呪術 | ナノ
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「夏油ぐでんぐでんじゃん」

ウケる。と言わんばかりにクマを作った顔で家入が笑う。
家入のクマも在住が長いのでもう取れなくなってしまったのだと前に笑っていたが、仕事柄確かに難しい。
名前が前に「自分に反転術式使えば?五条くんみたいに」と提案したが、そちらの方が疲れると一蹴り。名前は反転術式を使えない人間なので反転術式の大変さは想像でしかわからない。使える本人が疲れるというのならばそうなのだろう。確かに五条も疲れるから糖分が欲しいと人の食べているお菓子までたかるくらいなのだから家入もそうでもおかしくはない。甘いものを好まない彼女が仕事だ任務だと取りたがらない、という事もある。

「お、硝子お疲れ」
「まあな。五条、酒」
「名前が持ってきた日本酒あるよ」
「名前、褒めてつかわす」
「ははー!夏油くんのおみやげもあるよ」
「で、その夏油は名前のブラッシングで溶けたのか」

んー?と言わんばかりに目までとろりと溶けている。馬の耳がぴぴぴと震え、尾は艶が良く流れている。
五条の部屋の立派なソファに座る名前の膝上でまったりとくつろぎ、甘えるしぐさをしている。普通であれば家入がすかさず「おえ」と吐きそうな仕草をするだろうが、家入も疲れていてそれどころではないらしい。

「さっさとどけよ馬野郎、私も疲れてるんだ」
「ご褒美だからもう少し待ってよ硝子。私フリーだから名前に普段会えないんだしさ」
「知らねえよ、どけ」
「ちょっとちょっと、次僕なんですけどー」

キッチンから家入のために持ってきた酒を移し替え、飲みやすいようにしてくれた五条。
この部屋で酒を飲むとなるとほぼ家入だけ。自室でもないのに家入のための酒のストックが大量にある。これも五条家当主という立場で高専職員の中でも一番いい部屋にいるだけの事はある。
おかげで同期のたまり場になっているが、お互いの生存確認も兼ねられるので悪くはない。ついでに誰かに恋人でもできれば変わるだろうが、今のところ変わる気配はない。

「五条、お前昨日もしてもらってただろ」
「え、名前言ったの?」
「カマかけたんだよ。ならいいだろ、私だって名前に撫でてもらってないんだ」
「うへー。僕だって腐ったミカンの相手とか生徒の監督とかお勉強とか大変だったんだぞ」
「五条くん、私アイス食べたい」
「はいはい」
「夏油くん、そろそろお終いね。アイス食べたい」
「えーもっとして」
「順番待ちが増えたので。お腹空いたし。ていうかさ、もう3人してそういう人作れば?五条くんも夏油くんも寄ってくる女の人いるでしょ?硝子も美人だしさー。あ、さんきゅ」

アイスを受け取る。
相変わらず高級アイスの常備がある。限定品もそろっているのは有り難い。
なんて思っていると腹のあたりの圧迫が強くなっている。夏油が締めているのだろうと名前はアイスを持っていないほうの手でポンと叩く。まあ言えこれも通常運転で遊びの範囲内だ、勿論敵意や殺意もないので軽い衝撃程度、である。

「名前ー私の教団においでよ。悪いようにしないしお給金も弾むしさー」
「だめだめだめ、名前は高専にいるの。ね、硝子」
「そうだそうだ。そもそも夏油お前が独立しなければ名前と同じ職場だっただろ」
「それ言ったらお終いじゃない?そもそも私猿の為になんて無理だし」
「名前、美味しい?」
「美味しー!」
「じゃあ次僕ね」
「硝子に譲ってあげなよ。てか、本当皆そういう相手見つければ?順番待ちないよ」
「じゃあ名前、私の“そういう人”になって」
「馬鹿言うな馬。名前は私を褒めてブラッシングするんだよ。名前は猫好きだから」
「なら大型猫科の僕でしょ。名前のお気に入りは僕の尻尾」
「名前は私の尻尾が綺麗だって言ってた」
「私が一番可愛いって言われるけど」
「「「名前」」」
「んー?」

こうなることは数年ぶりだろう。
同期で唯一の混ざっていない名前。褒めてくれるしブラッシングは上手い。
いや、褒めてくれることやブラッシング上手さは混ざっていない人間からしてもらえれば基本的には気持ちが良くて最高の趣向品と言える。だから別になくてもいいのだが、味を覚えてしまえば捨てがたいのだ。
それを名前は理解していない。そもそも理解ができないのだ。
褒められて嬉しいのは人間でなくても同じだが、ブラッシングの良さは混ざっていない人間には理解できないほどの趣向品。
だから名前は時たまそんな残酷なことを言うのだ。

「傑はそこ退けよ」
「嫌だ」
「名前、お前の怪我を治せるのは誰だ?私だな」
「僕御三家当主」
「私教祖」
「夏油くんだけ異質で笑える。んふふ」
「名前が笑ってくれるなら。私と一緒に教団に」
「皆私の身体目当てなのねっ」

