呪術 | ナノ
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名前が新田の教育係になって1週間。今では最初の頃の様に見ているだけではなく名前の指導もあって色々と出来るようになってきた。
名前が元呪術師だったという事もあって顔が広く、名前が「よろしくね」と言えば「まあ名前さんの頼みですから」と言われることが多かった。

「名前さんて凄いんですね。なんで呪術師辞めちゃったんですか」
「普通ってのに憧れたからかな。ここで少し練習して、一般企業に行けたらなって」
「へー」
「なんで新田さんは補助監督に?」

弟が京都の呪術高専に。と一緒に休憩しつつ缶ジュースに口をつける新田。
この仕事は基本的に一般募集はない。あるとしたら呪術か補助監督に助けられて、という人間くらいだろう。術師から補助監督はないわけではないが、数は少ない。その逆というのは皆無に等しい。

「京都に弟さんがいるんだ、じゃあ呪術師になるの?」
「どうなんすかね、戦闘向きではないので」
「私の弟も呪術師なんだよ。もしかしたら一緒にいつか仕事するかもね」
「名前さんの弟もですか?へえ、どんな人ですか」
「ん?あれ」

あれ?と名前が指さす方をみれば一人の黒髪の長身の男性が一人。
名前に気付いたのかにっこり笑って手を振っている。新田が名前を見れば同じように手を小さく振っている。

「姉さん。その人新しい人?」
「そ。新田明さん、よろしくね」
「新田明です。名前さんにはお世話になってます」
「夏油傑です、どうも」
「げとう、すぐる…」
「どうかした?」
「いや、どこかで聞いた気が…」
「ああ、私特級だからそれでじゃない?」
「あー!それで、え……ってことは、名前さん、弟が特級なんすか」
「まあそうなりますね」
「でも今いる特級の人って問題があるって…」
「それ私も含まれてるのかな、もしかして」

呪術師やってる人間どこかしら問題あるでしょ、私含め。と持っていたカフェオレを飲む名前。
新田自身、この仕事を始めてからなんとなくわかっていた。
初日のあの二人を除けばどこかしら何かが欠けたような人間で、名前にもその片鱗が見え隠れしていた。名前が悪い人間だとか、欠陥があるというのではない。
どこかしら何かを諦めて、それでいて何かがずれている。先輩としてはとてもいい人で気遣いをしてくれるし、それでも何かがずれていた。

「それは否定はしないね。美々子と菜々子が姉さんに会いたがってたから今度来てよ」
「しばらく会ってないね、そういえば。補助監督になったら雑務増えてさ。なかなかね」
「姉さんは補助監督に向いてないんだよ。早く呪術師に復帰してほしいな、私としては」
「なったばっかりだから。午後から任務同行だからよろしく」
「うん。楽しみにしているよ」

それじゃあ新田さんも午後から。と大きな手を振って去る夏油傑。
新田からすれば別段変人だとは到底思えないし、名前と仲も悪いとは言うほど悪くない印象。さすがに大男といえる身長はあるので威圧感は受けるが、喋ると物腰は柔らかいし優しげな顔でファンがいてもおかしくない容姿。

「なかなかいい男っすね」
「ああいう人が好み?私としては七海くんがオススメかな」
「ななみ…ああ、初日のスーツ着てた人っすね」
「そ。午後の任務だけど、さっき傑が言っていた通り傑ともう一人特級の五条くんが一緒だから覚悟しておいて」
「七海さんといい五条さん?も名前さんと仲良いんすか?」
「ん?」
「だって、『くん』って」
「あ、ごめん、前のクセで。二人とも後輩なんだ」
「へー!凄いっすね特級が身内にいて、もう一人は後輩なんて」
「別に凄くないよ。凄いのは本人たちだから、私はたまたま。それだけ」


