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※夏油not離反if
※not人違い勘違い


「新しく補助監督になりました夏油名前です」

よろしくお願いします。と補助監督の朝礼で名前が深々と頭を下げた。
夏油名前を知らない補助監督はいない。あまりに急な出来事にざわつく事もなく、補助監督たちは淡々と進められる朝礼を黙って過ごしていた。

「ちょ、名前さん!」
「あ、伊地知くん…いや、伊地知さん。今日からよろしくお願いします」
「え、あ、はい、こちらこそ…って、どういう事ですか」
「ん?そのまま。転職ってやつ」
「だって…名前さん1級じゃないですか」
「いや、元々やめようと思っててさ。夜蛾学長に相談してたの」
「……五条さんと夏油さんは知っているんですか?七海さんも」
「誰にも言ってない。言う必要なくない?」
「大ありです!」

どうして?と頭を傾げる名前。
夏油名前はつい先日まで1級呪術師として活動していた。言えばエリートで何も問題なく任務をこなし、補助監督とトラブルになる事もなく関係は良好。
何かに悩んでいた様子はなかったはずだと伊地知の記憶は証言している。
何よりあの特級の二人に何かを言える唯一の人物が同じ呪術師ではなくなると誰があの二人に何か言えよう。

「伊地知さんは私が補助監督するの反対なの?」
「そ…そういうわけではありませんが…優秀な人材が抜けるのは痛手では」
「私一人抜けたところで変わらないよ。変なの」
「変わりますよ……本当にあのお二人には言っていないんですか?」
「うん。だって一緒に今まで任務行ったのだってもう何年も前だし?驚いても反対はしないでしょ。まあ、されたところでもう私は補助監督なので」
「…………あの、その『さん』づけは」
「補助監督では先輩だし。あ、敬語も使わなとでした、すみません」
「いいです、今まで通りで」
「変?」
「私の居心地が悪いので、以前と同じにしてください」
「……そんなもんか、わかった」

うん。と頷く名前に伊地知は大きな溜息をついた。時折突拍子もない事をする人だとは思っていたが、こんなことをするとはと内心汗が止まらない。
補助監督の上の人間からは「夏油と付き合いが長い伊地知が教育係をしろ。夏油は仕事をわかっているから教育係は1週間でいいな」と押し付けられてしまった伊地知はこれかのスケジュールと伊地知が受け持つ術師のチェックを二人でする。

「早々ですね…五条さんと夏油さん」
「運転は私がしたらいいの?先輩」
「やめてください…運転はそうですね、今回は私がしますので名前さんは助手席でお願いします。名前さんがいれば必要ないと思いますが五条さんの補助監督対応についてお話します」
「…はい」
「五条さんは基本飽き性の無茶振りをします」
「はい」
「五条さんにつく場合はお菓子、限定品があるとなお良いです。動画、オモチャや一発芸などを準備してください」
「……五条くん、だよね?」
「はい五条さんです」
「…はい」
「ですが補助監督ではどうにもならない時もあります。その場合は五条さんに対応できる術師の方の同伴をお願いする方が良い場合もあります。その時は相談してください。私が良くお願いするのは名前さんか七海さんですが、名前さんは残念ながら補助監督になられたので七海さんですね。頼み込んでみますので相談してください」

名前は内心「それ私に言わなくてもいいんじゃない?」と思ったが伊地知が説明してくれるので黙って頷く。
補助監督は名前から見ても色々大変だとは思っていたがこれだと対五条がかなり難易度が高くてよく伊地知が駆り出されていた理由がわかった。先輩後輩という関係だけで押し付けられているのだと名前は悟る。そしてそこに自分が入ったのだという事も察した。
これから1週間は私と同じ行動をしてもらいますので資料を印刷します。と伊地知が手に持っていたタブレットから資料を送信され、複合機が音を出す。
吐き出される紙を眺めながら「早々に名前さん用のタブレットも用意してもらいましょう、申請のやり方ですが」と手際よくしていく伊地知。
さすが補助監督してのキャリアが長いだけある。と名前は感心してそのやり方を教えてもらった。
資料を持ち、車のカギを持って待ち合わせの場所へ行く。

「今日は夏油さんも一緒なので遅刻はないと思いますが、遅刻がほとんどなので注意してください。スマホの充電とモバイルバッテリーは常に注意してください、下手すると長丁場になります」
「はい」
「まず繋がるまでスマホを鳴らし続けなければならないので、個人のスマホでなく職場のスマホは必須です。それも申請しましょうね」

