呪術 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「名前。私と一緒に行かないか」
「行かないよ」

色々あって何とか高専を卒業した4人。
内夏油は在学中にやらかし、それでもなんとか、やっと?高専を卒業することができた。
出来たのは良いのだが、事件をきっかけに非呪術師の人間を毛嫌うようになった夏油は実の両親とさえも連絡を取るのをやめてしまった。
殺していないだけマシ、ともいえる。その事件で助けた女児の双子を10代という若さで引き取り、最初こそ高専所属という特級呪術師をしていたがフリーに転身してもう2年は経っただろうか。
フリーになってからも同期の誰かとは顔を合わせたり、五条以外には双子の姿を見せるためにあったりと何かと交流はあった。
今回も名前に会いたがっている。とう体で呼び出しがあり、実家からの自分だけでは消費できないお菓子が来たのでおすそわけだとファミレスに来たのだが、双子の姿はなく夏油がにこりと笑って手を振っていた。

「なに?ヘッドハンティング?スカウト的な?」
「そう。私実は教祖してるんだよ」
「う、うわ……」

胡散臭い噂は名前の耳にも入っていた。
夏油が宗教団体を立ち上げた、のではなく宗教団体を乗っ取った、というのだ。いや、同期が宗教団体を立ち上げてもドン引きだが、乗っ取ったというのもかなりのドン引きなのだが。
「お待たせしました」とカフェオレと限定のケーキが運ばれ、名前はそれを食べ始める。夏油はこういったところでの食事を全くしなくなったので名前だけがすることとなる。傍目は悪いが何も注文しないわけにもいかない。

「名前の結界術の腕は素晴らしいだろう?高専に置いておくには惜しい」
「で?本心は?」
「名前にブラッシングしてほしい。毎日。どうして君ほどの呪術師が高専にいるんだ?まだ冥さんと組んでいるならまだしも、高専なんて安い賃金だろう?私なら高専の数倍は出せる」
「…ブラッシングが目的?」
「うん。だって悟と硝子だけズルいじゃないか、同じ職場ですぐ名前に甘えられて、撫でれて、ブラッシングしてもらえるんだろ?私だってしてほしい」
「夏油くんが高専戻ればいいんじゃない?一番簡単だと思うけど」
「い や だ ね」

そう?と名前は食事を続ける。
季節のフルーツがふんだんに使われたケーキは十分美味しい。チェーン店とて侮れない、ファミレスだろうが何だろうがしっかりとお値段分はリサーチされている。
甘くないカフェオレと丁度いい。

「美々子と菜々子も名前を待ってるよ」
「2人じゃなくて夏油くんが、でしょ?そうやって子供使うの止めた方が良いよ」
「2人も君のブラッシング好きだよ。それにまだ幼いし、女親の存在だって」
「それ、別に私じゃなくていいよね?学生の時みたいに適当な女の人引っ掛けなよ」
「……名前、冷たくない?」
「別に?冷たくないと思いますけど?用事ってそれだけ?」
「え、うん、まあ…そうだね。名前に私のところに来てほしい」
「お断りしまーす。私別に高専で困ってないし」
「私たちにブラッシングしてよ」
「夏油くん提携したらいいんじゃない?特級の夏油くんが提携先なら誰も文句言わないでしょ。五条くんも高専所属だし」
「どうして私が猿のために」
「とうことで、この話はお終い。これ食べたら私帰るね」

そ、それは困るよ名前。という夏油。
でも私困らないし。と名前は続ける。
夏油ほどの男性であれば、彼の望む女性は引く手あまただろう。そこに呪術師の、を付ければ狭き門であるが。そんなことは名前には関係がない。
夏油が非呪術師嫌いであっても名前には関係のない事だ。

「………悟のブラッシング、してるの?」
「昨日頼まれたからしたよ。硝子は3日位前かな、最近怪我人多くてクマが酷いよ」
「私なんて、もう1月以上もしてもらってない」
「しなくても死なんでしょ。趣向品みたいなものなんでしょ?私お酒もたばこもしないし、お菓子も我慢できるし」
「……ストレスで猿殺しそう」
「お、呪詛師宣言ですか?五条くんに報告しとくね」
「やめて」
「…ごちそうさま」
「私もブラッシングして」
「ファミレスではちょっと」