午後になり、今回からは新田が補助監督として動いて名前がサポートにまわる事になった。まさかの特級相手が初仕事になるとは名前も新田も思っていなかったが、上の方が「夏油が付いている時にやっておけ」という指針で名前には「頑張って」と言われたが周りから散々言われている恐ろしい事を思い出して溜息をつきまくっていた。

「新人の!新田あ、明です」
「さっきぶりだね。凄い緊張しているけど大丈夫?」
「やっば。つーか傑先に知ってたんだ」
「ほら悟も挨拶して」
「はいはい。五条悟、特級だよー。」
「真面目にやって」
「だってガッチガチなんだもん。このくらい楽にしたら良いよって見本じゃん?僕優しいから」
「……新田さん、任務内容」
「へ!あ、はい!えっとですね」

タブレットにある内容を読み上げる新田。それを横で聞いている名前。
正面の傑は黙って聞いているが隣の五条は目隠しをしているせいか新田からは表情は読めないがなんとも居づらい雰囲気だというのはわかる。

「以上です」
「新田さんだっけ?もっと力抜きなよ」
「は、はい」
「別に僕らとって食ったりしないからさ」
「ああは言っているけど補助監督から問題児あつかいされているので注意だけはしておいてね。遅刻魔の飽き性で補助監督に無茶振りしてくる人だから」
「え、なに酷い…名前さん、僕の事そんな風に思ってたんだ…うう」
「補助監督になって補助監督の人から言われた言葉です。おかげで五条くん担当にされかけました」
「私が阻止したよ」

いえーい、ピース。とブイサインをする傑。
そして新田はすぐに察した。「あ、絶対名前さんに逆らわんどこ」と。
本能なのか勘なのか。そして上司が名前を教育係にした意味を理解した。力関係を見る為、それ以外ないだろう。問題児、というには齢が齢だが。その特級に対して対応ができるのが名前という補助監督なのだ。

「じゃあ運転は新田さん。大丈夫?」
「うっす!平気です」
「僕お腹空いた」
「車にお菓子あるから道中食べてね」
「さっきあれだけ食べてたのに?」
「デザート我慢したんだけど」
「はいはい乗った乗った」

五条は名前に言われる通りに車に乗りこむ。
運転席は新田、助手席には名前。名前の後ろには傑で新田の後ろは五条だ。
名前が持ち込んだ箱を開けると菓子が入っており、名前が自分の後ろの傑に手渡しをすると慣れた手つきでそれが五条の手に渡る。
騒ぐ五条に宥める傑。名前は適当に受け流しているが新田はその間黙ってその様子を伺う。確かにこれは慣れている人がいなければ地獄と言っていいかもしれない、と。
ここでは新人の新田がどうこうできるという立場ではないのはわかった。
任務地に送り届け、帳を降ろし、任務が終わるのを待つ。さすが特級、物の数分で終わったのですぐに高専に戻る事となった。

「お疲れ様でした。五条くんは報告書すぐ出して、前回もの前々回のもまだだよ」
「えー。名前さんお願い!僕の分も書いて」
「嫌です。私の仕事を増やさないで」
「新田くんだっけ?」
「新田さんに押し付けない。傑も前回のまだだから早く出してね」
「わかったよ。新田さん、特級の補助監督はどうだった?」
「え、あ…名前さんて凄いなって思います」
「私それ関係なくない?」
「ありますよ!」
「新田さん面白いね。姉さんの事よろしくね、補助監督も男性多いし。同性の人がいると違うでしょ?」
「大丈夫だと思いますよ、名前さん元呪術師だし」
「誰も傑のねーちゃんに手出さねえよ」

べー。と舌を出す五条。
新田は「ああ、こういう事ね」と静かに納得をする。
面倒な二人という事と、問題児という意味。
確かに夏油傑の方は五条悟に比べて人は出来ている。しかし名前が言う様に呪術師なのだから感覚が違うというのも察した。そして名前が元呪術師だという感覚のずれも。
そして絶対に名前には逆らわない、困ったら第一に相談する。そう決めた新田だった。

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