呪術 | ナノ
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「五条くん、大奥様からお見合いの話来てるからって連絡来たからよろしく」

そうだ。と言わんばかりに名前は五条にまるで爆弾を落とす様に話のついでで言う。
五条は五条でいきなり言われた見合い話に持っていたお菓子をうっかり落としそうになるのをこらえ、名前は名前でそれを見て「おお、ナイス」と眺めている。
何故五条家の大奥様から名前宛に連絡が来るのかと言えば、名前は名前で五条家に恩がある。実際は五条悟に、ではあるが、五条家といっても差し支えはないだろう。まだ当主になる前からの恩があるのだ、先代からも少なからずはその力によって名前は助かっている。
そして制御が出来ていなかった次期当主が不満ながらも名前の言う事は聞いたのだから先代も大奥様も名前を使わない手はない。言う事を聞かない子供を使うためなら他人の手だって使う。そういう人間だっただけの話だ。

「………なんで、名前さんが、それを僕に言うの?」
「え、だから、大奥様から電話が来て、五条くんに伝えてくれって。次の日曜だってさ」
「…それ、名前さん、『はーい』って返事したの」
「そりゃもちろん。五条くんに関して頼りになるのは私だけだってさ。親孝行しなよ、出来る範囲で。私なんていないんだから」

二人で並んで休憩していた時の話ではないだろう、と五条は思った。
確かに五条家の当主は五条悟ではあるが、まだ先代とその妻には権力がある。
それなのに五条悟が囲っていた、というわけではないが夏油名前になんてことをいわせるのだ。と大きな溜息をつく。
別段五条が名前に対して特別な感情があるわけではないが、先輩後輩ではなく友人だと思っている相手にプライベートも良いところだろう。
しかも名前は名前で気にもしないで言うのだ。
夏油名前と五条悟という関係は第三者からみれば名前は五条家に属している人間である。
それは確かに間違いはない。夏油名前という人間は弟の離反により居場所を失って、五条悟は居場所を与えたのだ。一般人に戻るのではなく、呪術師としてではあるが。

「………お見合いねえ」
「御当主さまは大変だね」
「笑い事じゃないし。どうせどっか良いと所の娘なんだろ」
「そりゃそうでしょ。なんせ五条くんは御当主さまですし?あの二人だって先生なじゃくて家にいてほしいでしょ」
「言う事聞くわけないじゃん?僕だよ」
「そうだね。だから私にお鉢が回るの。いい加減諦めてお見合いしてよ、前回も前々回もその前も!私怒られたんだから」
「あは!その前は名前さんに連れて行かれたからね!」
「な、の、で。今回は私が連れて行くことになったの!私の休日返して!もう28歳でしょ!」
「…げ、まじ?」
「土曜迎えに行くから大人しく待つように。任務も全部大奥様が手をまわしてあるから」
「あんのババア…」
「そしてついに私がお見合いの部屋の隣でスタンバイすることになりました」
「か、可哀想…」
「そう思うなら本当ちゃんとして、本当」
「いや僕が」
「お前かーい」

パシッと名前の突込みが決まる。勿論無限は解いてある。長い付き合いで信頼関係もあるし、五条は名前が悪意持って攻撃をしないとわかっている。
まあ名前が出来る事などわかっているので、何も怖い事はない、という事もある。

「えーめんどくさ」
「当主なんだから諦めたら?結婚して子供でもできたら静かになるって」
「結婚…ねえ。………ねえ名前さん」
「んー?」
「ちょっと僕と結婚を前提に付き合ってくれない?」
「やだ」
「だよね。あのババアもジジイも名前さんなら黙るかなと思うんだけどさ」
「いや、黙らんだろ。あの二人だぞ?一般家庭の親ならまだしも、五条家の先代となれば話は別でしょ」
「んー。もう力技かな」
「硝子とか歌姫さんだったら私全力を持って殴りにかかるからな」

ポケットからスマホを取り出してどこかに電話をかけ始める五条。
それを名前は隣で眺めてながら持っていたコーヒーを飲む。
どうせまた碌でもない事を考えているんだろうな、とたかをくくって。

「あ、伊地知?今すぐ婚姻届持って来て」
「んっふ」
「あと僕の判子と名前さんの判子」
「ちょっと!?力技ってそっちなの!?おいこら!!伊地知くん!!なし!今のナーシ!!持ってこないで!!!」
「じゃ。ねえ名前さん。伊地知は名前さんと僕、どっちの言う事聞くと思う?」

電話を切りながらにいっと笑う悪魔。嫌がらせにしても限度があるだろうと名前は五条の長い脚を蹴る。
「いた!」と脚を縮めるが名前には明らかに小馬鹿にしているようにしか見えない。

