呪術 | ナノ
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人口のおよそ1/3には人間以外の動物が混じっている。
人間以外の、とは言ってもその特色が強いだけであって正真正銘の人間である。「混じり」などと言われる人間は基本的に身体能力が高いだけの人間であって、それ以外は何も変わらない。
小規模な大会から世界規模の大会まで、「混じっていない人間」と「混じっている人間」は同じ大会に出場はしない。圧倒的に強い相手にどうしても勝てないからだ。
しかしそこで「混じっている」人間を排斥するのは人道的でも倫理的でもないという考えから分けられたのだ。時たま「混じっていない人間」から「混じっている人間」のような記録がでれば即座に再度検査され、本当は「混じっている」とわかれば即刻その記録は破棄され次大会からはそちらへと移動させられる。
見た目は基本的に人間であるが、「混じっている」人間は動物の耳やら尾を出すことができる。それは意図的に出したり引っ込めたり、それができるのか個人差がかなり大きい。しかしその出したり引っ込めたりができるから優秀だとか、出しっぱなしだから力が強いという事もない。また、それが仕舞えないとしてもマナー違反だと怒るようなことでもないのだ。
そういう「混じっている人間」は予測不可能なことに出生するまでわからない。立派なものが付いていればエコーなので確認も可能だが、出したり引っ込めたりもまた赤子のあるのかないのかわからない意思で変わるのだ。

当然呪術師にもその「混じっている」人間は普通に存在する。
ただ一般的な社会と違うとすれば、その「混じっている」人間が多い事。他警察官や消防士など体が資本となる職業でも言えるがそいうい人間が多い職種というものは存在している。それが呪術師にも該当するというだけだ。それに関連する補助監督は一般企業と同じで「混じっていない」人間が多い。
現在都立呪術高専のある学年には特級呪術師が2人在学している。同級生は他に女学生が2人。4人中3人は混じっており、1人は混じっていない。
混じっているのが五条悟、夏油傑、家入硝子。混じっていないのが苗字名前。
戦闘で前にでるのが家入であればちょうどいいのだが、生憎彼女は他人に反転術式が使える重要な人材であり、サポートに徹するが故に宝の持ち腐れになりつつある。しかしながら医療の現場でも力仕事は多く、その点で言えばポテンシャルは発揮されるだろう。



「なにしてるの?」
「わ。げ、夏油くん…任務終わったの?お疲れ」
「うん。なにしてるの?あ、猫」
「スグルのブラッシングしているの。今日天気良いでしょ?ブラッシングしようねって連れてきたの」

丁度いい日向。日差しも強すぎもなく、気温も過ごしやすい。
任務もない名前はゆったりとした私服に少し大きくて履きやすいサンダル。手には猫用のブラシに抜けた毛を入れるビニール袋。足元には黒い猫がくつろいでいる。
名前の飼い猫である優(スグル)は名前を追いかけて遠路はるばる高専までやってきた凄い猫。基本的には賢いので駄目だと言われた事はしないし、学生や職員ともちょうどいい距離を保って過ごしている。

「ブラッシング…」
「?うん。あ、こら優、そんなところでしないよ、こっち来て。日陰でしようよ」
「………」
「そこお尻付けないから駄目。こっち来て。あーもう、そんなところでコロコロし始めたー」

そこがいいの?仕方がないなー。と名前の楽しそうな声。そこにしゃがみ込み名前は愛猫のブラッシングを開始する。
夏油傑は混ざっている。対し苗字名前は混じっていない。
混じっている人間と混じっていない人間。
体力と力がある混じっている人間と、それに比べて非力な人間。
そこに不和が生じないのには理由がある。
混じっていない人間には、混じっている人間にとっての癒しがあるのだ。
スキンシップというのだろうか、褒めてもらったり撫でてもらったり。それには混じっていない人間が想像もできないほどの魅力があるらしい。
混じっている人間と混じっている人間が褒め合いをしても、混じっていない人間からさらりと「あ、すごいね」と何気ない一言には絶対に勝てないらしい。

「気持ちいいですかー優くん」
「ねえ名前」
「うわっ…あ、あれ?部屋、戻ったんじゃ…?」
「私もブラッシングして」
「へ?」
「私も、ブラッシングして。尻尾だすから尻尾して。あと髪も」
「え、ちょ、いや…私、今、優、のを…」
「私も傑だしいいよね、うん、いいよ。はい」
「え」
「猫の優にも許可貰ったし」
「え、…ええー…?」
「私混じってるからわかる」
「いや、混じっててもわからないでしょ…?」
「わかる」
「…優、嫌な顔してるよ…?」
「譲って」
「………」
「譲って」