淡々としゃべる伊地知ではあるが名前にとってはその事実はあまりにひどすぎる。
それで最強だというのだから目も当てられないというところだろう。酷い人間だとは思っていたが、補助監督から見た五条は最低のクズといっても過言どころかまだ優しい表現ではないかと思ってしまう。

「あれ、姉さん…どうして」
「なんでスーツなんか着て伊地知と一緒なの?」
「今日から補助監督になりました夏油名前です。本日は伊地知先輩と一緒に業務に当たらせていただきます、よろしくお願いいたします」
「……は?」
「え、なに?名前さん補助監督に転職?ウケる」
「どういうこと姉さん、私何も聞いてないんだけど?」
「転職です」

イェイ。とふざけ半分にピースをする名前。
しかしそれに対して伊地知はハラハラと気が気ではないし、五条はプギャー!と笑っているし、一番ヤバい雰囲気を出している弟の夏油傑は「ふざけないでくれるかな」と腹の底から低い声を出している。

「そのままだよ、転職よ転職。いい年だしね、いつもまでも呪術師にこだわらなくても他の世界に行くための準備。ここで事務やら雑務経験してから一般企業にね」
「あ、そのつもりだったんですか?それなら別にスパッとやめても大丈夫なのでは?」
「慣らし作業は大切だよ?だって一般企業で一般人殴れないし」
「殴るの名前さん。ヤバい、ウケる。ひー!」
「私は姉さんが補助監督になる相談も一般企業に転職したいっていう相談も受けてないんだけど!酷いよ姉さん。説明して」
「説明なんてものはないよ。私は私がしたいことをやろうと思っただけ。恋愛ってもんも興味あるし、呪術師してるとなかなかねー」
「え、じゃあ僕のトコくる?」
「は?お前には勿体なさすぎる却下。焼却滅却消滅だ」
「それは絶対嫌。傑恐い恐い」

同時に否定するあたり家族だな。とほのぼの思うくらいの度量があれば伊地知は胃が痛くなることはないのだろうが、この場合は胃が痛いを通り越して胃がなくなってしまうような感覚が起きた。
夏油傑の姉に対する感情はいわゆるシスコンに近く、補助監督だけでなく高専に属する呪術師には「夏油傑の前で夏油名前の話は地雷」という不文律の様なものまであるくらいだ。傑本人には自覚はなくとも、周りはそう判断している。まだ機嫌良い時であればなんの心配はないのだが、地雷を踏んだ場合逃げ場がなければトラウマになりかねないと噂がある程に。

「まあそんな雑談はこのくらいにして、任務の説明に入りたいと思います。研修として私が説明させていただきます。入ったばかりでお聞き苦しい点もあると思いますが何卒ご容赦くださると助かります」

持っていた資料を読み上げる名前。その姿は流石1級呪術師をしていた貫禄を思わせる。
伊地知にしてみれば「ここでよく切り出せるな…さすが」と思いながら名前の説明に聞き入る。
本日の任務の内容、予定、行動について。基本名前はそれを受ける側だったが今回からそれを渡す側についたわけだ。名前は淡々と読み上げ、「以上」と締めくくる。

「これ、僕ら二人も要らなくない?」
「私もそう思う。でもまあ多分だけど、私用に上が圧入れたんじゃないかな」
「え?どうしてです?名前さんは別に」
「あ、上って言っても補助監督の上の方って事。私くらいでしょ?この二人に好きな事言えるの。いちいち二人の相手させるは面倒だから最初にぶつけてきたんじゃない?伊地知くんは巻き添え。ごめんね」
「酷いな、私は他の補助監督とも良好的な関係だと思っているんだけど」
「じゃあ何?僕が問題だっての?お前だって似たようなもんだろ」
「はいはいケンカしない。車乗って移動ですよお二方」
「……姉さん、後で話があるから」
「私はありませーん。運転は伊地知くんです、研修終ったら私が運転します、覚悟してね」
「ってことは、今度名前さんと二人の任務あるわけだ」
「私は補助監督だから任務の送迎とかだけどね」
「じゃあ僕名前さん指名しよ」

是非そうしてくれ。と他の補助監督がいたら全員が全員思うだろうが、名前の場合「え、ヤダ。五条くん面倒だもん」の一言で終わらされそうである。
ついでに夏油傑が不機嫌になりそうで、また他の調整も入れないとダメそうだと伊地知は一人誰にも気づかれないように溜息をついた。

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