呪術 | ナノ
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「硝ー子ー」
「あーい」
「ありがとね。私帰るー」
「はいはーい。じゃ、気をつけて」

晴れて名前は無事退院、というのだろうか。帰宅の許可を得て荷物を片手に世話になった家入に挨拶をする。
迎えはない。
迎えに行くと傑に言われたが「いらないです、やめてください」と断って、病室で口論になりかけて家入に「うるせーぞ」と怒られた。
着ていたスーツは見事に血みどろ。美々子と菜々子が持って来てくれていた服はさすが女子高生という感じの服で名前には少し気恥ずかしい。
家に帰るにしても補助監督たちはまだ忙しいだろうし、なにより仕事は呪詛師たちだけではない。伊地知や新田も忙しいだろうから帰りはバス、タクシー、電車を使わないとだろう。

「名前さん」
「七海くん。どうしたの?怪我したの?」
「いえ、夏油さんから名前さんが帰るというので」
「お?」
「夏油さんから依頼されて迎えにきました。どの補助監督も今忙しいので」
「え」
「バスやらタクシー使うとか言わないでくださいね、夏油さんからお金を頂いているので」
「すごい手回し…傑のヤツ、私が七海くんに甘いからって…」

荷物はこれだけですか。と取り上げられた荷物。名前が何を言ったところで七海は無視をしてする事だけをするのは名前もわかっているので「はい」と素直に返事をする。
同じ1級といえど男女の体格と力の差、そして近接タイプと遠距離タイプではどうやっても名前は七海に勝つことは無理なのだ。そこで意地を張っても疲れるだけだというのは名前も理解している。無駄に疲れるだけなら素直に従っていた方が楽と経験からわかっている。

「かなり無理をされたそうですね」
「結果的に無理をしたことになったってだけ。まさか自分の所に主犯格、しかも呪術師で言うなら特級レベルが来るとは思わないじゃん?」
「夏油さんかなり参ってましたね、ご存じですか」
「色々聞いてる。でもまあ仕方ないでしょ?お互い呪術師なんだし。それが嫌なら辞めるしかないし」
「お辞めになるのでは?」
「………あこがれはあったけど、やっぱり私は呪術師がいいのかなって思う」
「段差ありますので気をつけて」
「ああ、はい。」
「まあ私も名前さんが呪術師で居てくれていいと思います」
「お?」
「信頼できる先輩ですし、名前さんの術式と私の術式はバランスがいいではありませんか」
「それ猪野くんに言ってあげてよ、彼七海くんの事かなりリスペクトしてるんだから」
「若い人間がわざわざ1級になって命を捨てさせられるような事はない方が良い」
「それは同感」

スマートに車のドアを開けてもらい、名前は車に乗り込む。
補助監督の運転しない車なんてどのくらい振りだろう。しかも運転手が知り合いだなんて。まるで友人と出掛ける時のようなワクワク感がある。相手は後輩ではあるが。

「どこかに寄りますか」
「あー…スーパーあたりに寄ってほしいかな。食料が」
「料理していました?」
「保存食でーす。生もの買っても使い切れない事の方が多いし、無駄な事はしません」
「では食事をしてからスーパーでもいいですね」
「食欲ないな」
「駄目ですよ、血が足りていないんですから。焼肉だとかは言いません、テラスで食べられるようなカフェにしましょう」
「デートじゃん」
「何か問題でも?恋人いました?」
「いませーん。七海くん言うね」
「一応は先輩が回復して嬉しいので舞い上がっているのかもしれません」

言うようになったな。と運転席に座る七海の後頭部眺める名前。
付き合いは長いがこんな事言われて事は初めてである。七海が一般企業に就職してしばらくは七海の誕生日祝いにと食事をご馳走してはいたが、こんなことを言う人間ではなかった。もう10年以上も付き合いがあるのだから、言う事が変わってもおかしくはない。それだけ長い時間関わったのだ。

「いくらもらったの?」
「別に良いでしょう金額なんて。そもそも無償でも受けましたよ」
「へー意外」
「名前さん、貴女私の事どう思っているんです」
「お金大好き七海くん!南の島には行けそうかい?」
「……お金が好きなのは否定しませんが、名前さんには色々お世話になっていますから、これくらい無償でしますという事です」
「五条くんなら?」
「金貰ってもしませんね」
「ですよねー。あ、スマホも申請しなきゃ」
「ああ、スマホでしたら夏油さんが申請して新しいの預かっていますので後程」
「すごい…一歩先を行くじゃん…」
「夏油さんの手配ですよ」

個人のスマホであれば無事だが仕事用のスマホは壊れてしまった。さすがに常に2台持ちはしないし、何より仕事関係の電話代も馬鹿にはならない。それに故障や破損が常にあるのだから仕事用は必須だろう。

「うーん、これは傑にもそれなりのお礼しないとだな」
「是非そうしてください」
「ん?」
「言ったでしょう?かなり夏油さん参っていたって。今日も自分が行くと言っていましたが名前さんが断って、それでも心配して私に依頼が来たので。私は任務を代わっていただけたので良いのですが」
「傑によしよし、良い子だねーって抱きしめればいい?」
「さあ?それは私はわかりませんが、夏油さんそれ喜ぶんですか?あとそれ私に言っていいものなんですか」
「今更デショ?傑の事は」
「そうですけど」
「ま、冗談はこのくらいにして…傑と美々菜々ちゃんにご飯ご馳走したらいいか」
「後腐れない方選びましたね。私は良いと思います」
「じゃあ後でさ、七海くんオススメのお店紹介してよ」
「お酒が飲めないとなると…そうですね、いくつかピックアップしておきます」

翌日には任務の連絡がきて、新田が迎えに来て呪術師としての生活がまた始まった。
補助監督がいいとか、呪術師がいいとかはなく、ただ名前はここしか居場所が結局ないのだと納得した。
補助監督の仕事だって悪くなかったし、呪術師の仕事は正直しんどい時もある。
七海曰く「労働は何をしてもクソなので適正ある方がまだマシです。労働はクソ、覚えておいてください」と再三言われたこの言葉も納得である。
補助監督は送り出すクソで呪術師は存在がクソ。
後日高専で傑にあった名前は傑に抱きしめられ、一緒にいた五条に下品に笑われ、ついでに名前が「傑くん、良い子良い子、色々ありがとね」と言ったら泣かれてしまった。
調度近くを通りかかった虎杖に「やべー!夏油先生が女の人抱きしめて泣いてる!!」と大声でいうのもだから野次馬ができたのはいい思い出なのか黒歴史なのか。
とりあえずそれをみた野次馬が「なんだ名前か」と言って復帰を喜んでくれた事は、多分良い思いでなのだろうと名前は思った。

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