

べぇ。と舌をだしてふざけているのだろう、いつもであれば名前が「そんなことして」と笑うのだろうが今の名前にその気力も元気もない。
大きな溜息をひとつついて踵を返す五条。大きな身長に見合った足の長さで歩けば一瞬にして距離があく。それにノロノロと後を追う名前。
ここから出るために出口に行くのだろうと思えば自販機の前に立ち止まり、ココアをひとつ買って名前に差し出す。

「………」
「やる。先輩飯あんま食ってないっしょ、これゆっくり飲んでから逃げようぜ」
「……ありが、とう」
「ん。俺さ、考えたんだけど」
「……うん」

自販機の隣にあるベンチに名前を座らせ、その隣に五条も座る。
そして少し声色を変えて名前に相談するように語りかける。いや、それは恐らく相談であり、決定であり、協力を呼びかけるものだった。

「俺だけが最強じゃ駄目なんだよ」
「………まあ、うん、そうだね」
「…………え、なに先輩気づいてたの」
「五条くん一人じゃ、大変だよ。五条くんとっても強いし器用だし、でも、それに甘えてたから…私は傑の手を気づかず放しちゃったんだと思う」
「じゃあ先輩、俺に協力してよ。禪院って知ってるでしょ?あそこの子に面白そうなのがいるんだよね」
「面白そう…」
「そ。先輩にも最強になってもらいたいけどさ、後輩も育てないとだし?」
「先生にでも、なるの?」
「それもあり」

で、協力してよ。同じ穴のムジナのよしみでさ。とニッと笑う五条に名前は多少の胡散臭さを感じながら曖昧に笑う。
貰った缶のココアに口をつけると、とても久しぶりに味を感じた様が気がした。

「……私しばらく任務も受けられないし、高専の寮からも思う様に出られないけど」
「あー傑の件か」
「先生も考慮してくれるって。一応卒業はできるはずだけど。それで、その面白そうな子に私はどうしたらいいの」
「接触はまだだけど、今そのガキを五条で引き取ろうと思う」
「……え、子供なの?」
「そ。その世話を一緒にしてほしいだよね、できたらさ」
「五条くん、お父さんにでもなるつもりなの?」
「ちげーよ!その親父と…まあ、色々あったんだよ。それでだよ。俺が父親になるわけじぇねえ、つかキモい」
「………ふーん、わかった。協力する、ムジナ仲間だからね。私が今出来ることはかなり少ないから、それだけはわかってね」
「五条の力舐めんな?先輩一人の包囲なんて楽勝すぎて欠伸でるわ。つか、関係者なら連絡とれる範囲の国内なら楽勝だろ」
「メディアの方がどうなるか、じゃない?高専はまあいいとしても実家とか。傑の写真はもう売られているだろうし、私と傑は血縁だからある程度は似てるし」
「じゃあ帽子、サングラス、マスク一式買うか」
「怪しすぎない?私の前を五条くんが歩く方が目立たないよ」

五条くん見た目だけはかなりハイレベルだし。と名前が笑う。
純日本人なのに見た目が日本人とは言い難い程の容姿で顔がモデルの様にいいのだ。その代り性格は最悪ではあるが見た目にはわからない。
反対に名前は日本人顔だ。一緒に居てどちらが目立つかと言えば五条で間違いない。

「じゃあ先輩、これから俺達はムジナ同士。仲良くやろうや」
「お手柔らかにね」
「途中でやめんなよ、俺は首の根掴んでも連れて行くからな」
「…恐。」
「止まらせてなんかやらないし、辞めることも許さねえ」
「………うん」

だから先輩、俺と一緒に傑殴りに行こうよ。
消えそうなその言葉は、なんとなく名前の為に用意されたのだと名前は感じた。
名前が小さく「うん」と答えると五条は「約束だかんな」と答えた。

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