「僕と名前さんが結婚しちゃえば無問題じゃん?」
「問題ありありだド阿呆が。伊地知くんが万が一持ってこないとも限らない」
「名前さんのスマホ没収ー!伊地知は僕の事恐がっているから僕の言う事聞くんじゃない?」
「くっそ…まじでクソだな…」
「だって僕だし」
「だって僕だしじゃねえよ!じゃあ私次あそこの通路通った男性、成人済み・未婚に結婚を前提に付き合ってください、さもないと私五条くんと結婚させられるって泣き付いてやる」
「またクソな発案してきたね。名前さんそこまだ馬鹿だった?」
「同じ程度に落ちただけですけど?」

っけ。と吐き捨てる様に言う名前。
お互いに冗談ではあるが、引っ込みがつかない勢いになったので名前が唸るし五条はニコニコとしている。
何度も言うが二人は特別な感情はない。名前からしたら五条は弟の親友で弟を殺してくれた人間、対して五条は親友の姉で親友が大切にしていたから同じようにしているだけである。恋愛感情はない、あるとしたら親愛だろう。
すると足音が聞こえるではなか、名前と五条は二人でそっちの方を凝視する。

「あ!名前さん今のなし!僕もなしにするから!ね!!」
「は?何いきなり…」
「騒がしいと思えばお二人で何をしているんです?」
「……七海くん」

名前はコーヒーを置いてサッと五条の隣を離れて七海の前に行く。
そしておもむろに七海の手を握って「あのね」と続ける。

「名前さーん!ごめん!ほんとう、僕が悪かったから!謝るから!!馬鹿な事しないで!!ごめんなさい!!」
「は?五条さんなにを…」
「七海くん、私と結婚を前提に付き合って。そうじゃないと私五条くんが権力を使って私と結婚しようとするから」
「……は?」

大きな大きな躯体を床に伏せて、まるで幼児が駄々をこねる様に大きな声で、母親に謝る様に騒ぎ出す。

「名前さーん!ごめんなさーい!!ちゃんと、ちゃんとお見合いも行くから!!潰すけど!!」
「七海くん、返事は?」
「………話が見えないのですが」
「イエス オア ノーで答えて!早く!私を助けると思ってイエスを期待する!!」
「名前さーん!!!ごめんなさい!だから七海と付き合うなんて!!考え直して!」
「…原因は五条さんですね。ではイエスで」
「おっしゃー!!!」
「これでいいですか?」
「うん、ありがとう。助かった。じゃ、土曜日迎えに行くから覚悟しておけ」
「デートの誘いですか?」
「あ、ううん。五条くんを本家に連れて行ってお見合いさせる算段。大奥様から言われてね。はー、良かった。これで今回怒られないぞ」

スマホ返せ。と名前が床で泣く五条の手からスマホを回収する。
スマホで時間を確認すると「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあね、二人とも」と名前はいつもの調子でその場を後にする。
その場に残った二人は名前をそのまま見送り、五条はおもむろに立ち上がる。

「で?」
「お見合い面倒だから名前さんと結婚しようとしたら嫌がられて七海がきて名前さんが七海に告白した」
「名前さんに甘えすぎでは?」
「いや、別にそう思わんけど」
「……で、これは私名前さんと恋人という括りになるのでしょうか」
「なるわけねーだろ!!」
「……そうですね、確認しますね」

スマホを取り出した七海に五条が掴みかかり、無理矢理奪う。
七海は七海でむきになる五条を不信に思うが、七海は五条が名前に対して特別な感情を持っていない事もわかっている。ただ遊び相手を奪われる感覚に近いという事も。

「…………」
「…………」
「さっさと結婚したらどうですか」
「え、名前さんと?」
「まさか。ご存じですか?名前さん五条さんの子供を抱かせてもらうのか淡い夢だと言っていましたよ」
「え、名前さんが産むの?」
「そんなわけないでしょう。名前さんは五条さんの伴侶が産んだ子供を抱っこしたいんですよ」
「……えー…めんどくさ」
「巻き込まれている私や名前さんに比べたらマシでしょう?」

ほら、さっさとスマホ返してください。と七海はスマホを高らかにあげている手を素直に降ろして返す。

「名前さんて馬鹿だよね」
「貴方にいわれたくないでしょうね。では仕事があるので失礼します」

そのまま歩いて行く七海の後ろ姿をなんとなく眺めていると、スマホで誰かに電話を掛ける七海。
とくに考える事もなくそれを見ていると「もしもし、名前さん。少し伺いたいことが」と続くので急いで七海のスマホを取り上げるべく走り出した。

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