ふん。と呆れたと言わんばかりの顔をして猫の優はゆっくり起き上がって、ここ最近のお気に入りスポットの少し高いところに上ってくつろぎだした。
どうやら「うるさ。まあ少し貸してやるから静かにしろよデカいの」と言わんばかりの行動。
猫のためにあえて言っておくが、猫の優は飼い主である名前の事は大好きである。
しかしこの黒くてデカい方が面倒くさそうであるが故に逃げたのだ。同じ人間同士でイジメることもない相手であれば、まあ自分との時間を邪魔されたとて、それ以上にプライベートな時間は一緒なので嫌な顔で済ませている。

「名前、尻尾ブラッシングして」
「えっ、し、尻尾?」
「何か問題ある?」
「あ、ありまくりでは!?尻尾って、混じってる人にとっては結構なデリケート、えっとプライバシー?なんでしょ?彼女とか、そういう人、いるでしょ?」
「いないからいいよ、安心して」
「い、いや…安心、には、ならないよ?」

混じっている人間の動物の部分、耳であったり尾であったり、人によっては手足や爪であることもある。それは基本的にプライベートゾーンなどと言われ、家族や親しい間柄でなくては基本的には触らせない。
もちろん混じっていない人間でそれをカウンセリングするプロはいるが、生憎名前はタダの学生でそれを専攻しているカウンセラーの卵でもない。
同じ学年の4人中3人が混じっていて名前が混じっていない状況を見れば、名前は必然と太鼓持ちになるしかないが、そこまでを負う理由はない。

「はいこれ私のブラシ。これ、私の尻尾」
「え、ええええ……」
「えええじゃないの。はい、して」
「…で、でも…」
「何か文句あるの?ああ、名前の事だからそういう関係じゃないとか言うのかな。じゃあ今から私たち恋人ね。硝子は褒めたりスキンシップしてもいいけど悟は駄目だよ」
「え!?あ、…いいです、友人のままで居たいです。夏油くんお疲れみたいなので、混ざってない人間のお仕事します」
「………そう?じゃあ尻尾終わったら髪もして」

名前に背を向けて、長い脚は胡坐を組み、尾てい骨のあたりから艶やかな尾が流れでた。
夏油の髪色と同じく黒く、艶が良い。混ざっていない名前でもとても立派な毛並みだというのが分かる。同じく黒い色をしている優も綺麗だと思っていたが、夏油の黒い毛並みにはあと一歩及ばない。

「夏油くん、馬?」
「そう、私馬なんだよ。珍しいだろ?」
「じゃあ、耳も?」
「当たり前だろ?馬なんだから」
「わ…!可愛い」

ぴるる。と震えながら出てきた馬の耳。思わず名前が声を上げると名前からは見えなかったが、夏油は満足そうに笑う。
混ざっていない人間からの賛辞は何よりも嬉しいもの、なのだ。

「じゃ、じゃあ、尻尾、ブラッシングする…けど」
「うん、優しくね」
「…お馬さんの尻尾って、ブラッシングしていいの?」
「本当の馬は知らないけど、私はいいの。あ、付け根は避けてくれる?」
「う、うん……このあたりから、下まで?」
「もう少し上からでいいよ、うん、そのあたり」

夏油から渡されたブラシは名前から見ても上等なブラシ。
名前が猫に使っているプラスチックのブラシとは大違い。
まあ人間用だし、特級だし、夏油はこういう所には金をかけるタイプなのかもしれない。
名前の家族で祖父が唯一の混ざりだったが、その祖父もかなり前に亡くなっているので身内での混ざりとのかかわりはあまりあった方とはいえず、想像でしかないが。

「し、失礼します…こんな、力加減で大丈夫?痛くない?」
「大丈夫。ちょうどいいよ」
「綺麗な毛並みだね」
「だろう?こだわってるんだ」
「夏油くん髪も綺麗だもんね」
「身綺麗にしているとウケがいいんだよ」
「わ、打算的だね」
「実際私身体大きいし混ざってるし、混ざってない人間とか普通の体型の人間からすると怖いだろ?身綺麗にしておくと印象が良いしね」
「ヤンキーみたいな格好だと、ビビられるって感じ?」
「ちょっと違うけど……まあ、意味合い的には似てるかな?名前だってパッサパサの髪と艶がある髪だったら艶のある方がブラッシングしたいだろ?」
「んー?そうなの、かな?」

混ざった人のなんて、そうする機会ないし。と困ったように笑ってごまかした。

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