まあ夏油の考えとしては名前のブラッシング技術を気に入っているので、ついでに呪術師とてもスカウトしてブラッシングを独り占めにしようと言うくらいだろう。
名前だって察している。
むしろ今まで言わなかったのが不思議なくらいだ。
学生の時から3人にブラッシングを迫られ、いつしか甘えられるくらいにはなってしまった名前。そのうちの1人がフリーに転身して、その1人が今まで黙っていたのが不思議なのだ。
家入も五条も、3人で飲食するたびに「あの夏油が黙っている」「傑そろそろ名前に会いたーいって騒ぐよ」と誰かしら話題にあげるくらいには、学生の時から名前にべったりだった。

「私の尾、綺麗だって褒めてくれたよね?耳も可愛いって」
「今でも思ってるよ」
「本当?」
「名前、嘘言わない。夏油くんの尻尾、綺麗。耳、可愛いね」
「何その言い方」
「意味はない。あ、そうだ。これ双子ちゃんに。実家からお菓子来たんだけど消費しきれなくて」
「ありがとう。今日実はブラシ持って来てるんだ」
「へー。そうなんだ。じゃあ私帰るね、おつー」
「じゃないよ、帰るなよ」

ブブブと名前のスマホが何かの着信、受信を伝える。
バッグから取り出してみれば「五条 悟:今どこ?暇ならブラッシングしてくんない?ストレスでパッサパサ」と来ている。

「誰から?」
「五条くん。今どこ?だって」
「悟?どうして」
「夏油くんと同じ理由だよ。ブラッシングしてって」
「昨日したんだろ?ならいいじゃないか」
「どこかの誰かさんもしょっちゅうおねだりしてましたけど」
「……抱っこされてた猫が羨ましくて」
「そういう事で私帰るね」
「え」
「双子ちゃんにお菓子ちゃんとあげてね。今日優のご飯とか届く日だから」
「…私も行く」
「え」
「私も名前の部屋今から行く。そこならブラッシングしても良いでしょ」
「双子ちゃん、いいの?」
「大丈夫。信頼のおける人間に見てもらってるから」

こうなってはどうにもならない。そうわかっているので名前は無言で立ち上がって伝票を持つ。
お会計をしようとすると横から現金が表れてトレーの上。これもいつもの事だ。
だからと言って名前だって支払わない意思があるわけではない。前に「これま前金という事で。いつもより少しブラッシングサービスして」と強請られたのだ。そういう事、なのだろう。
一緒にファミレスを出てから名前はスマホを取り出して五条に電話を掛ける。

『え、傑いんの?』
「うん。ちょっとあって」
『じゃあ傑の呪霊使って戻ってくれば?電車とかタクシーより早いじゃん』
「え」
「どうしたの」
「五条くんが夏油くんの呪霊で戻れば早いって」
「そうだね、そうしよう。買い物あるなら付き合うよ」
「え、本当?トイレットペーパーとティッシュと保存食が欲しい」
『僕におねだり?いいよ』
「夏油くんが荷物持ちしてくれるって」
『僕迎え行こう?』
「結構だよ悟。じゃあね」
「あ」
「はい。どこで買うの?」

プツンと切られた通話。名前のバッグに勝手に押し込んでくる。
学生の時はこんなじゃなかった。というのがお互いの認識だろう。
名前が「あのスーパーが今日ポイント還元がいいから、そこ行って、保存食は品揃えのいいところがいい」と言えば「付き合うよ」と返事が返る。
呪霊をそんなことに使っていいのか、と聞きたい部分はあるが恩恵にあずかる以上面倒なことは聞かない方が良いというのは名前は学んでいるので、黙ってその恩恵に預かる。
買い物が終わり、呪霊操術の恩恵を受けて高専付近に降り立ち、2人で歩いて高専に入る。
本来であれば部外者である夏油が入るには手続きが必要らしいが、今までそんなものは見たことがない。アラームもすれ違う補助監督も、学長さえも何も言わないのは暗黙の了解なのだろう。名前もいちいち申請してとは言ったことがない。

