呪術 | ナノ
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「聞いちゃったかー…そっか、ばれちゃったか」

そしてそこで「ごめん、五条先生から事情聞いちゃった…」と憂太が謝れば名前はそういったのだ。

「ま、別に隠しているわけじゃないし。気にしないで」
「でも…」
「私なんてまだマシだよ。この呪術師の世界でもっと悲惨な人はいるし。下を見たらきりがないけど、そこでもまだ私はマシな方」
「………」
「名前さーん、風呂…ってなんだ、憂太と一緒かよ」
「真希さん…」
「んだよシケた顔して。ははーん、悟に名前さんの話聞いたな、さては」
「う、ん」
「確かにあのクズに買われた事は惨劇だけどな、名前さんはそれで終わらねえんだよ、だからお前が世界の終りだと言わんばかり顔してんじゃねえ!!」

ダン!!と脚をひとつ大きく踏み鳴らす真希。
呪具使いであり、体術はおそらく学生の中で一番であろう人物の覇気は憂太をビビらせるには十分だった。そもそも真希に遅れをとっているのだから、憂太がそれにビビらないわけがないのだが。

「真希、憂太くんいじめないでよ」
「いじめてねえよ!」
「憂太くん、また後でね。みんなで動いたから汗で気持ち悪い、早くお風呂はいろ」
「おう。おい憂太、お前名前さんの知り合いだからって調子のんなよ」
「えー…」
「別に乗ってないじゃん。あ、真希嫉妬?嫉妬してんの?」
「してねえ!」

怒りながらも名前と真希はじゃれ合いながら二人仲良くくっ付いて女子寮に向かって姿を消していく。
名前と再会してまだ1日も経っていないが、ここでの生活は名前の方が上だ。だからここの人達との時間だって名前の方が上で。

「こんぶ」
「あ、狗巻くん」
「たかな?」
「名前ちゃんと話してて、五条先生に事情を聞かされてさ」
「おかか!」
「え?」
「こんぶ、たかな、ツナ!」
「『名前は憂太が思うほど弱くない!変に同情しちゃダメ!名前強いぞ!』だってよ。そうだぞ憂太、同情するのは勝手だけど、謝っちゃ」
「パンダくんまで」
「俺も名前とはちょっと付き合いあるから知ってる。棘も。名前はな、まだ強くなろうとしてる最中なんだ、お前もさ。同情します的な事はどっちも良い事ないぞ?」
「う、ん…」

憂太と名前の境遇は別だが近い。違う意味で家族から拒絶されてしまった。
そして名前は先に一歩踏み出し、今憂太も一歩を踏み出したところだ。
確かに、言われてみればどちらが可哀想だとか、勝手に同情する事でもない、気がする。
二人に言われて憂太が「うん」と再度頷き、謝る事も、可哀想だと思う事も、確かにそれは自分が感じたことではあるが名前に表だってするべきことではないと納得した。



「あれ?その指輪どうしたの」
「これ?里香ちゃんがくれた指輪だよ」
「へー。本物?」
「うん」

へえ。と次の日の訓練の休憩中に名前が指輪を見つけたのだ。

「里香ちゃん、憂太くんの事大好きだったもんね」
「うん…」
「私ね、憂太くんの資料読んで里香ちゃんが死んだの知ったの」
「……そっか」
「家、そういう情報とか親が妹に精一杯で回ってこなかったんだよね」
「大変だったもんね、名前ちゃんの家」
「それが普通だったからさ」

はい。と渡されたスポーツドリンク。
名前はもっていたお茶を一口飲んでいる。「ありがとう」と受け取れば名前は普通に笑って頷いた。

「高専、どう?」
「うん、大変。世界が違うね」
「わかる。私はさ、中学の時に先生の家に行ってさ。でもその前からそういう世界は見えてたんだ」
「そうなの…?」
「うん。引っ越して少ししたくらいからかな、変な声と姿見えて。親に言えないし友達いないし、どうしてみようもないよね」

それには憂太も頷くしかできない。
憂太自身もああなってから世界が変わって、どうしてみようもなかった。
誰かに助けを求めていいかもわからない、自分がおかしいのかもしれない。
不安だけがあるあの世界を少なからず名前も憂太も経験している。名前がどうだったかはわからないが、それでも、あの不安と恐怖はどんなに拭っても拭えない。

「呪霊操術って知ってる?」
「ううん」
「それ、私の術式なんだ。文字通り呪霊を操れるの。今特級に同じ人がいるらしいんだけど、私は会ったことない」
「じゃあ、名前ちゃん特級?」
「名前は特級じゃなくてまだ準1級」
「うわ!ご、五条先生……」
「名前、これ明日の新幹線のチケット」
「ありがとうござます」
「名前の術式はね、名前の心臓に負担がかかるから特級になるには難しいね」

瞬間移動したかの様に憂太の背後に立つ五条。
名前に明日のチケットを渡し、ふふふと笑っている。

「心臓に?」
「やっかいだよね。妹を苦しめた心臓と同じく名前も心臓に苦しめられるんだから」
「取り込む時に。使うときは平気なんだけど」
「憂太から言っておいてよ、取り込む時は一人じゃダメだって。京都で一人で取り込んで大騒ぎになった事が2回あるんだからさ」
「一人じゃありません。加茂くんが居ました」
「かもくん?」
「御三家のひとつの加茂家の次期当主で名前と同じ学年の京都校の生徒さ。せめて歌姫のとこか東京校の人間がいるとこでしてよ」
「…すみません」
「怒ってないよ、心配してるだけ」

ワシワシと名前の頭を撫でると「じゃ、僕行くね」と五条は立ち去る。
一応は学生たちが自主的に稽古をつけている時間だというのを尊重しているらしい。
五条の姿が見えなくなったのを確認した名前は手早く髪を整える。一応本人が居ないところでやるのが名前らしいというか、それで憂太は思わず笑う。

「…なにさ」
「ううん。なんか、優しいなって」
「私、買われたって言ったじゃない?」
「え、あ、うん…」
「だから、それに見合った事をしなきゃだから。前の家族は正直嫌いだし思い出したくない、けど、……お金の分は、頑張らなきゃ」
「……うん。僕も、呪いから解放されるために、頑張るよ。名前ちゃんの呪いも、頑張ろうね」

あまりにも実体のない応援。
でも、それでもと、次の一歩を踏み出すためにと憂太は自分の手を強く握った。

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