一呼吸おいて4人で「あっはははは」と笑う。
名前自身「そういう人を作ればいい」は本心であって嘘はない。
しかし呪術師という職業柄そういう相手を作るのが難しいというのも理解している。
この業界では名前の様な混ざっていない人間は少数派。補助監督になれば逆転はするが、補助監督もなんやかんと忙しい。
ついでに何かとプライドの高い連中なので、補助監督にそれを求めるのができないという事もあるのだろう。
混ざっている呪術師の中には褒めてもらう事はあっても、ブラッシングまでは求められない。ストレス発散に十分な効果があるが、そういう店もあるという時点で呪術師はそちらの方に流れるのだ。

「もう店行けば?」
「他人より知ってる人間だろ」
「付き合いも長いんだからさーわかってよ」
「気分転換?」
「名前…名前は私のブラッシング嫌なの?迷惑だった?」
「まあ、手間な時はあるよね」
「え…」
「こんなGLGをメロメロに出来るのに!?」
「名前…私が反転術式が手間だと言ったらどうするんだ」
「私、これお金発生しないし」

同級生だしね、まあ。とアイスを口に運ぶ名前。
確かに家入の場合は職務であって、名前のブラッシングはある意味ボランティアだ。
名前だけが出来るもの、ではなく名前以外の混ざっていない人間もできる事。
その重要度の差は果てしなく大きい。

「まあ、でも、なんか動物園の飼育員さんみたいだから、嫌ではないよ」
「動物園…?」
「飼育員…?」
「ユキヒョウに、お馬さんに、猫」
「なんで傑だけ“さん”がつくんだよ…」
「ユキヒョウさん、猫さん」
「名前、お馬さんは嫉妬するんだよ」
「猫もするよ?優2人が居ると凄ーく嫌な顔してたもん」
「私だけをブラッシングしてほしい」
「名前はお前のそれは効かないからな」
「僕、喉ゴロゴロ出来る…」
「だから何だよ。五条は反転術式名前に使えないだろ」
「それ言ったら…私、何もできなんだけど」
「ダッセぇ」
「夏油くんは格好いいよ、いい加減離れてくれると嬉しいな」
「だっさ」

やっつけ仕事じゃん。と五条と家入が笑う。
ムスっとしながら名前から離れれば、その隙間にストンと家入が入り込む。その反対側は五条。広い部屋には大きなはソファは付き物で、名前との間に入り込まれた夏油は面白くなさそうに馬の耳がピクンと動く。
名前にブラシをぐいっと渡し、名前の膝の上にドスンと耳と尾を出してから頭を乗せる家入。
五条に「あれ?お酒は?」と聞かれれば「こっちが先」とのこと。
「はいはい硝子ちゃん、お疲れ様ですね。硝子ちゃんが居るおかげで頑張れておりますよー」とブラッシングを開始する。

「私がしてもらってたのにー」
「お前らはそこら辺のヤツにやってもらえ。私は反転術式を他人にできるんだぞ、うっかり相手が呪詛師だったらどうするつもりだ」
「硝子は貴重な人材だもんね」
「そうだそうだ」
「………硝子、名前。2人でうちにこない?」
「傑!?ちょ、おま」
「夏油と一緒に居たら他の女に刺されそうだからやめとく。私は格闘はまったくだから」
「確かに刺されそう。硝子、尻尾もするの?」
「する。あ”ー…名前のブラッシング最高……」
「ねえねえ僕もしてよーまた僕忙しくなるんだよー」
「昨日してもらったんだろ君。私なかなか会えないんだよ」
「戻ってくればいいじゃん、非常勤講師とかさ」
「あ、硝子の尻尾ダマがある」
「やさしくしてー」
「名前、アイス溶けるよ?僕貰っていい?」
「だめ!あー」
「はいはい、あー」
「ん」
「あ、いいな。それ私もやりたい」
「残念、もうなくなりましたーやったね」
「そもそもさ、名前は僕らが名前にブラッシングおねだりする意味わかってる?」
「信頼?」
「それなら七海だってお願いしてくるでしょ」
「腰砕けの七海くん可愛かったな…お耳、かわいい…」

あの厳つい七海の頭に動物の耳。
酒の席で名前が思わず「七海くん可愛いね」と言って撫でてしまったのが悪かったらしい。正確にはブラッシングではないが、その感じがまた七海の腰に響いたらしく腰砕け。七海のあの性格でブラッシングをしてもらう店に行くという感覚もないのだろう。
思わず名前が謝る事態となったのだ。

「僕の耳可愛いでしょ」
「私は名前の好きな猫だぞ」
「私の耳、綺麗だって言ったよね」
「うわーメンドクセー同期達」

でも、七海くんもちょーっとブラッシングしてみたいな。と言えば、3人から猛抗議を受けた。
ただでさえ3人の共有になっているのに増やしたくないらしい。

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