「苗字さん、お荷物届いていますよ」
「ありがとうございます。運びます」
「私が持つよ」
「助かるー」

自室に向かう途中、事務仕事をメインに行っている補助監督に会い、荷物が届いていると告げられて事務室に向かう。
基本的に時間が読めない所属の呪術師の代わりに荷物の受け取りまでしてくれるのだから有難い。教職員だけでなく、言えば住処に興味のあまりない名前の様な人間も格安で寮の様に住居を提供してくれて配達の世話まで。任務はクソだが待遇は悪くない、と名前は思っている。
猫の餌が入った段ボール箱を受け取っていると、にゅっと五条が姿を現す。
彼の事だから夏油の気配を感じてやってきたのだろう。オフらしく私服だ、珍しい。

「マジで荷物持ちしてんの?」
「ご褒美が欲しくてね」
「ふーん?ねね、名前暇だよね?暇でしょ」
「暇じゃないよ」
「なんで傑が答えるんだよ」
「昨日してもらったんだろ?」
「げえ。名前、傑にバラしたの?」
「聞かれたから答えただけですよ」

夏油の荷物を横取りするでもなく、名前にまとわりつく五条。
これも高専ではある意味見慣れた光景なので補助監督は何も言わないし、言わせない。
名前がいた学年は名前だけが混ざっておらず、他3人にブラッシングをしていたのは有名な話。あの狂犬どもの飼い主、と裏で言われていたらしいが名前はそれを知らない。
歩いて名前の自室の前まで行き、鍵を開ける。
「ただいま」と名前が声をかけると奥からゆっくりと猫が出てきて出迎える。

「寝てたの?寝ぐせついてる」
「なんかくたびれてない?」
「お年なので。優、新しい段ボールいる?入る?」
「荷物置こうよ名前」
「ねーえー、ブラッシングしてよ名前」
「はいはい後でね。はーい抱っこね、抱っこ抱っこ」

猫をひょいと抱き上げて、まるで赤子をあやす様にポンポンと撫でてリビングへ。
言えば混ざっていない人間、いや、動物を飼っていて、その動物を可愛がる仕草の一つでしかないが、今の2人にとっては酷く羨ましいもの。いいなー、いいなーと名前の後ろからアピールをするが、名前は慣れているので丸っと無視をしている。
荷物そこに置いてくれる?ありがとう。助かった。と人を使う名前。学生の時では考えられないが、まあ人間生きていれば図太くなってもおかしくはない。

「あ、じゃあ五条くん優抱っこしててくれる?先に夏油くんのブラッシングするから」
「えー」
「じゃあ夏油くん抱っこしてあげてくれる?抱っこしててほしんだって」
「わ、私?猫は、抱いたこと、あんまり…」
「人間の女ならあるけどな、僕ら」
「はいはい。じゃあブラッシングなしでいい?」
「えーヤダ」
「私が抱いても文句言わない?猫」
「私に害がないってわかってるから、大丈夫だと思うよ」

うーん。と悩んで頷き、先にブラシを出してから猫を受け取る。
名前が抱いていると大きく見えた猫も、夏油の腕ではなんだか小さく見える。
抱かれた猫にゆっくり五条が人差し指を近づけると、猫もゆっくりその匂いを嗅ぐ。

「おお」
「猫、丸くなったね」
「2人とも猫の扱い知らなかっただけでしょ?やたら目の敵にしてたじゃない」
「ブラッシングしてほしいのに猫が邪魔してたし」
「そうそう。でも、学生の時からこうやって抱いていたら私達もっとされてたってこと?」
「あ!それありえる」
「まあ優が嫌がらなければね。夏油くん、尻尾出して」
「うん」
「次、次僕だからね名前」
「はいはい」
「どうして私の喉は鳴らないんだろう…」
「あ?」
「だって猫みたいに鳴ればさ、名前に気持ちよさが伝わるわけだろ?」
「…僕、喉、鳴るわ…」
「え、君そんなことまでできるの!?あ…そこ、そこ気持ちい…」
「キッショ。そうか、鳴らせばいいのか…こんな無駄な機能って思ってたけど、そうか…名前、猫好きだもんな。猫科全面に出して行こ」
「あー…あ、…そこー…気持ちい…」
「硝子は学生の時から喉鳴ってたよ」

五条くん猫科だけど鳴らないのかなって思ってた。と夏油をブラッシングしながら言えば、2人は家入の頭の良さに内心で引いていた。
確かに医療という分野でストレスが溜まるだろうが、そのために既に使っていたのかその手を。と。

/