呪術 | ナノ
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「あ、名前さんだ」
「名前さん?」

虎杖の目線の先には補助監督の伊地知と話している女性が一人。吉野順平が知る人物ではないが虎杖の様子を見るにあの人も呪術師なのだろうと予想はできた。
そもそもこの呪術高専にいる人間なのだから呪術師になにかしら関係がある人で、虎杖が知っているのだから、必然的に呪術師であるという予想なのだが。

「五条先生とナナミンの先輩なんだって」
「へー…あの二人の」
「おーい名前さーん!」
「え」

するとこちらに背を向けて話していた二人は同時にこちらを向く。呼ばれたのは一人だがつられたのだろう。
名前がこちらを視とめると手を小さく振っている。
それから補助監督の伊地知と話してから名前はこちらへと歩いてきた。

「こんちは!任務?」
「こんにちは。今終わってね、新しい子?」
「そ!ナナミンから聞いてない?順平!」
「吉野順平です」
「夏油名前です、よろしくね吉野くん」
「ゲトー先生?」
「違うよ、私先生じゃなくて高専所属の呪術師。まあ時たま五条くんの我儘で先生みたいな事することもあるけど、基本はしてないから」

吉野が名前と話してうけた印象としては「案外普通の人」である。
同級生の伏黒や釘崎がよくいう「呪術師なんて基本クズ」という事はよく理解している。
虎杖と一緒にいた七海1級呪術師も普通そうではあったが、やはり吉野の知る普通とは少し違っていた。だからと言って悪い人ではないのも知っている。担任の五条悟に比べたら何十倍も良い人だ。

「恵くんと野薔薇ちゃんは?」
「伏黒は任務で野薔薇は真希さんと体術の練習してる」
「で、二人は何してるの?」
「これから二人で訓練すんの。順平式神使いの毒持ちだから俺が相手なんだ」
「虎杖くん毒効かないんだっけ」
「そ!」
「ちょっと時間ある?」
「あるよ」
「じゃあ大先輩の名前さんが頑張る二人にジュースを奢ってしんぜよう」

ふふん。と笑う名前に虎杖が「よっしゃ!」と喜ぶ。
二人が自販機が並ぶコーナーに脚を向けると名前が「ほら、吉野くんもおいで」と手招きをしてくれたので急いで吉野もその後に続く。
普通の人が良い人とは限らない。悪人面だからと言って悪人とは限らないように、関わってみないとわからない部分が大きい。
特にこの呪術師という人間はクズの集まりだからと嫌というほど聞かれている吉野にとっては名前との距離を見目かねているといってもいいだろう。
あの虎杖が懐いているから不安は少ないが、虎杖自身が特殊すぎる。両面宿儺の器というかなり厄介な存在を前に保身に走らないとも限らない。

「俺コーラ!順平はどうする?」
「じゃあ、同じの」
「おっけー。じゃあ私もコーラにちゃお」

1,000円札を投入してコーラを押す。
ガチャンと降りてくれば名前がひとつずつ拾っては人に渡す。同じ物なのでどれも同じではあるが、一応は目上の人にされるのは不思議な感覚である。

「あざっす!」
「ありがとうございます…」
「お礼言えるなんて偉いわー」
「名前さん馬鹿にし過ぎっしょ」
「高専時代の五条くんなんてお礼言えなかったからね、本当」
「え!?」
「お、良い反応だよ吉野くん。五条くんは当時目も当てられない子だったんだよ、口は悪いし態度も今以上に悪かったしね。私なんて2年になる時『五条には極力関わらないように』って言われたんだから」

そんな五条くんも一応はあそこまでになったから人生何が起きるかわからないよね。と名前は何とも言えない顔で話す。
それからプルタブに指を引っ掻けて缶を開けて一口。
炭酸の刺激が喉を刺激したのだろう、少しだけ苦しそうにしてから「ふう」と息をつくのが聞こえた。

「名前さんこれから帰んの?」
「うん。今回大きい怪我しなかったら硝子に会わなくてもいいし」
「じゃあ俺達の訓練付き合ってくれない?1級の人いれば安心じゃん?」
「労働時間外なので」
「ナナミンじゃん…」
「あの、ゲトウさんも式神使いなんですか?」
「私は式神使いじゃないよ。あと夏油さんはちょっと慣れないから名前さんで」
「名前さん、はい…」
「そして私は疲れています。早朝からフルでした、帰らせて…寝かせて…」
「お疲れなんだ…ごめん、仮眠室行く?」
「帰るう…。ゴリゴリの近接タイプの体力バカじゃないので私」

毒を吐く名前に吉野は思わず苦笑いをこぼす。
それを名前と虎杖がじいっと見てくるのでなんだか恥ずかしいやら、失礼だったのだろうかと不安になって謝ると名前は「ごめんんごめん」と謝ってきた。

「確か、つい最近まで一般人だったよね」
「あ、はい」
「嫌になったらすぐ辞めていいからね。伊地知くんみたいに補助監督だって、窓にだってなれるんだから。勿論一般就職だってあるんだし、その時は七海くんに相談してね。七海くん一般企業に就職してたから前」
「なれるんですか?」
「なれるよ。案外多いよ?七海くんは例外だけど、呪術師から一般に行く人」
「へえ……」
「さ、て、と。私はそろそろ帰るかな、嫌な予感がするから」
「なに、嫌な予感て」
「こういう時に限って五条くん来るんだよ…帰ろ!ではな、若人たちよ!!私は帰る!!」

コーラを片手に名前は空いている手をふらふらと振って帰る。
その姿を二人で見送り、二人がコーラを飲み終わる頃に五条が顔を覗かせる。

「あれ、まだ居たの?」
「名前さんと会って、コーラ奢ってもらってた。今から行くよ」
「え!名前さん居たの」
「いたよ。順平の紹介した」
「えー、僕がしたかったのにー」
「先生は、えっと…名前さんと仲が良いんですか?」
「もちのろん!!僕と名前さんは同じ穴のムジナだからね。そっか」
「名前さん先生が来そうな気がするからって帰ったよ。当たってて恐い」
「まあ補助監督とかが名前さんいると僕に教えるからね。当たり前っちゃ当たり前だよ」
「先生と名前さんは付き合ってるんですか?」

その質問に虎杖はひゅっ!と息を息をのんで持っていた空の缶を握り潰してから吉野の缶も握り潰して吉野を抱えて逃げる。
ぐえ!なんて吉野がつぶれたような声を出しても構わない。
走って逃げて、校庭の隅に吉野を降ろして、目を白黒させている状態だが虎杖はコソっと耳打ちをする。

「それ、先輩とか他の人の前言っちゃいけないワードだから」
「な…な?」
「俺もよく知んねーけど、それは最大の侮辱だって」
「………え?」
「狗巻先輩はかなり悲しそうな顔するし、他の先輩は力で制圧してくるからな、気をつけろよ」
「…う、うん」

今のだって十分…と口に出そうになったが、これは彼なりの思いやりなのだと黙って頷いた。

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