呪術 | ナノ
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「…硝子?」
「なに」
「…………」
「見せもんじゃねーぞ」
「いやー…名前もいいの?」
「んー…硝子、疲れてるんだって」

困ったように笑いながら問うてくる夏油を見上げる。
共同スペースと言いつつも特級が2人の他人に反転術式が施せる人間がいる学年の私室の様な扱いになりつつあるその部屋。
少し前は各自の部屋にいることもあったが、名前を中心にブラッシング同盟ができたが故にそこがたまり場となってしまった。
そのソファの一角、名前が座るそこに家入が膝枕をしてもらう側にブラッシング。言えば混ざっている人間である夏油が羨ましくて仕方がない状態になっている。

「…猫は?」
「私」
「名前の、だよ」
「今お散歩してるよ」
「………それ、いつ終わる?」
「お散歩は気分だから」
「そっちなじゃくて、硝子の。次、私もして。膝枕も」
「え」
「セクハラだぞ」
「だ、だって!羨ましいじゃないか!私もそうやってブラッシングしてほしいっ!」
「そこらの女か混ざってない奴にしてもらえ」
「硝子と、同じは…ちょっと……」
「五条は?」
「今先生の呼び出し。悟来たらもっと煩くなるよ」
「げー。」

むくっと起き上がって名前の胸に頭を擦り付ける家入。猫の甘えた仕草の一つ。
名前も慣れているのか「よしよし」と撫でている。
同性である、女子同士。言えば戯れのひとつ。そう、戯れの、ひとつ。そして友達としてもおふざけでもある。
それがたとえ夏油や五条に対する牽制だとしても、2人にとってはコミュニケーション。そう、名前にとっても。

「知ってるか?名前の胸は柔らかい」
「胸って柔らかいでしょ?硝子も柔らかいよ」
「乳繰り合ってんの?2人」
「女子同士で触りあったりすんだよ」
「冥さん大きいの」
「わかる」
「夏油くん、着替えないの?また任務?」
「あ、いや……私もブラッシングして」
「今私がしてもらってんだろ」
「イチャついてるの間違いだろ…着替えてくるから、次私」

共同スペースからでて自室に向かう途中に五条がイライラとした様子で来たのが見えた。
声を掛ければ先生からの呼び出しで実家から電話があったとのこと。
御三家の当主ともなると嫁やら跡継ぎやらと色々面倒なのだそうだ。
それこそ御三家ともなれば嫁は混ざっている方が良いのかと思えば、それは問わないらしい。

「名前、共同スペースに居るよ。硝子も一緒」
「まっじで!こうなったらブラッシングしてもらわないと落ち着かねえ」
「2人でラブラブしている」
「あ?」
「いちゃついてんの。硝子がこれ見よがしに!」
「乳繰り合ってんの?」
「そう。硝子本当に名前の胸触るから私驚いちゃったよ。柔らかいって」
「乳なんて大抵柔らかいだろ、偽物じゃなけりゃ」
「そこ?」
「あ?」
「硝子、名前に膝枕してもらいながらブラッシングしてもらってたの」
「なんだよその特盛!乳繰り合うって、そっちかよ」
「なんだと思ったの」
「女同士いちゃつくのなんてよくあるじゃん、それ」

歌姫と硝子もしてるし、歌姫と名前もしてんじゃん。と案外冷静な反応。
同性同士でいちゃつく、というよりもじゃれ合うのはまあおかしい事ではない。ましてこの少ない人数で仲良くしないほうが難しいだろう。わざわざ足の引っ張り合いをする意味はないのだ。ならば助けあった方が合理的だ。
特級である、を除けばただの学生でしかない。
硝子ばっかりズルくね?という五条の言葉には夏油も頷くしかない。
確かに名前の飼っている猫は別枠ではあるが、家入も五条も夏油も同じであるはず。そこに男女の違いがあったとしても、混ざっていない人間にヨシヨシされたい欲は同じだ。ついでに名前は各々の好みに合わせて力加減を変えているのがポイントが高い。
2人は自室に戻ってから着替え、ブラシを持って共同スペースに向かう。

「じゃ、クズ2人に変な事されんなよ」
「あれ?どうしたの」
「怪我人が出たんだと。呼び出しだよ」
「今から?大変だね…」
「本当にな…」

イライラとした様子で自分のブラシを握ってスペースから出て行く。
怪我人や呪いに中てられた人間の治療に引っ張り出される家入は不憫だと特級2人は思うし、それ以上に働かされる自分はもっと大変だ。
五条曰雑魚の名前は任務の内容も簡単で楽でいいなとは思うが、名前も名前でこき使われているのは知っている。

