呪術 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「あ、やっぱり憂太くんだ!」

久しぶりー。と黒い高専の制服に身を包んだ女学生。
その光景に乙骨以外がその二人を交互に見て、目で乙骨にどういう事か説明しろと訴えてくる。

「え…あ?」
「覚えてない?私、名前だよ、小学校3年くらいまで一緒だった」
「え…名前、ちゃん?」
「そう!久しぶり」
「わ、わー!!え、呪術師なの?」
「うん。今2年生だよ」
「なになに?名前と憂太知り合いなの?ねえねえ」
「あのね、小さいころ住んでたとこのお友達」

もうかなり昔だけどね、懐かしいねー。と笑う。
その姿は実に普通だった。小学生までお友達で、名前の家庭の事情で引っ越してそのまま。それが今になって再会した。いえばただそれだけの事だ。なにも難しい事も、おかしい事はない。
あるとしたら、ここが呪術高専だ。という事だろう。
一般人がそんな再会があることだってかなり稀である。では呪術高専というかなり狭い世界ではどうだろうか。一般人よりもかなり確率が低い。
二人が「わー」としているのを周りは少し冷ややかな目で見る。

「名前さん京都じゃないの?」
「五条先生に、呼ばれて戻ってきたんだ」
「今2年と3年は京都に行ってたから1年だけだったんだよ。で、名前は何の用事だ?」
「わかんない。急に呼び出されてさ、新しい1年の資料送るから目を通しといてって言われて、見てたら心当たりがあって」
「へー。どうせ悟の事だから名前さんに憂太を押し付けるんじゃね?」
「明後日には戻る事になってるから、それはないと思うよ」
「あ、そうだ憂太。名前はな、悟の妹なんだぞ?血は繋がってないけど」
「え」
「あっと、なんていうか、私五条先生の遠縁?らしくて、術式の関係で書類上は五条先生の妹ってなってるだけで。遠縁だから会うまで知らなかったし、今でもよくわからないし…だから今五条名前なんだ」

すこし物言いたげな顔をして名前はそこで話を切った。
確かに憂太の記憶では名前の苗字は「五条」ではなかった。ではなんだかったと思い出そうとするとどうも思い出せない。その位の時は苗字よりも名前で呼んでいたのだから記憶に残っていないだけだろう。しかしその前の苗字が思い出せないのもなんだかもどかしい。あそこにいた名前はもうあそこにしかいないのだ。

「あ、名前戻った?」
「はい、戻りました」
「自己紹介は?」
「する必要ねえよ、名前さんと憂太知り合いだってよ」
「こんぶ!」
「やっぱり?じゃあ折本里香も知ってる?」
「はい、昔。ですが書類にあったような呪力を持っていた気配はありませんでした」

切り替わった名前の雰囲気。
それが憂太には名前と五条悟の関係を説明せずとも感じ取れるくらいには少し恐いものに感じた。
いかに五条悟という書類上の兄が友好的に名前に接しても名前は一線を引いてそれ以上も以下もない。という強い意志を示しているようで。

「あーそっか。うん。じゃあ明後日まで自由にしてていいよ。上級生らしく後輩に稽古でも何でも自由に」
「高菜!こんぶ、こんぶ!」
「棘は名前の事好きだもんね」
「しゃけ!」
「おっしじゃあ名前さん稽古しようぜ、試したい技あんだよ」
「俺も名前と遊ぶ!」
「え、え…」

わーい。という勢いで名前を連れて行く同級生。
その波に乗れずに残された憂太は静かに五条に「憂太」と名前を呼ばれ、恐る恐る五条の顔を見る。
今まで素顔は見たことがないが、今回も目を包帯で覆い、見えない表情で憂太を見ている。

「あの子は五条名前。数年前に僕の妹になったんだ」
「あ、はい…さっき、聞きました」
「憂太は知ってるかな、名前に妹がいたの」
「あ、はい。確か、その子の心臓が悪くて、良い病院にって引っ越して、それで」
「そうそう。その病気がさーちょっと面倒でお金がかかてね」

本人が居ない時にいいのだろうか、聞いて。と思うが五条の言葉は止まらない。
名前の両親はかなり遠縁になるが五条の親戚で、かなり昔に駆け落ちだかなんだかしてほぼ一般の家庭だったという事。確かに名前自身、小さい頃よく遊んだから憂太も知っている。本当に普通だったし、幽霊がどうの、とか言う事もない。怪談話に里香と憂太と名前だ三人で「ひゃー!」と言っていたくらいだった。
名前には妹が居て、心臓の病気だった。それは憂太も知っていた。両親が妹につきっきりで名前は近所に住んでいたおじいちゃんとおばあちゃんの家で過ごしていた事も。
良い病院に入院するために引っ越して、それっきりだった。

「名前の両親は金欲しさに名前を僕に売ったのさ」
「え…」
「妹の手術費は莫大でとても一般の家庭では賄えない。だからと言って募金ではいつできるかわからない。疲弊した両親は名前の術式に目を付けた僕に末娘の手術代が手に入るならそれでいいとね」
「………名前ちゃんは」
「黙ってたよ。それで小さく『そう』ってさ。それで名前は僕に買われて来たってわけ」
「家族、は…?」
「名前に手紙くるけど名前が読まずに捨ててるよ。真意は知らない」
「………」
「名前はさ、僕の事好きじゃないみたいだからさ、憂太とか真希とか棘とかパンダとか仲良くしてあげてよ」
「…はい」
「僕は名前のこと妹として可愛いと思うし、一応は家族だと思っているんだけどね。思春期だからさ、上手くいかなんだよね」

本当かわからないが、嘘でもなさそうである。
ただ思えば名前の立場が複雑で。
憂太の知る名前は確かにおじいちゃんとおばあちゃんの家で過ごしていたが、それでも妹を思えばと笑っていた。しかしそのために頑張っていたのに、そのために売られてしまったという事実は酷く他人である憂太さえも傷つけてくる。
本人である名前はどうなのだろう。考えるだけで涙がこぼれてきそうになる。


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