「名前!」
「ブラッシング!ブラッシング!」

まあそんなのはいつもの事で、今更言ったところで変わらない。
それよりもたまりにたまったストレスを家入の様に可愛がられて発散させたい。外に遊びに行くのも、どこかの知らない美女をひっかけるもの楽しいが、混ざっている人間にはこれが一番効果がある。

「「あ」」
「さっき戻ってきたんだ」

んに。と名前の膝の上でくつろぐ猫。
名前の猫だ。黒くて立派な猫。
いつも、いやほとんどそうだ。家入の時は邪魔はしないが大抵五条か夏油がブラッシングだと喜んで名前に寄っていくと居るか出てくる。
名前の腕に抱かれたり、撫でられたり、ブラッシングしてもらったり。よしよし、何て言ってもらって可愛がれているのだ。そう、混ざった人間である2人にとっては羨ましいことをしてもらっているのだ、山ほど。

「硝子行っちゃったし、部屋行こうか」
「「駄目!!」」
「え…」
「ブラッシングしろ!」
「ブラッシングして!」
「硝子と猫ばっかズルい!!俺の、尻尾をブラッシング!!耳も!!撫でろ!!」
「私の尾が綺麗だって褒めてくれたんだから私の尾もして!耳だって可愛いって!!」
「名前、俺の尻尾はふわふわだぞ」
「私の尾はさらさらだよ」
「そもそも硝子ばっかズルくね?」
「そうだよ、私たちも友達だろ?」
「…………」
「このもっふもふの、尻尾!」
「サラサラの尾!」
「触りたいだろ?」
「触りたいよね?」
「……ええ……」

ずんずんずん。と名前に迫る大男2人。
すると名前の膝の上にいた猫が「うううー!!!!」と唸り声をあげる。
そうだ、猫がいる時にはそういう争いはしない、という約束事がある。
2人は「っう」と飲み込み、名前から一歩離れる。ただ尾は不満そうに揺れてはいるが。

「大きい声驚いたね」
「いや今普通に威嚇じゃん。いーよな、オマエ。無条件に名前に膝乗せてもらって撫でてもらってブラッシングじゃん」
「硝子にも甘いよね、君。別に私達名前をイジメようってことはしてないんだけど?」
「硝子、女の子だもんね。歌姫さんも冥さんも」
「じゃあ悟子になる!悟美でもいい」
「え」
「じゃあ、スグ美!スグ江、スグ子でもいいよ!ほら、私髪長いし」
「…え?」

ほらほらほら。と言わんばかりに、まるで威嚇。どこをどう見ても、女子には見えない。
2人はまるで示し合わせたようにサッと身を低くして、下からじりじりと名前に近づく。
ふわふわの耳と、しなやかな耳がぴょこぴょこぴんぴんと動き、名前の心を揺さぶる。
か…かわいい。と名前の口から賛辞の言葉が漏れる。いや、名前自身賛辞しているつもりはないが、2人にとっては「可愛い」は賛辞だ。

「かわいいでしょ?」
「かわいいよな?もう撫でるかないよな?」
「わああ、こら、優。シャーしないの」
「そうよ傑くん、シャーなんて」
「今私に向けていっただろ悟」
「なんのこと?悟子わかんない」
「私馬だから、そんなシャーなんて品のなことしないよ。どこぞのユキヒョウじゃないんだ」
「あ?」
「け、ケンカは、なしで…お願いします」
「するわけないだろ、俺達最強だぞ」
「うんうん」

代わり身早いな。という名前の内心はさておき、2人の尾はぴんぴんと揺れる。
ぐるるるると小さく唸っている猫を名前は撫で、どうしたらいいのか悩む。
名前も忙しいし家入も忙しい。ついでに特級2人となるともっと忙しい。
名前だってストレスが溜まるし、目の前の2人も溜まるだろう。
混ざっていない人間に、混ざっている人間のブラッシングの良さはわからない。とてもいいものだ、というのは2人、いや3人を見てわかる。
混ざっていない人間にはわからないもの。多分それは飲酒をしない人間が飲酒の良さをしらないとか、煙草とかそういうもの。というのは知識としては持っている。
ついでにそういうブラッシングはスキンシップに該当して、仲のいい、信頼がおける者の間柄という条件もある。
名前自身家入とは仲が良いとは思うが、男子2人となると、まあまあそれなり、という程度だと思っている。でも実際ブラシをもって甘えてくるのは悪い気はしない。意地悪な部分はあるが、最近は緩和されているのでお互いにいい影響がある、という事なのだろう。
「さて、どうしよう」とまた名前は悩み、膝の上の猫が名前にしがみ付くように甘えてきた。

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